「世界を変える」薄っぺらな信条を持ったテック業界のリーダーがこの世に生み出した「邪悪なもの」とは
「デジタル革命の最も有名な記録者」によって、テック業界の巨人たちの素顔がすべて明かされる。
「その他大勢のマスク」だった頃からイーロン・マスクとつきあい、1990年にGoogleのセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジをとことん取材し、犬猿の仲のジョブズとゲイツの奇跡の対談を成功させ、ジェフ・ベゾスを「野生のマングース」と呼び、マーク・ザッカーバーグを「クソ野郎などではない。それ以上にひどかった」と断じ、19歳のサム・アルトマンに「AIの未来」を語らせた凄腕ジャーナリストの見てきた30年とは?
しばしば偶像化される天才起業家たちが、志を忘れて邪悪に走るまでを、愛と怒りを込めて暴く「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラー『世界を壊したビッグテックの悪党ども テック業界“ほぼ”全史の取材録』より、一部を抜粋してお届けする。
トランプ詣に馳せ参じた面々
2016年12月14日、テック業界のリーダーたちは、ファシストを権力の座につけるため、裏口からこっそりトランプタワーを訪ねた。次期大統領はアマゾンとアップルを名指しで攻撃していたが、ジェフ・ベゾスもティム・クックも我先にトランプ詣に馳せ参じた。『アプレンティス』(訳注 ドナルド・トランプがホストを務めたリアリティ番組)にギーク特集があったとしたら、まさにこの会合がそうだった。
出席したCEOたちが誰も認めようとしなかったことが一つある。それは、金箔を張りめぐらした狼の棲家、トランプタワーに群れをなして行く本当の理由だ。巨額の金が絡むので、トランプ新政権のご機嫌をとっておかなければ、テック業界が甚大な損害を被る可能性があった。CEOたちはそれを避けたかった。優秀な人材を集めるための就労ビザも欲しかったが、それと同じくらいに、新政権、特に米軍との契約も欲しかったし、海外で稼いだ収益をアメリカに戻したかった。そしてなにより、これまで巧妙に回避してきた規制をかけられたくなかった。
権力に媚びる行為は産業界ではめずらしくないが、シリコンバレーはそうはならないはずだった。グーグルは2000年に「邪悪になるな」を社是に掲げたし、テスラも、マスクが人類のために献身的に研究開発を進めてきたからこそ、大衆市場向けのクールな電気自動車が誕生し、化石燃料への依存を低減できたのだと力説していた。そして、フェイスブックは「大切な人との関係をさらに深め、より多くの機会を創出する強い経済を生み出し、我々一人ひとりの価値観がすべて反映されるより強い社会を生み出す」ツールになるはずだったのだ。
これらの企業はみな、「世界を変える」という薄っぺらな信条を持って創業した。確かに彼らは世界を変えたが、創業時には想像もつかなかった形で悪影響を招き、偽情報の氾濫、人々の孤立、スマホ依存といった社会問題を次から次へと引き起こしている。
かく言う私もスマホに依存している。講演会を締めくくるときには必ず、「それではみなさん、各自のスマホに戻ってください。(中略)みなさんの今一番の恋人はスマホですよね。朝起きたら真っ先に触れるのも、夜寝る前に最後に触れるのもスマホですからね」と冗談を言っている。必ず笑いをとっていたが、トランプの任期も半ばを過ぎる頃には笑えなくなっていた。テック企業がトランプ政権にこれほど妥協するとは思ってもみなかったのだ。
SNSは現代のデジタル武器商人になり果てた
ニューヨーク・タイムズにコラムニストとして入ったばかりの2018年に私はこう書いた。
「フェイスブックも、ツイッターも、グーグルのユーチューブも、どれもみな現代のデジタル武器商人になり果てた。彼らは人間のコミュニケーションを変質させ、人と人をつなぐはずが、敵対ばかりさせている。意見対立の不協和音はかつてないほど増幅し、有害になりつつある。彼らは言論の自由を武器にした。市民の議論を武器にした。なによりも、政治そのものを武器にした」
テック業界に君臨する人々はこの意見に反発するだろう。自分たちの会社はFOXニュースのようなケーブルネットワークほど悪質ではないし(確かにそうだが、比較基準が低すぎる)、自分たちの作るものが国民を分断していると言えるだけの因果関係を容易には証明できない(測定がほぼ不可能)と。なによりもまず、言論の自由にしろ、市民の議論にしろ、政治にしろ、武器化されてしまったのは「意図した結果ではない」と片付けがちだった。
そうかもしれないが、想像のできない結果ではなかった。フランスの哲学者ポール・ヴィリリオは、「船を発明すると難破事故が起きる。飛行機を発明すると墜落事故が起きる。電気を発明すると感電死が起きる。(中略)どの技術も進歩と同時に作り出される負を内包している」と言った。この言葉を私は常に肝に銘じている。
ヒトラーにインスタグラムは不要
言っておくが、ヒトラーにインスタグラムは不要だった。ムッソリーニにツイッターは不要だった。スナップチャットを使わなくとも、残忍な独裁者たちは悪名を高めた。だが、もしも彼らがSNSを手にしていたとしたら、どうなっていただろうか。
トランプはSNSのおかげで選挙に勝ったと言ってもいい。それだけが理由ではなかったけれど、ルーズベルトがラジオを駆使し、ケネディがテレビを駆使し、トランプがソーシャルメディアを駆使するまでの流れはわかりやすい直線でつながっている。しかも、トランプだけがそうしたわけではない。国内外でも、プロパガンダを得意とする指導者は嘘や誤情報を広めるのにソーシャルメディアは利用できると思った。今もなお、悪意を持った輩がプラットフォームを悪用しつづけている。なのに、真の解決策は見えていない。なぜなら、こうした強力なプラットフォームは設計どおりに機能しているからだ。(翻訳:新田享子)
