(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

将来もらう年金額を大きく増やす方法の一つとして、年金の「繰下げ受給」があります。年金をもらい始めるのが通常より遅くなる代わりに、一生涯にわたって年金が増額されます。ただ、手取り額で考えると、想定より増えないということも起こり得ます。本記事では、70歳で繰下げ受給を選択した元サラリーマンのモデルケースをもとに、繰下げ受給の仕組みと手取り額をFPの服部貞昭氏が解説します。

70歳元サラリーマンの「年金繰下げ受給」シミュレーション

【モデルケース】
・性別:男性
・年齢:70歳(会社員として43年勤務・65歳定年退職)
・東京都新宿区在住
・無職、収入は公的年金収入のみ
・本来の受給見込み額:月17万円(老齢基礎年金+老齢厚生年金)
・本来の受給開始年齢:65歳
・70歳からの「繰下げ受給」を選択

この元サラリーマンのモデルケースでは、65歳から受給開始の場合、本来は額面金額で月17万円、年間204万円の年金をもらうことができます。

ここで、65歳から受給開始せずに、70歳繰下げ受給を選択すると、年金の額面金額は、月24万1,400円、年間289万6,800円に増額されます。

ところが、実際に振り込まれた1ヵ月分の金額は約20万4,600円、年間で換算すると、約245万5,200円でした。想定していた金額より、約15%少ない金額です。

年金の額面金額から税金と社会保険料が差し引かれて振り込まれることは知っていても、実際に振り込まれた手取り額を見て「ここまで引かれるとは想定していなかった」と後悔するかもしれません。

男性の平均寿命をオーバー…手取りベースの「損益分岐点」は84歳に

繰下げ受給では、当初は、70歳受給開始の累積受給額よりも、65歳受給開始の累積受給額のほうが多くなります。

しかし、「損益分岐点」の年齢を過ぎると逆転し、繰下げ受給のほうがお得になります。70歳受給開始の場合の損益分岐点は、額面の金額で考えると、81歳11ヵ月です。

ところが、上記のモデルケースでは、手取り額で損益分岐点を計算すると、84歳2ヵ月になります。男性の平均寿命(81.09歳:2024年時点)をオーバーしています。

最大で84%の増額も…知っておきたい「繰下げ受給」の仕組み

「繰下げ受給」では、66歳〜75歳の間、1ヵ月単位で、年金を受給開始するタイミングを自由に選択することができます。年金をもらい始めるのが遅れる代わりに、年金が一生増額されます。

年金の増額率は、繰下げ1ヵ月あたり0.7%です。1年繰下げて66歳から受給開始した場合、増額率は8.4%となります。最大10年繰下げて、75歳(※)から受給開始した場合の増額率は84%です。

※1952年(昭和27年)4月1日以前に生まれた方は、繰下げの上限年齢は70歳で、増額率は最大42%。

年金収入金額が多いほど、税金・社会保険料も多く引かれる

公的年金収入が一定金額を超えると、所得税や住民税が発生します。年金収入金額が多いほど、税額は多くなります。また、健康保険料や介護保険料も、収入金額に応じて多くなります。

上記のモデルケースでは、65歳受給開始の場合の、公的年金の手取り額(65〜74歳)は、月額約15万1,200円、年額約181万4,400円です(税金・社会保険料は東京都新宿区、2026年3月時点の税率・保険料率で計算)。

一方、70歳繰下げ受給開始の場合の、公的年金の手取り額(65〜74歳)は、すでに掲載したように、月額約20万4,600円、年額約245万5,200円となります。繰下げ受給による、手取り額ベースでの増額率は約35.3%です。額面ベースでの増額率42%より少ない増額率となります。

一生涯にわたって年金増額!「繰下げ受給」最大のメリット

繰下げ受給の最大のメリットは、一生涯、年金が増額されることです。75歳まで繰下げると額面金額で84%増額されます。長生きすれば、累積受給額は大きくなります。

また、受給開始する年齢を、最初に決める必要はありません。65歳時点で年金受給の手続きをしなければ自動的に「繰下げ待機期間中」の状態になります。そして、年金をもらいたいタイミングになったら、その時点で年金受給の手続きをすれば、増額された年金をもらえます。

また、繰下げをやめたいときは、最大5年前までさかのぼって年金を一括でもらうこともできます(ただし、さかのぼった時点の増額率となります)。

待機期間は“無収入”に…「繰下げ受給」のデメリット

一方、繰下げ受給の最大のデメリットは、想定より早く亡くなると、十分に年金をもらえず損をすることです。

また、すでに述べたように、額面金額が多いほど税金・社会保険料の負担も増えるため、手取り額の増額率は想定より少なくなります。

他にも、いくつかのデメリットがあります。たとえば、繰下げ待機期間中は、加給年金や振替加算を受け取ることができません。

また、繰下げ待機期間中の自己資金が必要です。65歳以降も働いて収入を得るか、それまでに十分な資金を貯めておく必要があります。

【CFPの助言】繰下げ受給は「額面」ではなく「手取り額」で考えよう

繰下げ受給は、一見すると「年金が増額される」のでお得に感じますが、手取り額では、想定より増額されない可能性があります。70歳以降まで繰下げる場合は、手取り額がいくらになるかを試算しておくとよいでしょう。

また、繰下げ受給を検討する場合は、健康状態、貯蓄の状況、老後の自身およびパートナーの収入なども含めて、トータルで老後の生活と資金設計をしたうえで、決断することをおすすめします。

服部 貞昭

ファイナンシャル・プランナー(CFP®)

新宿・はっとりFP事務所 代表

エファタ株式会社 取締役