ルパン三世=LUPIN THE lllRDとは何者か? 初期アニメ諸作と「LUPIN THE lllRDシリーズ」の関係
では、どんな部分が「大人」なのか? それは「社会的規範に背を向ける独立の精神性」にあります。『不死身の血族』のルパン三世は、すべて自分の価値観で行動しています。「犯罪」に手を染めるのもお金が欲しいからではなく、不可能に挑戦するプロセスのパズル的な快楽や緊張感を楽しむためです。
芸術品自体にとっても真価の分かるルパンに狙われることが良い。ルール遵守さえしていえれば安全と思いこんでいる現代人にとって、そんな理屈は身勝手に思えるかもしれません。でも、そうなのでしょうか? リスクを冒してでも「お宝」を手に入れたいという欲望は、自分の動機に忠実ということです。しかもルパンは多大なるコストを、惜しみなく注ぎます。頭脳を駆使した入念な仕掛けを用意し、危機や敵対者は周到に排除する。それはまさにプロフェッショナルな姿勢です。同時に規則に縛られすぎた現代人が見失いかけている「野性」の発動、狩人に近い精神性も、そこに見ることができます。
ルパンの行動を見守ることで、目に見えない「檻」に囚われた自分を再認識できる。そうすることでわれわれも、自由を取りもどすことができるのです。半世紀を越えてルパン三世が求められているのは、いつの世も「檻」が存在しているから。大衆は支配から脱したいと、常に願っている。解放を実現してくれるダークヒーローがルパンなのです。
小池健監督の「LUPIN THE lllRD シリーズ」には、その「解放への挑戦」と「野性味」を強烈に感じます。時計を半世紀以上逆戻りさせ、今まで描かれてこなかった「若き日のルパンたち」にフォーカスしたのは、なぜでしょうか。長期化の結果、「ルパン三世ってだいたいこういう感じ」という幻想が共有されている。それが新たな「檻」になりかけているからかもしれません。
多くの作品では、ルパン三世と相棒・次元大介の関係に「長年連れそった感じ」を出していますし、最初は強敵だった石川五ェ門も殺意の視線を向けず、峰不二子も「ふーじこちゃーん」と呼ばれて裏切られるのも折り込み済みです。銭形警部に至っては「とっつぁん」とルパンから軽くあしらわれ、追いつ追われつのドタバタを永遠に繰り返すようになっています。
シリーズが長期化する中で「大衆受けする要素」が積み重なり、自然発生的に起きたことなので、やむを得ない部分があります。「こういう感じ」さえ守っていれば、「ご存じもの」として受け入れられる。でも、そこに「安全策」を求めるマインドしかなくなってしまえば、一度は「檻」を破壊しなければならないと、ルパンなら思うはずです。
では、ここで簡単にアニメ化の歴史、最初の約10年を振り返ってみましょう。
まず1969年に、劇場公開用のパイロットフィルムが制作されます。虫プロダクションのエロティックなアニメ映画『千夜一夜物語』が大ヒットした時代性を背景に、大人向けアニメ企画が求められたのです。ですが実現せず、舞台はテレビに移ります。
テレビシリーズ『ルパン三世(PART 1)』(全23話)が、おおすみ正秋監督によって1971年にスタートしたのです。ただし斬新すぎたため視聴率が伸び悩み、高畑勲・宮粼駿コンビが「Aプロ演出グループ」名義で後半を子ども向けにチューニングします。何かとクールだったルパンは、クラッシックカーの名品ベンツSSKを五ェ門に真っ二つに切断され、フィアット500に乗り換えて行動が庶民的になります。視聴者に寄り添って一所懸命に動き回る活劇的要素が強化され、ルパンが何かと銭形を翻弄するようなコメディ要素も加わっていきます。
この『PART 1』は再放送で大人気となります。そしてスタートした1977年の『ルパン三世(PART 2)』は、全155話、3年に及ぶ長期シリーズに成長しました。『PART 1』で日本を脱出した後、各国でバラバラに暮らしていたルパン一味が再結集し、世界的な活躍をする趣向も、ここで入ってきます。銭形警部がICPO(インターポール)へと出向という設定が加わったのは、そのためです。
人気真っ盛りの1978年12月16日、最初の劇場版『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(監督・吉川惣司)が公開されました。同年のヒット作は『スター・ウォーズ』と『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』ですから、SF的要素を加えてスケールアップ、そして世界中を転々とする『PART 2』の要素も加味されています。さらに世界各国政府を裏から支配する黒幕、複製人間(クローン)技術で超長寿を獲得して人類史に干渉してきた「マモー」が登場します。今回の『LUPIN THE lllRD 不死身の血族』の時代設定は『PART 1』よりさらに前ですが、この映画に繋がるような設定も多々散りばめられています。
1年後の1979年12月15日に劇場版第2作として公開されたのが、宮粼駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』(通称『カリ城』)です。偽札を追ってカリオストロ公国へ向かったルパン三世は、少女クラリスを助けるためワナが多く仕掛けられた城へと向かい、カリオストロ伯爵と対決する。そんな冒険活劇として描かれています。その劇中では『PART 1』時代の活躍が10年ほど前の回想として登場、物語内のルパンは「おじさま」と呼ばれています。中年として優しくなったルパンが、次なる大衆化の契機となりました。現在では「ルパン三世の代表作」として認識している人も多いのではないでしょうか。
『カリ城』は長期シリーズの方向性にも、多大な影響をあたえました。「ルパンはホントは良い人だから殺人はしない」「義賊ゆえに盗み以外の目的で活動する」「銭形とは良きライバルで密かに友情を抱いている」「峰不二子とは長年連れそっていたような距離感」という暗黙知が、『カリ城』を媒介として作り手と観客の間に確立したのでした。
『ルパン三世』のアニメが30年間、長編、シリーズともにテレビを舞台としてきたことも、その理由のひとつでしょう。視聴者が意図しなくても飛びこんでくる公共のテレビ電波は、ワイルドな「大人の表現」と何かと相性が良くないのです。
こう整理してみると、小池健監督による『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』が明らかになるでしょう。もう一度、レギュラーの5人が出逢ったころに時間軸を置き、冷戦下で険悪だった世界情勢を投影し、さらには最大級の「檻」で支配を目論む強敵をおくことで、ルパン三世の野性味、挑戦の魂は燃えました。その炎は、観客のみなさんの魂に、どんな火をつけたのか。
そんな観点で、この映画を再見してみるのも一興ではないでしょうか。
文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)
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