中山美穂、広末涼子、二階堂ふみ、吉永小百合…“白い世界”で展開する人間ドラマ、「雪景色が最高に映える映画」5選【真冬の映画案内】
人を感動させる絶景を作ることもあれば、人に危険を及ぼす存在にも成り得る。雪景色を眺める人は、こうした二面性にどこかでひかれているのかもしれない。そんなことをふと考えてしまう「雪景色が最高に映える映画」を、映画解説者の稲森浩介さんがナビゲートする。
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何度でも観たい中山美穂
〇「Love Letter」(1995年)
2024年12月に54歳で急逝した中山美穂。女優としての代表作は誰もが「Love Letter」(1995年)をあげることだろう。
神戸に住む渡辺博子(中山美穂)は、婚約者・藤井樹を山の遭難でなくしている。今は樹の友人・秋葉(豊川悦司)が恋人だが、吹っ切れない思いを抱いていた。ある日、かつて樹が住んでいた小樽の住所に手紙を出してみると返事が来た。樹と中学時代の同級生で、同姓同名の藤井樹(中山美穂・二役)からだった。

物語は雪の上にあお向けになる博子の横顔から始まる。やがて立ち上がり、雪面を下っていく数分間はとても美しい。場面設定は神戸だが、場所は小樽の天狗山スキー場。多くのシーンが小樽で撮影され、街と雪が物語に深く溶け合うように描かれている。
中山は性格の違う2人を演じ分けた。岩井俊二監督に、区別をつけるために髪型を変えましょうかと聞いたら、「そのままで」と言われたらしい。岩井監督は「内面で別人格を作って欲しかった」と語っている(2016年「東京国際映画祭」トークショー)。
「分かりにくさが中山美穂たる所以」
2025年4月、本作の4Kリマスター版が劇場公開された。舞台挨拶で岩井監督や豊川悦司らが、これまで語られなかったエピソードを披露している。
岩井は、中山が人見知りで内気に見えたので、しっとりとした性格の博子は適役だと思っていた。しかし撮影時に、「自分は(活発で明るい)樹に似ているので、博子をどう演じて良いか分からない」と相談され驚いたことを明かし、「この分かりにくさが中山美穂たる所以、本人にも分からなかったのでは」と語った。
豊川は撮影時が初対面だったが「豊川さん、お待ちしておりました」と言われたという。「普通思いつかない気配りの仕方、繊細なハートを持っている人」と評した。
4Kリマスターの作業中、岩井監督は画面を直視するのが辛かったという。しかし「天国の美穂ちゃんに喜んでもらいたかったので最後までできた」とも語っている。
高倉と雪と列車が主役
〇「鉄道員(ぽっぽや)」(1999年)
浅田次郎の直木賞受賞作を映画化。高倉健と降旗康男監督コンビの17作目となる。
北海道の幌舞駅の駅長佐藤乙松(高倉健)は、過去に幼子・雪子と妻・静枝(大竹しのぶ)を亡くしていた。定年が迫っていたある日、幌舞線の廃線を告げられ、かつての同僚(小林稔侍)に再就職を勧められるが断った。その夜、1人の少女が駅舎に現れた。乙松は少女に雪子の面影を重ねる。
高倉と雪と列車が主役の映画だ。プラットフォームと入線する列車に降り積もる雪。それを見つめながら長く鉄道員を務めてきた男。その姿は孤高と切なさを感じさせる。
高倉健が認めていた広末涼子
広末涼子は終盤の30分にセーラー服で登場するが、まるで雪から現れた妖精のようだ。高倉の鉄道員の制帽を被って敬礼する姿は、愛おしく胸に迫る。
広末のシーンは東京でのセット撮影だけだったが、作品の全体像をつかみたくて北海道まで赴いたという。その時、高倉と交流が生まれた。
現在の広末は芸能活動を休止している。本作撮影時の高倉の言葉を添えて、再び立ち直りその姿を観られることを願う。
「やっぱり素晴らしい素質があると思いますね」「彼女が持っている無垢なものが素直に出ればいいんだから」「いろんな話をしました。それは、非常に何か残りましたね。こういうのは、『野性の証明』(1978年)の時の薬師丸ひろ子君以来です」(「キネマ旬報」1999年6月下旬号)。
上白石姉妹の初共演
〇「羊と鋼の森」(2018年)
本屋大賞を受賞した宮下奈都の同名小説が原作で、ピアノの音と雪が調和する静かで美しい作品だ。
北海道の高校生・外村直樹(山粼賢人)は、ピアノの調律師・板鳥(三浦友和)の調律した音に魅せられる。やがて板鳥の楽器店で調律師として働き始めた。ある日、ピアニストの高校生姉妹、和音(上白石萌音)と由仁(上白石萌歌)に出会う。
