老後の資金は不安だらけ?俳優・松重豊と前田哲監督のお金にまつわる本音トーク 映画『老後の資金がありません!』 - 羽柴観子

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※この記事は2021年10月30日にBLOGOSで公開されたものです

誰もが不安を抱える「老後資金」がテーマのベストセラー小説を映画化

40万部を突破した垣谷美雨によるベストセラー小説『老後の資金がありません』(2015年/中公文庫)。親の葬式、子どもの派手婚、夫のリストラなどお金の災難に振り回される主婦・後藤篤子の奮闘を描いた物語を、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)などで知られる前田哲監督がコメディ・エンターテイメント作品として映画化した『老後の資金がありません!』が10月30日より全国ロードショーとなる。

金融庁の金融審議会が2019年に公表し、世間の注目を集めた「老後2000万円問題」など、誰もが不安を抱える老後資金の話。本作で、天海祐希が演じる主人公・後藤篤子の夫役である後藤章を演じた松重豊さんと前田哲監督にお金にまつわる話や制作現場での様子について話を聞いた。(撮影:Inouwye Yuta)

映画をきっかけに「老後資金」問題を考え始めた前田監督と「お金の管理」にシビアな松重さん

―映画のテーマにもなっている「老後資金」問題についてお二人はどのように受け止めていらっしゃいますか?

前田:僕はこの映画に取り掛かるまで、老後資金について全く考えていなかったんです。だから、今回の作品をきっかけに「ちゃんと考えないといけないな」と思うようになったので、すごく良い機会になりました。

この問題について調べていくと、老後に必要な資金は2000万円どころではないことがわかります。特に、フリーランスの人は普通の会社員よりもさらに多くの資金が必要だと知って愕然としました。本作を撮りながら、今後どうしていくのかということを学ぶことができたので、ぜひ若い人にも観て欲しいです。

松重:僕は貧乏な時代が長かったので、どうやって生計を立てていくのかということをお芝居以上にずっと考えてきました。「ファイナンシャルプランナー」という言葉が出てくるよりも前からそういうことばっかり考えていたんですよ。蓄財、運用、それから年金、保険…。そういうものをどういう風に組み合わせていくかという、そういうのをポートフォリオっていうんですけど。

前田:すごいね(笑)。

松重:きちんと組み立てておかないと大変なことになるぞって思っていたんです。僕らの業界っていうのは、ファイナンシャルプランなどの情報が流れてこないんですよ。それぞれ考えてやっている人もいるけど、やっていない人もいる。そういうのが不公平なので是正したいなと考えていて。だから僕が“業界のファイナンシャルプランナー第一号”として名乗り出ようかと思っていたんですよ。結局やらなかったんですけどね。
今回の映画が世に出ることで、お金に対する意識が高まってくれればと思います。

前田:ずっとそういうことを考えられていたんですね。一緒にソフトボールをしている頃から(※後述)。

松重:あの頃が一番貧乏でどん底でしたからね。家族はなんとかしなきゃいけないし。

前田:のほほんとしている感じでしたけど。

松重:そういう風にみせていかないと。目の色が「お金!」になっていたら仕事が来なくなりますから。何も考えていないですよ、という風にみせるのが俳優のテクニックだと思っているのでね。ただもう、裏ではそろばんをピャーっと弾いて。

前田:えー!?そうなんですか。

貧乏時代の松重さん。コインロッカーの硬貨返却口を覗いた日も?

―松重さんはお金の管理に関してプロ顔負けともいえる徹底ぶりですね。普段から老後資金について考えていらっしゃるのですか?

松重:普段からというよりも、生きるためにはお金が必要ですから。愛だとかそういうのじゃなくて、一番大事なのはお金!
とはいえ、『老後の資金がありません!』はそういう映画じゃないですよ。「お金よりも大事なものがある」という物語。でも本当のことをいうとお金はやっぱり大事。そうですよね?

