「登場当時はカクカクしたステアリングと加減速を感じたけど、この自動運転バスでだいぶ進化を感じた。ほんとうになめらかに走ってくれた。これから、安全性などを確認しながら実用化をめざしたい。2020年度にでも実用化できると思っている」

こう意気込むのは、愛知県 大村秀章 県知事。ここは、愛知県 三河湾に浮かぶ小さな島、 日間賀島。このおだやかな島に、埼玉工業大学の自動運転バスがときに機敏に、ときに繊細に走る姿を体験して、大村知事が乗車感をこう伝えていた。

名古屋から名鉄特急と名鉄海上観光船で1時間半。知多半島と渥美半島の間に浮かぶ小さな島――日間賀島は、蛸(たこ)や河豚(ふぐ)、海苔(のり)と、のんびりした島時間を体感できる地として人気。

ここに、自動運転バスが走るということで、全国の路線バス事業者や、自治体関係者、そして地元の人たち、観光客らが大勢集まり、その走りを見守った。

事業主体は、NTTドコモ、アイサンテクノロジー、名古屋鉄道、日本信号、名古屋大学、ティアフォー、岡谷鋼機、損害保険ジャパン日本興亜。

協力は、南知多町、日間賀島漁業協同組合、日間賀島地区区長会、日間賀島観光協会、名鉄バス、名鉄海上観光船、メイテツコム、名鉄EIエンジニア、埼玉工業大学。

まずは、日間賀島の外周4kmを走った埼玉工業大学 自動運転バスと、遠隔操作モニタに映し出されたそのクイックな走りを、この動画でみてほしい。

テーマは「離島における観光型MaaSによる移動」

なぜ、こうした離島で自動運転バスを走らせる実験が行われたか?

愛知県は、全国に先駆け2016年度から自動運転の実証実験をスタートし、2019年2月に一宮市の一般公道で5Gを活用した遠隔型自動運転を、2019年3月には中部国際空港で複数台の遠隔型自動運転を実証実験してきた。

今回、1月25〜27日に行った実験は、この日間賀島で「離島における観光型MaaSによる移動」をテーマに、自動運転バスを中心に、顔認証乗降・遠隔監視・V2N・シェアサイクルなどを組み合わせた実証実験にトライ。

愛知県など事業主体は、鉄道の切符に付属するQRコードを介し、名古屋から日間賀島までの鉄道と船舶の乗り継ぎ情報、島内の自動運転バスの運行時間、シェアサイクル、観光情報といった観光客にとって必要な情報をスマートフォンなどに一元的に提供。MaaS による移動サービスを一般観光客たちに体感させるというプログラムに仕立てた。

愛知県 大村知事「2020年度にでも実用化したい」

今回の日間賀島外周4km 自動運転バス実証実験では、NECのクラウドシステムによる顔認証システムも搭載。

乗降口にタブレットを置き、事前に登録したユーザの顔情報を認識し、顔パスで路線バスに乗るという近未来の路線バス乗車シーンも体験。

顔パスで路線バスに乗れるようになると、交通系ICカードなどをかざすことも、チャージすることもなく、クレジット決済などとひもづけることでキャッシュレスな乗降が実現する。

この顔認証のアプリケーションを開発したメイテツコムは、「乗車の流れを止めないように、すばやく顔認証できるようにチューニングした。複数の顔をタブレットがスキャンした場合は、一番大きい顔を認識してくれる」と伝えていた。

大村知事は、こうした新技術をいち早く取り入れ、「閉ざされた空間、たとえば空港とかこうした離島とかで、まず実用化させたい。目標は、名古屋の中心街と中部国際空港を結ぶとか、名古屋市内の需要が多いエリアを走らせられれば」と意気込む。

埼玉工業大学 渡部大志教授「路線バス乗務員の感性にあわせた自動運転バスをめざす」

さっそく島内外周4kmを自動運転で走ってみる。観光客やサイクリストたちとすれ違う・追い越すとき、そして見通しの悪い交差点などに入るときは、乗務員が積極的にハンドルとペダルに触れる。マニュアルモードに強制的に戻し、自らの手で回避する。

埼玉工業大学の自動運転AIは、常にその状況を学習しながら走ることで、すぐに自動運転に復帰し、すばやい加速で再びオートパイロットで走っていく。こうした動きは、最適な本番運行をめざして事前に経路マッピング(スキャン)を何度も重ねてきたからこそ。

「今回の日間賀島自動走行では、この経路マッピング・スキャンの作業に2日半かかった。これを近いうちに1時間で終わらせるようにしたい。そして目標は、事前の経路マッピングなしで自動で走れるようにしたい」

そう語るのは、この自動運転バスを開発する埼玉工業大学工学部情報システム学科の渡部大志教授(埼玉工業大学自動運転技術開発センター長)。

今回の日間賀島外周4km自動運転実験では、名鉄バスの乗務員が2名参加。3日間の実証実験中、大手鉄道系の路線バス事業者幹部たちが、関東から、名古屋・大阪・博多から訪れこの自動運転バスを体感。

全国の鉄道系路線バス事業者や自治体系路線バス事業者が、この埼玉工業大学 自動運転バスに注目している。

埼玉工業大学 渡部大志教授は、「今後は、路線バス事業者の乗務員の感性にあわせた自動運転バスをめざしたい。運転士は、その土地の道路環境や交通文化を把握している。見通しの悪い区間、人やクルマが飛び出してくるポイントなどは、乗務員が身体で覚えているもの」と語り、こう続ける。

「そこに自動運転AIが寄り添いながら最適な自動運転が実現する。そこが大事だと思っている。人間を切り離してすべてを自動化させるという考え方ではない」(埼玉工業大学 渡部大志教授)

車内転倒防止支援技術システムを国内で初めて実装

そしてこの埼玉工業大学 自動運転バスには、この日間賀島外周4km自動運転実験で、車内転倒防止支援技術システムが国内で初めて搭載された。

この車内転倒防止支援技術システムは、アイシン精機・名鉄バス・愛知県立大学の3者が共同で開発した技術で、左サイドの乗降ステップの向かい側にカメラを設置し、バスに乗り込むときの動作特徴から、動的バランス能力を推定。

その大きさから転倒しそうな人を事前に把握し、その情報をリアルタイムに乗務員や遠隔監視者に伝ることで、転倒を未然に防ぐという策だ。

こうした転倒防止システムを開発する背景について、名鉄バスは「路線バスの転倒事故の4割は発車時に起きる。こうした事故で行政罰を受けると、新規路線が引けないという事態につながる」と話す。

「そこでこうした車内転倒防止支援技術システムで、事前に転倒しそうな客をチェックし、発車前に乗務員に伝えることで、ゆっくり発車する、または着席するまで発進しないという対策がとれる」(名鉄バス)

―――鉄道、船、バス、自転車……すべてののりものがつながり、顔パスで、自動で離島をめぐる近未来の観光が体感できた3日間。次はどんなMaaSの世界をみせてくれるか。

写真 文:鉄道チャンネル