撮影は北海道の旭川で行われ、雪に覆われた街が描かれている。直樹が降り立つ小さな近文駅は、雪ですっぽりと埋もれた姿を見せ、石狩川にかかる旭川のシンボル旭橋も、積雪の姿が何度も登場する。
姉妹で奏でた連弾
姉の和音は端正で艶やかな音を奏で、最初に弾く曲はラヴェルの「水の戯れ」。由仁は明るく開放的な弾き手という役で、ショパンの「蝶々」を披露する。連弾を楽しむ仲の良い姉妹だが、演奏者同士の微妙な心の揺らぎを巧みに演じている。
上白石萌音・萌歌姉妹は、2011年にデビューし、6年後の本作で初めて共演が実現した。
萌音はこの役について「私と似ている部分がたくさんあります。姉として『しっかりしなきゃ』と思う気持ち、ジェラシーを感じる姿など、私も妹の心の強さ、ポジティブさを羨ましく思う時があったので」と語った(公開当時に発表された公式コメント)。
2人が再び共演する時は、どんな役柄なのだろうか。
禁断の関係を描く衝撃作
〇「私の男」(2013年)
原作は桜庭一樹の直木賞受賞作で、父娘の禁断の関係を描く衝撃作だ。雪とともに流氷が画面を覆い、強烈な印象を残す。
地震で孤児になった花(二階堂ふみ)は、遠縁と名乗る男・淳悟(浅野忠信)に引き取られる。北海道・紋別で暮らす2人だったが、面倒を見てくれていた大塩(藤竜也)に、やがてその関係を知られることに……。
冒頭、花がオホーツクの流氷の海から、這い上がるシーンから始まる。二階堂は「下に、セミドライ・スーツを着ていたのですが、水が入ってくるので寒かったですね。でも、何といっても手が大変でした。手袋だけだったので、感覚がリアルで『これは死ぬな』と思いました」と公開当時に語っている。
二階堂ふみが表現した“変貌”
二階堂は、「ガマの油」(2008年)で、15歳でスクリーンデビューした。当初は宮崎あおいに似ているなどと評されたが、今や唯一無二の女優と言われる。その決定的評価となったのが「私の男」だろう。
その実力がわかるシーンがある。後半は東京に出てきた淳悟と花の生活が描かれるが、花はOLになっている。そこには幼さと野暮ったさが残る少女の面影は全くなく、まるで別人が出現するのだ。1人の女性の変貌を、これほどまで表現できる二階堂の演技力に脱帽してしまう。
今作で、日本アカデミー賞優秀主演女優賞などを得た二階堂は、その後も話題作への出演が続く。昨年は、かねて二階堂への憧れを公言していた広瀬すずと、「遠い山なみの光」での共演が話題になった。「宮崎あおい似」と言われた子役が、今や目標とされる女優へと成長したのだ。
冠雪の利尻富士の美しさ
〇「北のカナリアたち」(2012年)
本作は、北海道を舞台にした吉永小百合主演の「北の零年」(2004年)、「北の桜守」(2018年)と並び「北の三部作」と呼ばれる。
図書館司書の川島はる(吉永小百合)を、刑事が訪ねてきた。はるが教えていた小学校の教え子の1人が、殺人犯として逃亡しているという。その真相を知るために、6人のかつての生徒たち(森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮崎あおい、小池栄子、松田龍平)と、再び会うことを決意する。やがて、20年前に起きた出来事が少しずつ明らかになり……。
舞台は、北海道・稚内の西に浮かぶ礼文島。冠雪の利尻富士が一望できる丘がある。木村大作カメラマンは、どうしてもここから撮りたいと思い小学校のセットを作った。今では「北のカナリアパーク」として公開されている。
大人になった生徒たちを演じるのは、誰もが今では主役級のぜいたくな布陣。全員がこの校舎に集まり、「歌を忘れたカナリア」を合唱するシーンは最大の見せ場だ。
吉永はなぜプロフェッショナルなのか
吉永小百合は今年81歳になるが、その「若さ」に驚かされる。
本作の父親役は里見浩太朗だが、実際の吉永との年齢差は9歳だ。「いのちの停車場」(2021年)では、同じ歳の田中泯が父親役。最新作「てっぺんの向こうにあなたがいる」(2025年)は、15歳差がある佐藤浩市と夫婦役だが、全く違和感がない。
吉永は、ただ見た目が若いというだけではない。どんな年齢の役を演じても、観客を引き込む演技ができる女優だ。与えられた役の年齢にいかようにも応じられる。これをプロフェッショナルと呼びたい。
稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集
デイリー新潮編集部
