(※写真はイメージです/PIXTA)

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高齢期の住まいとして介護施設を選ぶ人は増えています。家族の負担軽減や安全な生活環境を求めての選択ですが、「一度入れば最期まで安心」というイメージとは異なり、状況によって退去を求められるケースも存在します。厚生労働省の資料でも、介護施設から医療機関や別施設へ移る例が一定数あることが示されており、住まいの継続性は必ずしも保証されていません。

「終の住処」のはずが…突きつけられた「施設退去」

「申し訳ありませんが、このままのご入居は難しい状況です」

そう説明を受けたのは、誠一さん(仮名・79歳)と、その長女の由紀さん(仮名・52歳)でした。

誠一さんは数年前に妻を亡くしたあと、一人暮らしを続けていました。しかし転倒をきっかけに体力が低下し、日常生活にも支障が出るようになったため、家族の勧めで有料老人ホームに入居することになりました。

年金は月約17万円。大きな貯蓄はありませんが、自宅を売却した資金とあわせて、入居費用は何とか賄える見込みでした。

「ここなら安心して暮らせると思ったんです」

入居当初、誠一さんの生活は落ち着いていました。食事は提供され、見守りもある。由紀さんも「これでようやく安心できる」と感じていたといいます。

しかし、入居から半年ほど経った頃から、変化が見え始めました。

「夜間に何度も起きてしまったり、施設内を歩き回ったりすることが増えてきたと連絡を受けました」

いわゆる“見守りの範囲”を超える対応が必要になりつつあったのです。施設側も、最初は様子を見ながら対応していました。しかし次第に、職員の負担が増えていきました。

「他の入居者への影響も出始めていると説明されました」

そして、ある日呼び出された面談で、冒頭の言葉を告げられたのです。

「正直、耳を疑いました。ここで暮らし続けられると思っていたので」

由紀さんは、その場で問い返したといいます。

「でも、こういう状態になることも想定して受け入れていただいたのではないんですか?」

施設側は次のように回答します。

「当施設では、医療的・介護的な対応に限界があります。より適切な環境への移行をご検討いただきたいのです」

つまり、現在の状態では施設の受け入れ基準を超えている、という判断でした。

厚生労働省の介護保険制度では、施設の種類ごとに対応できる介護度や医療対応の範囲が異なります。特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームなどでも、状態の変化によっては、より手厚い医療・介護体制を持つ施設への移行が必要になる場合があります。

「“出ていってほしい”と言われているようにしか聞こえませんでした」

問題はその後でした。新たな受け入れ先が、すぐには見つからなかったのです。

「行き場がない」…施設間の“すき間”に取り残される高齢者

退去の期限は約1ヵ月後と提示されました。由紀さんは急いで他の施設を探し始めましたが、状況は想像以上に厳しいものでした。

「問い合わせても、“その状態だと難しい”“医療対応が必要になります”と断られることが多くて」

誠一さんの状態は、重度というわけではありません。しかし、見守りや夜間対応の負担が大きい中間的な状態だったのです。

一時的に自宅へ戻る案も検討しました。しかし、すでに自宅は売却済みです。

「戻る場所がないんです。これが一番きつかった」

最終的に、短期入所(ショートステイ)をつなぎながら、次の受け入れ先を探すことになりました。

「“とりあえずここで数週間”という状態が続いて、本人も不安定になっていきました」

誠一さん自身も、状況を理解しきれないまま、環境が変わることに戸惑っていたといいます。

「ここはどこなんだ、と何度も聞かれて…。見ていてつらかったです」

ようやく受け入れ先が見つかったのは、退去期限の直前でした。医療対応が可能な施設で、費用は以前よりも高くなりました。

高齢期には状態の変化に応じて、住まいも変わらざるを得ないことがあります。

「施設に入れば安心、という単純な話ではないんですね」

老後の住まいは、経済面だけでなく、介護度や医療体制との相性によっても大きく左右されます。そして、その条件をすべて満たす場所を見つけることは、決して容易ではありません。

「どこでどう暮らすか。それを考えるのは、想像以上に難しいことなんだと実感しました」