【元横綱・稀勢の里コラム】ケガが目立つ幕内上位力士 また強くなれる絶好の機会
訃報を知り、ただただ残念でなりません。春場所期間中の3月15日に先代二所ノ関親方で元大関・若嶋津の日高六男さんが69歳で亡くなりました。私の師匠で第59代横綱・隆の里の弟弟子でもあり、私が現役時代には一門の連合稽古などで、時には厳しく、時には愛のある言葉をかけていただきました。横綱に昇進した時には、審判部長として私を推薦していただき、2022年に一門の大看板「二所ノ関」を託され、背中を押していただきました。長男・勝信さん、長女・愛里さんとも仲良くさせてもらい、日高さんの弟子、道轟、流馬(ともに現放駒部屋)は私だけでなく大の里の付け人も務めてくれました。これも何かの縁です。今後は二所一門のさらなる発展に貢献していければと強く思います。ご冥福をお祈りします。
春巡業も始まりましたが、大関・安青錦の故障離脱というニュースを耳にしました。大の里も昨年九州場所で左肩を痛めましたし、若隆景も右肘のケガで巡業を休場。ここ数年、幕内上位のケガも目立つようになりました。相撲の場合は激しいコンタクト競技でもあり、150キロ超の肉体がぶつかる衝撃は交通事故に匹敵するものがあると言われています。しかも年間6場所90日間でオフらしいオフがないスケジュール。常に最高のコンディションを維持するのは至難とも言えます。
以前に比べて日本人も足が長くなるなど体形が変わっている傾向もあり、それに伴いケガの種類も変わってきている印象を受けます。それでも現役時代からケガに強い体づくりとして稽古場でしっかり体を鍛えるという意識で取り組んでいました。稽古などで体をぶつけ合う鍛錬を重ねることで丈夫な肉体をつくる。もちろんケガをしない相撲を取ることも重要です。前に出る相撲を心がけていればリスクは減りますし、下がって強引な体勢で投げを打ったり、土俵際で無理な体勢を取ると大ケガにつながる恐れは多くなる。私も新横綱場所だった2017年春場所の日馬富士戦で一方的に下がったことが大ケガにつながりました。
ケガをして何を感じ日頃の鍛錬にどう生かすか。力士はケガをして強くなる、の言葉もあります。私の弟子で昨年、右膝前十字靱帯(じんたい)断裂の大ケガを負った古田(三段目)は復帰後の相撲ががらりと変わりました。ケガの功名というべきか、下がる相撲だと膝に負担がかかるから積極的に出る相撲が増加。相撲内容も良くなっている相乗効果を呼んでいます。
春場所で綱獲りが絶たれ負け越した安青錦、早々と途中休場した大の里にとっては、苦しいですけどさらに強くなれる絶好の機会と前向きにとらえてほしい。相撲人生が大きく変わる時でもあり、あの時のケガがあったから今がある、と言えるよう逆風を追い風にできることを期待しています。 (元横綱・稀勢の里)
