阿部前監督の胸中は

写真拡大

 暴力は絶対にアウトだ。しかし“モヤモヤ”した気持ちが拭えない。とにもかくにも、息苦しい世の中になったものだ──。SNSでは今、こんな嘆きの声が大量に投稿されているのをご存知だろうか。プロ野球・巨人の阿部慎之助・前監督は5月25日、自宅で姉妹喧嘩を仲裁しようとした際、長女に暴力を振るったとして警視庁に現行犯逮捕された。翌26日に巨人は記者会見を開いて阿部氏の辞任を発表し、本人が記者の質疑応答に応じた。(全2回の第1回)

 ***

【実際の写真】電子タバコの箱を握りしめて、不安げな表情で… 釈放直後の「阿部慎之助」前監督の姿

 会見で阿部前監督は大粒の涙を流す場面もあった。まずはXにどんな意見が投稿されているのか見てみよう。共通するキーワードは「生きづらさ」だ。

阿部前監督の胸中は

《いかなる暴力も論外だし、阿部慎之助を擁護する気は毛頭ないけど⋯生きづらい世の中になってしまった》

《娘の通報から人生が一気に崩れる(略)寛容性が無くなってきて、生きづらい世の中になった》

《親子喧嘩で即逮捕されて監督辞任させられるの……? 娘さんの手紙の内容が本当だったら世の中生きづらすぎない……?》

《家庭で暴力をふるうものが野球チームの監督としてふさわしいとは思わない(略)とはいえ社会的に抹殺されるほどの悪行三昧とまでは思わない 社会が生きづらくなった》

《当人同士では解決してるようだし、何のために辞任するんだろうか(略)結果がどうあれ、とりあえず大事になってしまったら即引責の風潮でどんどん生きづらくなる》

《生きづらい世の中の空気に疲れてきた日本人も増えてきたのかな。阿部慎之助を擁護する人が多いのをみると》

 ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「率直に言って、阿部さんに同情する意見がネット上で相当な数に達しているのは事実です」と言う。

強いショックを受けた管理職

「『今の時代、どんな理由があっても暴力はダメ』という認識も共有されています。そのためXに投稿された大量のポストを見ると『逮捕されたのは仕方がないが』とか『擁護するつもりは毛頭ないが』といった前置きも非常に目立ちます。しかし逮捕以降の動きについては強い違和感を示す人が圧倒的多数です。つまり根本的な原因は“姉妹のケンカ”であるにもかかわらず、それが巡り巡って巨人軍の監督を辞任しなければならないというのは理不尽ではないのかという意見です」

 これが40代以上の管理職ともなれば「部下のマネジメントで苦労している人が多いので、Xへの投稿もより切実な内容になります」と井上氏は言う。

「管理職の皆さんは『パワハラの被害に苦しんでいる若手社員は多いのだろう』と理解を示し、『自分もパワハラやセクハラの加害者にならないよう、阿部さんの辞任を他山の石とし、日々注意する必要がある』と自戒しています。とはいえ、阿部さんが一発でアウトになってしまったことの動揺も強い。部下との間にわずかなボタンの掛け間違いが発生しただけでハラスメントの加害者と認定され、会社で働けなくなってしまうのでないかという恐怖に怯えている。そのためSNSに『生きづらい世の中になった』と切実な気持ちを投稿しているわけです」(同・井上氏)

“忖度”も“共感”もAIは不可能

 なぜ、こんなことが起きてしまったのか──。やはり阿部氏の長女がAI(人工知能)の「ChatGPT」に「父親に暴力を振るわれた」と相談したことが大きかったようだ。

「巨人の監督だった阿部さんは超有名人ですから、長女も友達などに相談するのは躊躇したのかもしれません。とはいえ、当たり前ですがAIは感情を持ちません。人間の感情も理解できません。“忖度”や“共感”は不可能ですし、空気を読んで行動することも無理です。もし長女が友達にLINEで『父に暴力を振るわれた』と相談したなら、友達は『何があったの!?』と通話で詳しく事情を聞くはずです。ちゃんとした友達なら、父親が巨人の監督であるという特殊な状況も考慮しながら善後策を一緒に考えるでしょう。そもそも人間は話をしているだけでも気が紛れるものです。友達に相談していれば、児童相談所という選択肢は後回しになったのではないでしょうか。これに対してAIには『まずは解決を急がず、相手の話にじっくり耳を傾けよう』との発想はありません。父親が阿部監督であるという特殊事情も無視し、原理原則に従って『児相に通報すべきです』とアドバイスするのは当然だとも言えます。何しろ課題に対して最も合理的であり、コンプライアンス上の問題もなく、コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスが最適である解決策だからです」(同・井上氏)

「人間的」な対応はゼロ

 さらに井上氏が注目するのは、長女の通報を受理した児童相談所も警視庁も、人間的というよりは“AI的”な対応に終始したことだ。

「児童虐待の事案が発生するたび、児相は『なぜ動かなかった』と批判の対象になります。ストーカー事件で犠牲者が生まれると警察にも同じ非難が殺到します。今回、長女が通報してからの児相と警視庁の動きは非常に迅速であり、評価する専門家も少なくありません。しかし、それでもネット上では『あまりにもマニュアル的な対応ではなかったか』と違和感を表明する人も相当な数に達しています。つまりChatGPTだけでなく、児相も警視庁も『まずは長女からじっくりと事情を聞いたのだろうか?』と疑問視している人が多いということです。『父親の現行犯逮捕が必要という緊急の対応が求められる事案だったとしても、長女の悩みに耳を傾けた人間が誰もいなかった』……これこそ私たちが今回の騒動で“モヤモヤ”している最大の理由なのではないでしょうか」

 長女が友達ではなくChatGPTにアドバイスを求めたことに驚く人は非常に多い。だが、私たちが想像する以上に、人工知能に“人生相談”を依頼しているユーザーは多いという。

 第2回【巨人「阿部監督」辞任で浮上した「悩みを相談するなら親友よりも生成AI」という10代のリアル…専門家が使いこなす方法を伝授「AIに相談するのは“最初から”ではなく…」】では、なぜAIにアドバイスを求める人が増え続けているのか、井上トシユキ氏の詳細な解説をお伝えする──。

デイリー新潮編集部