健康維持に必要な睡眠時間はどのくらいか。同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターの米井嘉一さんは「睡眠時間が短すぎても長すぎても死亡リスクは高まる。認知症予防や健康長寿のためには睡眠の質を高めることが何より大切だ」という――。(第4回)

※本稿は、米井嘉一『食べて若返る!』(さくら舎)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

■質の悪い睡眠が生活習慣病のリスクを高める

「よく寝た日は元気」「寝不足だと調子が悪い」――誰もが感じたことがあると思います。実際、睡眠は体内リズム(サーカディアンリズム)の要であり、質の悪い睡眠は集中力の低下や生活習慣病、うつ病、心臓・血管の病気などのリスクを高めます。

さらに近年の研究では、アルツハイマー型認知症の原因物質「アミロイドβ」は、睡眠中に脳のクリアランス機能によって分解・排出されることがわかっています。睡眠不足になるとこの働きが弱まり、アミロイドβが脳にたまりやすくなってしまうのです。

私たちの研究グループでは、寝具メーカーの西川産業と共同で、睡眠の質と認知症・腸内環境との関係を調べました。睡眠に悩みをもつ女性12人を対象に、寝具を改善する前後で脳と腸内環境を比較したところ、睡眠の質が改善した後には、アミロイドβの蓄積が減少していました。

つまり、よく眠れるようになると、脳の老廃物を排出する力が高まるのです。さらに腸内細菌の分析では、睡眠の改善後、腸内環境が「認知症のない人」に近いパターンへと変化していました。国立長寿医療研究センターのデータによると、認知症のない人は善玉菌(酪酸産生菌・乳酸産生菌など)が多く、認知症のある人は悪玉菌やバクテロイデスが多い傾向があります。今回の結果は、その傾向と一致していたのです。

■「朝の光を浴びるのが良い」と言われるワケ

これらの研究からわかるのは、睡眠の質を高めることが、脳の老廃物の排出(クリアランス)を助け、腸内環境を整え、結果的に認知症の予防につながるということです。「よく眠ること」は、脳と腸、どちらの若さにも欠かせない――まさに“究極のアンチエイジング”なのです。

これまでの研究で、「睡眠の質が上がると腸内環境が整い、認知症のリスクが下がる」ことがわかってきました。その鍵のひとつが、睡眠ホルモンのメラトニンです。メラトニンは「夜がきた」と体に知らせる役割を持ち、自然な眠りを促します。

夕方に暗くなると脳の松果体から分泌が始まり、体温を下げて眠りやすい状態に導きます。分泌は夜中にピークを迎え、朝の光を浴びると止まり、そこから約15時間後にまた分泌が始まります。このリズムに合わせて、夜に眠り、昼に活動する生活を続けると、メラトニンが正常に働き、睡眠の質も高まります。

逆に、睡眠の質が悪い人はメラトニンの分泌も乱れがちです。最近の研究では、メラトニンには眠りを誘うだけでなく、抗酸化作用や免疫調整など、健康を守るさまざまな働きがあることもわかってきています。

■ぐっすり寝ることが脳と腸を若返らせる

メラトニンの強い抗酸化作用は、活性酸素を無害化して細胞を守り、体の酸化を防ぐことで、老化を遅らせる働きがあります。活性酸素は腸内細菌を減らす大きな要因のひとつですが、メラトニンはその抗酸化作用によって腸内環境を守り、結果的に認知症のリスクを下げていると考えられます。

さらに、メラトニンはアルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβやタウたんぱく質の凝集を防ぎ、神経細胞へのダメージを減らす作用も持っています。私たちの研究グループの実験では、メラトニンが脳内のスカベンジャー細胞「ミクログリア」(おそうじ役の細胞です)を活性化させ、アミロイドβを分解・排出する働きを高めることが確認されました。

また、メラトニンには、糖化ストレス(AGEs)を分解し、脳を糖化から守る作用があることも明らかになっています。つまり、メラトニンは「酸化」と「糖化」――この2つの老化要因から脳を守っているのです。

さらに別の研究では、メラトニンが記憶の中心である海馬に働きかけ、記憶の形成や維持を助けることもわかっています。よく眠ることで分泌が高まるメラトニンは、単なる“睡眠ホルモン”ではなく、脳と腸を若く保つ「若返りホルモン」なのです。