前田:えっ(笑)。いやぁ、僕は日々のほほんと生きていて。公衆電話をかけるのに10円さえないときもありましたけど、なぜかそういうときに助けてくれる人がいて。「なんとかなるやろ」って生きてきましたね。

松重:僕はね、助けてくれる人がいないので「10円がないな」ってなったら、使用後に100円が戻ってくるコインロッカーでお金の取り忘れがないか隅から隅まで探すんです。そうすると必ず2か所ぐらい取り忘れがあるんですよ。それで食いつなぐっていう生活をしていましたね。

前田:自動販売機の下は探したことがありますよ。

松重:あれは絵面が良くない!コインロッカーはね、「自分のロッカーどこだっけ」って言いながら返却口のお金を探すんですよ。

前田:なるほど、ちゃんとスタイルがあるわけですね。

松重:スタイルはありますね。そりゃあ、見てくれの商売ですから。

前田:すごい勉強になるわ。

―松重さんは何歳の頃からお金の問題について考え始めたのですか?何かきっかけなどはあったのでしょうか。

松重:僕、ものすごく貧乏人なんですよ。「お金がない」というところから始まっている人生なので、お金の重要さというのはよく分かっていましたし、体に染みついたものです。いやでも落とせない貧乏性というか。それはもうしょうがないですね。

ソフトボール仲間だった前田監督と松重さん。念願の初タッグへ

―『老後の資金がありません!』で前田監督と松重さんは初タッグとなりますが、先ほどお話にも出ていたようにお二人はソフトボール仲間だったのですか?

松重:役者と監督のソフトボールチームがあって、一時期参加していたんですよ。どちらも暇な職業なので、仕事がないときは何をするでもなく。ソフトで時間を潰さなきゃいけないというときに前田監督と一緒にやっていたんです。まあそんなに真剣にはやっていなかったんですけど。交流戦とかやると審判に「マナーがなっていない」と怒られていましたね。大きな声でヤジとか飛ばすから。

前田:そうですね。その頃にお会いしていて。いつかはお仕事でご一緒できればなという思いがありました。これまでも松重さんに演じて欲しい役はあったのですが、なかなかタイミングが合わないという状況がありまして。僕がそれなりにキャスティングについて意見ができるようになってきたこのタイミングで、今回ご一緒できたことはとても嬉しかったです。

俳優たちも一緒になってアイディアを出し合いながら作り上げた作品

―実際に現場を共にされてお互いにどんな印象がありましたか?

前田:松重さんがいてくれて本当に良かったです。何より役にぴったりで面白かったですし。
主人公の後藤篤子を演じられた天海祐希さんと待ち時間にずっと演劇や舞台の話をされていて。その流れのまま「よーい、スタート」をかけられる雰囲気を作ってくださったのが印象に残っています。

松重:ソフトボールチームでの前田監督の印象では、わりとこだわって演出とかもなさって、現場では面倒臭い人なのかなと思っていたんですよ。
でも実際には、面倒臭いどころか「ここ、どうなんですかねえ…」と迷ってらっしゃるところが多くて。僕はそういう人が好きなんです。
「ここはこうで!」と言われると、「ああそうですか、わかりました」とやるしかないのですが、前田監督のようなタイプだと現場で一緒に悩みながら考えて作品を作ることができますから。非常にお仕事がしやすかったです。

天海さんと監督のやりとりも夫婦漫才みたいな感じで面白くてしょうがないんですよ。監督がボケ倒して、そこに思いっきり女性のツッコミが入る感じで。僕は観客になったり出演者になったりで、まるで新喜劇のなかにいるみたいでしたね。

前田:松重さんにはいっぱい助けられました。例えば、娘のまゆみ(新川優愛)が家に結婚相手を連れてくるシーンがあるんですけど、リビングで家族そろってテレビを観るシーンではソファに座る位置についてアイディアを出して頂きました。「どうかな?」というのを投げると「こういうのもありなんじゃないかな」と言ってくださって。

松重:現場でのその瞬間の反応でしかないので全然覚えていないんですけどね。
あのリビングには篤子さんと章の夫婦生活があって、そこで一番リアリティがあるのは何かなと。「違和感のない方向としてはこういう感じなんじゃないんですか」というのを前田監督が自由にやらせてくれたというのは非常にありがたかったです。

自身が演じた後藤章のキャラに松重さん「あんなダメな男は嫌い」

―松重さんが演じられた、篤子の夫である「後藤章」。お金の使い方はすべて篤子まかせで、家族会議でもガツンとしたひとことが言えない少し頼りないキャラクターですが、共感する部分などはありましたか?

