路上売春で300万円、15歳少女が″推し″に捧げた全て 「メン地下」という沼【スポットライト】
その夜も、15歳の少女は、東京・歌舞伎町の路上に立っていた。通り過ぎる男性からの視線を感じながら、声を掛けられるのをじっと待つ。
「いくら?」
中年の男に問われると、あらかじめ決めていた金額を伝える。うなずいた男に連れられ、近くのホテルへ入っていく。
ベッドに横たわりながら、意識を遠ざける。まぶたの裏に映るのは、ステージ上で輝く“推し”の姿だった。
一緒にディズニーに行くんだ――。
そう自分に言い聞かせながら、ただ時間が過ぎるのを耐えていた。
“メン地下”に大金を支払う未成年
少女がのめり込んだのは、メンズ地下アイドル(メン地下)だった。
小規模なライブハウスを中心に活動する、男性版の地下アイドル。近年、このメン地下に多額の金をつぎ込む未成年が増えているという。
中には、その資金を作るため売春行為をする少女もいる。
メン地下に関する規制はほぼ存在しない。
そして、そうした過激な“推し活”をめぐる問題は、「本人の問題」「自業自得」と片付けられることも少なくない。だが、取材を進めると、そこには未成年が容易に入り込み、抜け出しにくくなる構造が見えてきた。
メン地下の“沼”に落ちた中学生
少女は、現在高校1年生。中学2年生の時、TikTokでメン地下の存在を知り、興味半分でライブ会場を訪れた。
初めて会場を訪れると、すぐにステージから目が離せなくなった。
きらびやかな衣装を身に纏った、端整な顔立ちのアイドルたち。会場は小規模で、ステージとの距離は手が届きそうなほど近い。
ライブ中、何度も目が合う。手を振ってくれる。その体験は、画面越しのアイドルとは全く違ったものだった。
直後に開催された「物販」の時間で、メン地下独自の仕組みを知った。
1枚千円ほどの写真(チェキ)を購入すると、写真撮影とともに、カーテンや個室の中で数分間、メン地下と二人きりで会話ができる。
初回の特典として、無料でチェキ1枚の権利をもらった。
さっきまでステージで輝いていた本人が目の前にいる。手を重ねられ、「今日はありがとう」と笑いかけられた時、「この人を応援してあげたい」と思った。
目標は「推しとディズニー」
毎週のようにライブに通うようになった。
最初は1枚だけだったチェキの購入は、次第に数十枚へと増えていった。
もっと会いたい。自分だけを見てほしい。他のファンにも負けたくない――そんな気持ちだった。
さらに、使った累計金額に応じて特典があることも、課金の拍車をかけた。
50万円で1時間ゲームセンター、100万円で3時間のデート。さらには、150万円でディズニーランドに一緒に行ける。
いつしか少女の目標は、「“推し”とディズニー」になっていた。
足を踏み入れた路上売春
しかし、中学生にそんな大金を用意する手段はない。少女が選んだのは、東京・歌舞伎町のホテル街で身体を売ることだった。
路上に立ち、男性から声を掛けられるのを待つ。時には、未成年売春を斡旋する人物が、中年男性を連れてくることもあった。
1回に得られる報酬は1〜2万円程度。
そのほぼ全てがメン地下に消えていった。
信じた“推し”の言葉
推しには、自分が未成年であることや、身体を売って資金を作っていることは打ち明けていた。
しかし、その事実を聞いた推しは、笑顔でこう告げた。
「アイドル辞めたら迎えに行くから、いま頑張って」
少女は、その言葉を信じた。
つぎ込んだ金額は、約300万円にのぼった。
しかし、推しは何も告げることなく、ある日突然、メン地下を引退。再び会うことはなかった。
規制のないメン地下
“疑似恋愛”でファンを引きつける――。
こうした、男性が恋愛感情を利用して金銭を集める構造は、ホストクラブと似た側面がある。
しかし、ホストクラブでは近年、「売掛金問題」が社会問題化し、風営法改正で規制が強化された。一方、メン地下には同様の規制は存在しない。
しかも、飲酒を伴うホストクラブと異なり、未成年でも容易に足を運ぶことができる。
無論、全てのメン地下が悪質というわけではない。
ただ今回の取材では、判断能力が十分に成熟していない未成年が、課金のために路上売春にまで足を踏み入れる実態が確認された。
そして、その状況を止めるどころか、容認、後押しする大人たちの姿も見えてきた。
メン地下「売春で稼ぐこと否定しない」
こうした実態を、メン地下側はどう捉えているのか。
実際に、少女が100万円以上を支払ったという“推し”の一人に会うことができた。
未成年が多額を費やし、その資金を売春行為で作るケースがあることについて尋ねると、「女性に年齢や職業を聞く事は失礼なので、一切知らない」と説明した。
その上でこう続けた。「売春行為自体は悪いことだと思うが、そうやって稼ぐことを否定も肯定もしない」
メン地下「コスパいい」
別のメン地下は、多い時で月200万円近い収入があると話し、「ホストよりコスパがいい」と明かした。
「出勤は週の半分ほど。ホストみたいに毎日働かなくていいし、酒も飲まなくていいから」
ファンには未成年も多いという。
売春行為で資金を作っている少女がいることも知っているが、「別にどうも思わない」と突き放す。
「僕たちは稼げるし、あっちも好きで払っている。何が問題なんですかね」
専門家「複数の手段検討を」
未成年が容易に入り込める環境の中で、多額の金銭が動き、その先で売春行為にまで至るケースもある。
こうした状況を止めることはできないのか。
歌舞伎町で若者らの支援を行っている「公益社団法人日本駆け込み寺」の清水葵代表理事(27)の下には、メン地下に入れ込む娘を心配した保護者らからの相談が数多く寄せられているという。
「SNSの影響で、メン地下にハマる女性が増加し、かつ低年齢化しているのを現場で感じる」と話す。
今後必要な対策としては、「まずは何が起きているかを可視化することが出発点。その上で高額料金やデート特典の見直しといった業界ルールの統一、自治体レベルでの規制など、複数の手段を検討する必要がある」と指摘した。
「僕たちのメリットないですよね」
ただ、実際に規制などの対応策を実行していくには課題が多い。
警察庁に尋ねると、メン地下が未成年の売春行為の一因になっているケースを把握しているとした上で、「“アイドル”の定義が曖昧なことなど、適法な営業との区別が困難」と説明。「現行法の中で、違法に当たる行為があれば取り締まりをしていく」とコメントするにとどまった。
行政による対応に限界があるとすれば、業界による自主的なルール作りはできないのか。
取材の中で、あるメン地下に尋ねると、こう笑い飛ばされた。
「僕たちのメリットないですよね。稼げなくなるので」
白い歯からこぼれるそんな言葉を聞きながら、歌舞伎町の路上に立つ少女の姿が頭によぎった。
誰かにとって無邪気に語れる話が、誰かにとっては夜の路上に立つ理由となっている。
その温度差のある二つの光景が同じ構図の中にある。そんな現実に、言いようのない薄気味悪さを覚えた。(松岡紳顕)