■7時間半以上寝る人は死亡率が1.4倍に

それでは、どのくらい眠ればいいのでしょうか。その人が日中100%の能力を発揮できる睡眠時間には個人差がありますが、さまざまな睡眠に関する疫学調査の結果、これまで7時間〜7時間半がベストとされてきました。

たとえば、平均睡眠時間と6年後の「がん治療後」患者の生存率に関するアメリカの調査では、もっとも生存率が高いのは、6時間半から7時間半寝ている人だという結果が出ています。また、この実験で面白いのは、それより睡眠時間の短い人は1.3倍、逆に長い人は1.4倍、それぞれ死亡率が高くなることがわかったことです。

これは、寝不足はよくないが、そうかといって、長く寝ればいいというものでもないことを示しています。たとえば睡眠時無呼吸症候群患者では、夜間に数十秒間息が止まることが数十回も起こるため、睡眠の質が低下します。睡眠時間が8時間以上であっても、昼間はけだるくて何度も居眠りをしてしまいます。

一方で、睡眠の質が高ければ、6時間睡眠でも元気いっぱいの働き盛りの中高年者、健康長寿に向かって突き進む高齢者も少なくありません。一般的に、睡眠時間を横軸、死亡率を縦軸にしてグラフ化すると一目瞭然。6時間半から7時間半ぐらいを底にしたUの字カーブを描きます。「睡眠の質」を高めて、このくらいの睡眠時間を心がけると良いでしょう。

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■睡眠時間が短い人の効果的な睡眠方法

「平日は睡眠時間が短くて寝不足だけど、休日にいっぱい寝て、寝だめをしてるから大丈夫」という人がいますが、これなどいちばんよくない睡眠習慣といえそうです。自分は気づかなくても、体は確実に老化しています。

写真=iStock.com/Patrick Daxenbichler
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OECD(経済協力開発機構)の33カ国の1日の平均的な睡眠時間の調査によると、全体平均の8時間28分に対して、日本の平均は7時間22分ともっとも短く、しかも、厚生労働省の別の研究発表では、働く世代にあたる45歳の人たちの平均は約6時間30分とさらに短くなっています。

そのため、「日本人は総じて睡眠不足」とよくいわれます。また、睡眠時間は男女を問わず、加齢によって短くなるのが一般的です。これは、メラトニンの生産量が加齢とともに減少することが要因と考えられています。アンチエイジングに有効な睡眠は7時間半なのに、年をとると7時間半も続けて眠るのは難しくなってくる。

このままでは加齢とともに老化が加速する一方になってしまいます。短くなる睡眠時間をカバーするにはどうすればいいのでしょうか。ここで大事になってくるのが、睡眠の「質」です。睡眠時間が多少短くなっても、しっかりと眠ることができれば、メラトニンや成長ホルモンによる恩恵など睡眠の効果を得られると考えられています。

■ストレスをリセットして深く眠るコツ

睡眠の質を高めるカギは、「寝て・起きて」という覚醒と睡眠のリズムにあります。つまり、サーカディアンリズム(体内時計)に沿った規則正しい生活を送ることが大切です。もうひとつ重要なのは、日中にしっかり活動して脳を使い、適度に疲れること(疲弊度)です。

米井嘉一『食べて若返る!』(さくら舎)

このリズムを支えるのが、睡眠ホルモンのメラトニンと、覚醒ホルモンのオレキシン。メラトニンが夜の眠気を促し、朝に分泌が止まるとオレキシンが働いて目を覚まさせます。日中しっかり活動して脳が疲れるほど、夜にぐっすり眠れるようになります。

また、ストレスホルモンのコルチゾールもリズムに関係します。昼間は高く、夜になると下がり、明け方に再び上昇して自然な目覚めに導きます。ところが、ストレスが続くと夜もコルチゾールが高いままで、寝つきが悪くなり、浅い眠りの原因に。

つまり、ストレスをためず、昼間しっかり活動し、夜は体内時計に合わせて休むこと――これが、睡眠の質を高める最もシンプルで効果的な方法です。

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米井 嘉一(よねい・よしかず)
同志社大学アンチエイジングリサーチセンター、同志社大学大学院生命医科学研究科教授
1958年東京生まれ。武蔵高等学校卒業、慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。1989年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。2008年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、糖化ストレス研究会理事長、(公財)医食同源生薬研究財団代表理事。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。主な著書に『アンチエイジングは習慣が9割』(三笠書房)、『若返りホルモン』(集英社)など多数。
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(同志社大学アンチエイジングリサーチセンター、同志社大学大学院生命医科学研究科教授 米井 嘉一)