松重:ないですね。あんなダメな男は嫌いです。

前田:あはは!いやいや、チャーミングじゃないですか。

松重:男としてはダメですよ!天海さん演じる篤子さんのような、非常に頼りがいのある人が横にいると甘えちゃうんですよ。僕もそうなるかもしれないというシミュレーションをこの映画でやらせて頂いたんですけれども。
章は、妹の志津子(若村麻由美)の行動についてもジャッジ出きていないし、「ここはこうだ!」って言ったことが一つもないでしょう?全部流れにまかせて。ダメですよ。

前田:でもね、何かあると篤子さんは章に目線を送るんですよ。

松重:ああー…、でも篤子さんが目線を送っているのに何も返さないじゃない。ずるい男ですよ。ちゃんと答えを出して「こうだ!」て言っていないから。

―前田監督から見て、松重さんの演じる「後藤章」はいかがでしたか?

前田:篤子さんとの関係性を含め、イメージとぴったりでしたね。

「大変なテーマながらも、“楽しかった”が前世の記憶のように蘇ってくる作品」

―とても楽しくて、にぎやかそうな現場ですね。

前田:悪い意味ではなく、現場はぶつかったほうが良いんですよ。そのほうが面白い映画が撮れますから。悩んでいること、決めきれないこと、分からないこと…何かアイディアがあるんじゃないかと俳優さんたちも意見を出してくださって。

松重:映画の試写を観て「俺、もしかしたらこういう人生を歩んでいたのかもしれないな」と前世の記憶を思い出すような感覚になりました。
でもそれは楽しかった記憶なんですよ。例えばお金がないと言いながら右往左往している夫婦、家族、それにまつわる色んな人の話があって。大変なテーマなんですけど、でも記憶としてその前世は楽しい。篤子さんと一緒にお金がないなりに色んなことを考えて、工夫して、生きているという臨場感。だから「楽しかったな」という記憶しか蘇ってこないんですよね。

前田:良かったです、嫌な記憶じゃなくて。

松重:こうだと言われて身動き取れずに演じていたわけではなく、作品のなかで“生きている人物”として動いていた証なんじゃないかなと思うんですけどね。良いこと言ったでしょ?

松重豊
1963年、福岡県出身。『しゃべれども、しゃべれども』(07)で毎日新聞コンクール男優助演賞、『ディア・ドクター』(09)でヨコハマ映画祭助演男優賞を受賞。近年の出演作は、『孤独のグルメ』シリーズ(12~/TX)、『ヒキタさん!ご懐妊ですよ』(19)、『今ここにある危機とぼくの好感度について』(21/NHK)など。また、FMヨコハマ『深夜の音楽食堂』にてラジオパーソナリティーも務めるほか、初著作『空洞のなかみ』(20/毎日新聞出版)を出版。

前田哲
大阪府出身。助監督として、伊丹十三、滝田洋二郎、阪本順治、松岡錠司、崔洋一、東陽一、黒沢清、大森一樹、周防正行らの監督作品に携わり、98年に相米慎二監督のもと、CMから生まれたオムニバス映画『ポッキー坂恋物語・かわいいひと』で劇場映画デビュー。主な作品は、『パコダテ人』(02)、『陽気なギャングが地球を回す』(06)、『ドルフィンブルー フジもういちど宙へ』(07)『ブタがいた教室』(08)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)、『そして、バトンは渡された』(21)など。

『老後の資金がありません!』
10月30日全国ロードショー
監督:前田哲
出演:天海祐希
松重豊 / 新川優愛 瀬戸利樹 加藤諒 柴田理恵 石井正則 若村麻由美
友近 クリス松村 高橋メアリージュン 佐々木健介 北斗晶 荻原博子(経済ジャーナリスト)
竜雷太 藤田弓子 哀川翔 毒蝮三太夫 三谷幸喜
草笛光子
公式HP:https://rougo-noshikin.jp/
配給:東映
©2021映画『老後の資金がありません!』製作委員会