阿部前監督の胸中は

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 第1回【巨人「阿部監督」の辞任劇にネット上で「生きづらい時代になった…」の声が噴出する理由 ChatGPTの提案した「合理的な解決策」への違和感も】からの続き──。5月26日、毎日新聞(電子版)は「暴行容疑の巨人・阿部監督 娘がチャットGPTに相談し児相通報」との記事を配信した。同日に巨人は謝罪会見を開き、その際に阿部慎之助・前監督の長女による手紙を代理人が公表。同じように「父親に暴力を振るわれた長女が『ChatGPT』に相談すると、児童相談所の通報をアドバイスされた」という事実が明らかにされた。(全2回の第2回)

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【実際の写真】電子タバコの箱を握りしめて、不安げな表情で… 釈放直後の「阿部慎之助」前監督の姿

 ネットメディアの編集長は「XなどのSNSでは『長女が友人ではなくAIに相談することに違和感を覚えた』という驚きの投稿が少なくありません」と言う。

阿部前監督の胸中は

「これまで私たちは人工知能がもたらす身近な問題として想定していたのは、『小学生が宿題をAIで解いてしまう』とか『大学生がレポートをAIに書かせてしまう』という程度のレベルでした。それが『父親に暴力を振るわれた』という深刻な事象さえChatGPTに相談する10代の姿が浮き彫りになり、児童相談所への通報から警視庁による父親の現行犯逮捕という大騒動に発展してしまいました。改めてAIが持つ社会的影響力の強さだけでなく、AIが一般社会に浸透している事実にも多くの人が衝撃を受けています」

 ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「実はAIに人生相談を依頼するユーザーは世界的に増える一方なのです」と解説する。

「考えてみれば単純な話で、親、配偶者、友達といった自分をよく知る人だと恥ずかしくて相談できないことでも、人工知能なら安心して打ち明けることが可能です。今回の事案で長女がChatGPTに相談したことで、騒動が大きくなってしまったのは否定できません。しかし、今回は特殊なケースであることも事実で、その点には注意が必要なのではないでしょうか」

「親友や母親より人工知能」のリアル

 何しろ長女の父親は巨人の監督という飛びきりの有名人だ。その父親が娘に暴力を振るったとなると、とんでもないレベルのビッグニュースであるのは言うまでもない。

 もちろん相手が有名人だからといって被害者が黙っていなければならない道理はない。だが、自らの告発によって有名人である父親が逮捕されれば、長女自身も騒動の渦中へと放り込まれ、その日常も大きく揺るがされる。彼女がそうしたことまで理解していたのかについては疑問符が付く。

 一方で井上氏は「どんなに信頼できる友達であっても打ち明けることに長女が躊躇した可能性があり、だからこそChatGPTに相談したかもしれません。もし、それが事実だとしたら、その気持ちは理解できるのではないでしょうか」と指摘する。

 データの裏付けもある。シンクタンク「ピュー研究所」は2月、アメリカの10代がどのようにAIを活用しているか調査し、リポートを発表した。(註1)

 それによるとアメリカでは10代の約16%が「人工知能と雑談している」と回答し、さらに約12%が「感情面のサポートやアドバイスを依頼している」という。

 日本では昨年7月に電通が調査を実施し、「チャットAIに感情を共有できる人は64・9%で、親友や母親を上回る」との結果を発表した。(註2)

AIの使用を煽る投稿も

「まず注目すべきは、『これからは人工知能を使える人間になる必要がある』という社会的圧力が日本でも強くなっている点です。最近では高校生の子供に『もうすぐ大学生なのだから、ChatGPTぐらいは使えるようになりなさい』と助言する親も珍しくありません」(同・井上氏)

