2028年のロサンゼルスオリンピックから女子種目に参加する全選手を対象に、性別確認のための遺伝子検査が導入される見通しとなった。国際オリンピック委員会(IOC)は、生物学的な女性に限り出場できるとしている。

【映像】男性ホルモンの値が高い女子選手

 ニュース番組『わたしとニュース』では、オリンピックの女子種目への遺伝子検査導入とスポーツにおける公平性について、日本スポーツとジェンダー学会会長でJOCの理事を務める來田享子氏と弁護士の三輪記子氏とともに考えた。

■遺伝子検査導入に対するアスリートの反応

「国際オリンピック委員会が方針を更新しました。これは女性スポーツにとって“非常に大きな勝利”です」(元競泳選手 ライリー・ゲインズ氏)

「これはトランスジェンダーの禁止ではなく“男性の参加を禁じるもの”です」(元テニス選手 マルチナ・ナブラチロワ氏)

 2028年のロサンゼルスオリンピックから導入される性別確認のための遺伝子検査を巡って、これを歓迎する声が上がっている。

「生物学的に男性の選手が女子のカテゴリーで競技することが公平ではないことは明らかです。一部の競技では安全ではないという問題もあります」(IOCコベントリー会長)

 東京オリンピックではトランスジェンダー女性として出場した選手もいたが、今後こうしたケースは認められなくなる可能性が高まる。

 アメリカのトランプ大統領は「男子が女子スポーツで競技している。そんなことで議論になっているなんて信じられますか?男性が女子スポーツで競技しているのです。」と発言し、この決定を強く歓迎。昨年にはトランスジェンダー選手の女子競技参加を禁じる大統領令にも署名している。

「これからは女子スポーツは女性のためだけのものになります」(トランプ大統領・25年2月)

 一方で、この決定に異を唱える声もある。陸上女子800メートルでオリンピックを2連覇したキャスター・セメンヤ氏は、生まれつき男性ホルモンとされるテストステロンの値が高く、出場資格を巡って訴訟になった経験を持つ。セメンヤ氏は「この決定は女性をおとしめるものです。女性の尊厳を傷つけるものです。女性の権利を侵害するものです」と主張している。

 遺伝子検査でオリンピック出場の可否を判断することは本当に公平なのか、議論を呼んでいる。

■「誰かの人権を犠牲にしていいのか」來田氏の見解

 決定をめぐっては、SNS上で感情的なやり取りが見られる。來田氏は次のように見解を述べた。

「そうした言葉がトランスジェンダーの女性、それからDSD(性分化疾患)の人々をとにかく傷つける」

「女性の選手たちが『ぶつかった時に危ないのではないか』『筋力に勝る人たちが出場してくると公平ではないのではないか』と思う気持ち自体は全く理解できないわけではない。スポーツというのはお互いに競い合って初めて面白さが引き出される。あるいは自分自身が成長できるという側面がある」

「ただ、それを誰かの人権を犠牲にしてやっていいことかどうかというと、スポーツはそうではない道をずっと歩んできたところがある。それがわだかまりの理由にもなっているのだと思う」

■「スポーツは誰のものか」三輪氏が指摘する本末転倒

 アスリートの中に歓迎している人がいる背景について、三輪氏はスポンサー問題などの切実な理由を挙げつつ、次のように語った。

「その人がいなければ自分が1番になれたかもしれないのに、その人のせいで自分が1番になれない。1番になれなかったことでスポンサーがつかない、スポンサーの数が減るなど、切実な問題は背景にはあると思う。1番の人にばかりスポンサーがつくというのは、資本主義社会の問題でもあるわけで、1番にならなきゃいけないというスポーツの過酷さの側面もある」

「そうした理由から選手は確かに歓迎している人がいるのかもしれないが、ここで考えたいのは、スポーツは誰のものかということだ。スポーツは、競技をする人だけでなく、応援する人がいて、見る人がいて、成立している。スポーツの歴史というのは、排除ではなく包摂する形で発展してきたはず。例えば男女差別で言うと、女性のプロスポーツの方が報酬が少ないということに対して戦ってきた人もたくさんいる。そういう歴史がある中で、『保護』とか『スポーツ』の名のもとにまた排除が始まるとしたら、これは本末転倒ではないか」

(『わたしとニュース』より)