それでも、スタンドの反応が示していたのは、「順位」や「勝点」だけではない不満だった。
 
 パレス戦後、『ジ・アスレティック』のブライトン担当記者アンディ・ネイラーは、ブーイングを行ったファンに対し、「上位にいることを当然視し、期待しすぎている。エンタイトルメント(自己特権意識)の表れだ」と論じている。

 これに対し、ファンからは強い反発が起きた。「目的意識を感じさせないサッカーを見せられている」「戦術が見えない」「選手起用の意図が分からない」「エキサイティングなサッカーを求めることが、なぜエンタイトルメントなのか」といった声が相次いだ。

 浮かび上がるのは、結果以上に「どんなサッカーを目指しているのか」というビジョンへの不満である。

 9日のBBC(英国放送協会)の討論番組「Monday Night Football」でも、「ヒュルツェラー体制下のブライトンのアイデンティティとは何か」というテーマが議論された。その中で、元イングランド代表のクリス・サットン氏は、「彼の指揮下で明確に成長した選手が一人でもいるのか」と疑問を投げかけている。
 
 かつてのブライトンは、選手育成と成長の物語を武器にしてきた。マルク・ククレジャ、モイセス・カイセド、ベン・ホワイト、レアンドロ・トロサール、アレクシス・マカリステル。彼らは飛躍を遂げ、ビッグクラブへと羽ばたいていった。

 しかし現在、カルロス・バレバやジャック・ヒンシェルウッドといった期待株は停滞している印象が否めず、エバン・ファーガソン(現時点ではレンタル移籍)やフリオ・エンシソはすでにチームを去っている。チームの停滞と個の成長の停滞は、無関係ではないだろう。

 パレス戦後、ブライトンの選手たちは誰一人として取材に応じることなくスタジアムを後にした。その背中には敗戦以上の重さが漂っていた。

 11日には、敵地でリーグ3位のアストン・ビラと対戦する。厳しい相手であることは間違いない。しかし、だからこそ問われるのは結果だけではない。チームとして何を目指し、何を積み上げようとしているのか。その輪郭を示すことができるかどうかだ。

 M23ダービーでスタンドから突きつけられた声は、単なる不満ではないのではないだろうか。ブライトンが次のステージへ進むために、避けては通れない問いそのものだったような気がしてならない。

取材・文●松澤浩三

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