それによって苦しんだのが前回バンクーバー五輪では銅メダルを獲得していた高橋大輔選手でした。このシーズン、NHK杯を制し、グランプリファイナルへの進出も決めるなど活躍を見せていた高橋選手ですが、グランプリファイナル前の練習中に右脛骨骨挫傷と診断される怪我を負い、グランプリファイナルを欠場しています。そのような怪我をおしても直後の全日本選手権に出場(結果は5位)したのは、全日本出場が五輪代表入りの絶対条件だったからです。

実績十分であり、そのシーズンのグランプリファイナル出場権も獲得し、選考基準のひとつであったワールド・ランキング、ISUシーズンベストスコアでも日本人3番手に入るなど、全日本の結果によらず代表に選考しても問題ないだけのチカラが高橋選手にはありました。しかし、「全日本に出場することが必須」であったため、怪我をおして出場することになったのです。結果的に代表入りこそはたしますが、負傷の治療どころか試合で痛めたヒザを酷使する格好となり、調整過程としては非常に厳しいものとなりました。

この件が考慮されたでしょうか、翌年の派遣選考基準からは再び、怪我などの理由で全日本選手権に出場できなかった実績ある選手を選考に加える規定が復活しました。「特例」と言える「全日本出場を絶対条件とする選考基準」が撤廃され、「通例」であった全日本出場を絶対条件とせずに実績ある選手を選考する基準に戻ったのです。

怪我をおして全日本選手権に出ざるを得なかった高橋大輔選手の「特例」。

治療に専念しつつ五輪を目指すことができた羽生結弦選手の「通例」。

2年連続で全日本選手権を欠場しつつも、羽生選手が代表に選考され世界選手権・五輪を制することができたのは、偉大な先輩が痛みとともに「特例」を撤廃してくれたおかげであったと言えるのではないでしょうか。


文=フモフモ編集長