なぜ、テニス選手はラケットを壊すのか 現役選手が明かすコート上の「孤独」
錦織もバキッ…トップ選手に頻発するラケット破壊の理由、「見えない敵」とは
男子テニスの世界ランキング9位・錦織圭(日清食品)は5日、4回戦で同37位のフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)に3-1で逆転勝ち。右手首、肩、腰など故障を抱え、苦しみながら勝ち上がっているが、今大会注目されたのが、3日の同67位・鄭現(韓国)。格下に苦戦を強いられて、第4セットにラケットをコートに叩きつけて破壊。観衆からブーイングを浴びた。
普段、温厚な錦織は2月のリオデジャネイロ・オープンでもラケットを破壊しており、海外でも大きな話題となっていた。しかし、ラケット破壊は日本人に限ったことではない。世界ランク1位のアンディ・マレー(英国)らトップランカーの試合でも頻発している。
いったい、なぜ、ラケット破壊は起こるのだろうか。
「ラケット破壊は絶対にしてはいけない行為です。プロ選手としては子供たちの手本でなければいけない、というものがあります。大事な商売道具は大切にしなければいけません。選手も当然、それをわかっていますが、ツアーではラケット破壊のシーンは頻繁に起きています」
こう語ったのは、プロテニス選手の綿貫敬介だ。
日本のトップに君臨する錦織は幼少時代、テニスのみならず、サッカーもやってきたという。ラケット破壊の原因について、綿貫は「個人競技ゆえ」と分析する。
ラケット破壊に「差」、キレて集中高まる&戻らない、フェデラーもかつては…
「集団競技の場合はチームメートとコミュニケーションを取ることで、試合中のプレッシャーやストレスのコントロールができますが、テニスの場合は試合中、孤独です。ベンチには誰もいません。基本的にはスタンドにいるコーチと話す機会もありません。感情のはけ口が唯一、ラケットということになってしまうのでしょうか」
このように「集団競技」と「個人競技」の差を指摘。一方で「絶対に褒められないラケット破壊ですが、選手それぞれ、破壊した後のパフォーマンスなどで違いがあります」と述べた上でトップ選手の名前を挙げ、タイプ別に分析した。
「例えば、マレー選手はラケットやベンチを破壊するほどキレますが、彼はキレながらも、どんどん集中力を高めるタイプです。逆にワウリンカ選手もラケットをよく折ってしまう場面があります。反対に彼は一度キレてしまうと、集中力が戻らないタイプと言えます」
テニス界のレジェンド、ロジャー・フェデラー(スイス)とラファエル・ナダル(スペイン)は今でこそ紳士的な振る舞いでジャンルを超えた尊敬を集めているが、現在に至るまでの歴史は好対照だったという。
「フェデラー選手は、かつてはとんでもない悪童として有名でした。フェデラー選手はコートで暴れる自分自身の姿を恥じたそうです。そこから素行面を改めてジェントルマンになるとともに、プレーもどんどん洗練された最高の例ですね。一方、ナダル選手のようにキャリアを通じて、ずっと紳士的な選手もいます。フェデラー選手とナダル選手は振る舞いも、やはり超一流です」
では、どうすれば防止できる? 綿貫が提言する体系的なペナルティ制度
では、ラケット破壊はどうすれば防止できるのか。
綿貫は、現状の罰則の問題点を指摘した上で、選手の心がけ以外に重要な施策が必要であると提言する。
「ラケット破壊などは大会毎の規定があります。悪いマナーや振る舞いがあれば、選手はコードバイオレーションとして罰金を支払うことになります。それだけでは『お金を払えばいいや』と、選手はその場の激情に任せてラケットを投げてしまいます。
ATPや日本のテニス協会が明確な罰則を設け、コードバイオレーションなどの累積ポイントで出場停止などのペナルティを与えれば、ラケット破壊も減るのではないでしょうか」
大会毎に定められた単発的な罰金にとどまらない、体系的なペナルティ制度を導入することで、ラケット破壊のシーンは減るのではないか。綿貫は、そう分析していた。
コート上では相手だけでなく、孤独という「見えない敵」とも戦っているテニス界のトッププレーヤー。とはいえ、未来のトッププレーヤーの模範として、ラケット破壊は許されていい行為ではないだろう。