 意識の高い、先進的な取り組みに熱心な高校では、生徒に生成人工知能の使い方を授業で教えているという。

「さらにXなどのSNSやInstagramなどの動画サイトでも『AIを活用しましょう』と、煽るような内容の投稿が拡散を続けています。話題を集めるのは『人工知能を職場で活用する方法』より『どうやってAIに身近な相談を行うか』です。確かに普通のビジネスパーソンがAIを仕事で使う場面は、まだそれほど多くはありません。一方、ダイエットの悩みや上司の悪口をAIに聞いてほしい人はたくさんいます。そのためネット上では『ChatGPTが得意な相談内容は、このジャンル』とか、『Google Geminiに相談するならこのジャンル』といった真偽不明の情報さえ飛び交っているのです」(同・井上氏)

 他人には秘密の話題でも、簡単に相談できるのは確かに便利だろう。おまけにスマートフォンにAIのアプリをダウンロードすれば、パソコンを起動させる必要さえない。

重要な「個別性」の問題

 だがAIの回答を全面的に信じていいのだろうか。今回の騒動でも、その点は懸念材料として今も議論の対象になっている。

 先に触れた通り、阿部氏の長女が「父親に暴力を振るわれた」とChatGPTに相談した際、このAIは長女の父親が巨人の監督という極めつきの有名人であり、児童相談所への連絡は騒ぎが大きくなる危険性を全く予想できなかった。

「ところが人生相談の場合は少し様相が異なります。私も『AIに人生相談をするユーザーが増えている』との話を聞き、実際に試してみました。人間関係の悩みを入力すると、意外に気の利いた回答を表示するのです。つまり『配偶者への不満』とか『パワハラ上司の対処法』など類例の多い相談内容なら、ネット上にも助言を筆頭に大量のデータが蓄積されています。AIは情報収集と分析なら得意ですから、普通の人生相談にはそれなりの回答が可能なのです。一方、『巨人の監督である父親が長女に暴力を振るった。どう対処するか』という事案は個別性が極めて強く、いくらネットを検索しても解決法が見つかりません。そのためAIは『児相に相談しなさい』という原理原則に基づいた回答しかできず、結果として騒動を大きくしてしまったのです」(同・井上氏)

AIが奪う「考える力」

 AIの黎明期から「人工知能とは楽しい会話が可能だ」と過度に熱中してしまったユーザーは存在したという。AIに結婚を申し込んだり、引きこもって会話を続けて死亡したりしたケースが記録に残っている。

 人工知能を正しく使いこなすためには「最初ではなく最後に使うことを心がけるべき」と井上氏は言う。

「最初から使うから問題が生じるのです。難しくて分からない宿題の解き方をAIに聞くのは活用法に含まれるかもしれません。しかし最初から解かせたら単なるズルです。相談も同じでしょう。悩みが心に浮かんだとします。近くのスマホを手に取ると不安を投稿し、AIの回答を読むことを繰り返していると、人間にとって最も大切な思考やコミュニケーションを放棄していることになります。悩んだら自分で調べ、考えてみる。それでもダメなら両親や友達、配偶者など身近な人々に相談してみる。それでも芳しい結果が得られなかったら初めてAIに相談してみる。考える力は生きる力と同義です。AIに考える力を奪われないように日々を生きる必要があると言えます」(同・井上氏)

「生きづらい社会」との悲鳴

 今回、阿部氏の辞任を受け、SNSでは「生きづらい社会になった」という悲鳴が殺到した。その背景には何が存在するのか、

 第1回【巨人「阿部監督」の辞任劇にネット上で「生きづらい時代になった…」の声が噴出する理由 ChatGPTの提案した「合理的な解決策」への違和感も】では、原理原則の対処法だけが優先され、“人情”が二の次となってしまった日本社会のリアルについて詳細に報じている──。

註1:About 12% of US teens turn to AI for emotional support or advice(TechCrunch:2026年2月25日)

註2:チャットAIに“感情を共有”できる人は64.9%、「親友」「母」を上回る 電通調査(ITmediaAI+:2025年7月3日)

デイリー新潮編集部