(※写真はイメージです/PIXTA)

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長年勤め上げた会社を定年退職し、数千万円の退職金を一気に手にすると、つい気が大きくなってしまうものです。内閣府の調査によると、シニアが老後のために必要と考える金融資産の平均は約2,648万円。貯蓄と退職金を合わせて3,400万円を手にしたマサシさん(仮名・60歳)も老後に対して楽観的で、自分へのご褒美にとロレックスとハワイ旅行を妻に提案。しかし、妻から返ってきたのは「自由に使うのは許しません」という冷徹なひと言。家族のために働いてきた夫の夢を、妻が一蹴した〈納得の理由〉とは。

退職金2,200万円に高揚。60歳夫が思い描いた「自分へのご褒美」

大手メーカーを定年退職し、再雇用となったマサシさん(仮名・60歳)。口座に振り込まれた約2,200万円の退職金を確認し、これまでにない高揚感を覚えていました。これまでの貯蓄1,200万円と合わせ、手元の金融資産は3,400万円になります。

激務を耐え抜いたマサシさんにとって、この退職金は自分への労いでもありました。そこで、第二の人生のスタートを刻む記念品として「ロレックス」を購入し、さらに妻のユリコさん(仮名・59歳)との新婚旅行の思い出の地である「ハワイへの旅行」など、思い描いていた夢を実現させようと考えていました。

「今まで家族のために働いてきたのだから、これくらいの贅沢は許されるだろう。ずっとほしかったロレックス、楽しみだな」

ある日、マサシさんは退職後の楽しみとして、時計のカタログや旅行のパンフレットを見せながら、それとなくユリコさんに自分の計画を打ち明けました。

しかし、ユリコさんは笑顔を見せることなく、無言でパソコンをマサシさんに向けました。画面に表示されていたのは、ユリコさんが独自にエクセルで作成した「老後30年の資金計画表」でした。

「何のために働いてきたのか…」妻の冷酷なひと言に抱いた感情

エクセル表には、年金生活に入ってからの毎月の生活費、家の修繕費、車の買い替え、将来の医療・介護費など、これから発生するであろう出費だけでなく、将来の物価上昇に備えた余剰資金までもが、緻密に組み込まれていました。

呆然とするマサシさんに、ユリコさんは淡々と告げます。

「この退職金は、あなた一人のためのご褒美ではなく、私たちが老後を安心して生き抜くための大切なお金です。自由に使うことは許しません」

今の生活水準を維持するだけでも資金は減っていき、ここで一気に大金を使ってしまえば、いざというときの施設入居費すら足りなくなる。ユリコさんは理路整然と現実を突きつけました。

家族を養ってきた自負をあっけなく打ち砕かれ、マサシさんは一瞬「一体、何のためにここまで働いてきたのか」と理不尽な思いを抱きました。

夫の感情・妻の理論…老後に向き合って生まれた「夫婦の絆」

しかし、エクセルの数字を冷静に見返すと、ユリコさんの主張が「夫婦の未来を守るための切実な思い」から来ていることに気づきました。

「自分が倒れたとき、妻に金銭的な苦労をかけるわけにはいかない」と、マサシさんはユリコさんの現実的な資金計画を素直に受け入れました。

退職金は決して夫だけが自由に使えるものではなく、夫婦が老後を過ごすための共有財産です。これを機に、2人は改めて今後の生活費や、本当に必要なお金の使い方について真剣に話し合いました。

マサシさんは今、自分の夢を諦めた悲壮感ではなく、ユリコさんと現実的な未来を共有できた安心感とともに、新たな人生のスタートを切っています。

貯蓄3,400万円あっても油断禁物?…データで見る「シニアの不安」

退職金という数千万円単位の現金を一気に手にすると気が大きくなり、マサシさんのように「これくらいは使ってもいいだろう」と散財してしまうシニアは少なくありません。自身の資産を客観的に把握し、パートナーと計画を共有することは理にかなった行動といえるでしょう。

マサシさんが持つ「3,400万円」という金融資産は、データから見ても恵まれた水準にあると推測できます。内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」によると、今後の生活のために必要だと思う金融資産額の平均は「2,648万円」となっています。

また、同調査でマサシさんと同じ「金融資産3,000〜5,000万円未満」の層に対し、現在の貯蓄額が十分かを尋ねたところ、「足りない」と答えた人はわずか23.0%にとどまっています。つまり、3,400万円という資産額は、本来であれば約8割の人が「これで十分だ」と安心できる水準であるといい換えられます。

では、なぜユリコさんは十分な資産があるはずなのに、釘を刺す必要があったのでしょうか。それは、同調査における経済的な面の不安として、「物価が上昇すること(74.5%)」がトップに挙げられていることと無関係ではないでしょう。長生きに伴う出費の増加だけでなく、将来的に物価が上がっていくことで「今あるお金の価値が目減りしていくこと」を危惧していたのです。

いくら十分な老後資産があったとしても、将来の生活費がどれだけ膨らむかは予測できません。だからこそ、退職金が入ったからといって最初に一気に散財するのではなく、ユリコさんのように老後の計画を視覚化し、夫婦で確認しておくことが重要です。そうすることで、むやみに将来を悲観することなく、安心かつ心豊かに資産を使っていけるのだと、この事例とデータは示唆しているといえるでしょう。

[参考資料]

内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」