(※写真はイメージです/PIXTA)

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親から子への住宅購入資金の援助は、珍しいことではありません。若い世代にとって住宅価格の上昇や教育費負担は重く、親世代の支援が購入の後押しになるケースもあります。一方で、援助が大きくなるほど、親自身の老後資金や子どもの自立とのバランスが問われます。善意の支援が、家族関係を揺るがすこともあるのです。

「親が出せば、買える」住宅購入をめぐって見えた子どもの甘さ

修一さん(仮名・67歳)と妻の芳江さん(仮名・66歳)は、夫婦合わせて月30万円ほどの年金を受け取り、退職金を含めた貯蓄は約6,000万円ありました。住宅ローンはすでに完済。日々の生活は堅実で、老後資金についても「大きな不安はない」と考えていました。

そんな夫婦に、長男から相談がありました。

「マンションを買おうと思っているんだけど、頭金を少し助けてもらえないかな」

長男は40歳。妻と幼い子どもが1人おり、共働きです。都内近郊でマンション購入を検討していましたが、希望物件は予算を大きく上回っていました。

当初、修一さんは前向きでした。

「孫もいるし、住まいが安定するならいいことだと思いました。自分たちに余裕があるうちに、少しでも助けてやれればと」

住宅購入資金として1,500万円を援助するつもりでいました。ところが、話を進めるうちに、修一さんは違和感を覚えるようになります。

長男は「親から1,500万円出してもらえる前提」で物件を選び、ローン返済のシミュレーションもかなり楽観的でした。

「変動金利だから当面は大丈夫」

「ボーナス払いを入れれば何とかなる」

「足りなければ、また相談するかもしれない」

その言葉に、芳江さんは表情を曇らせました。

「また相談するって、どういう意味なの?」

長男は悪びれた様子もなく、「教育費もあるし、親に余裕があるなら助けてほしい」と答えたといいます。

その瞬間、修一さんの中で何かが引っかかりました。

「これは住宅購入の援助ではなく、生活設計の穴埋めになるのではないかと思ったんです」

修一さんは、改めて自分たちの老後資金を見直しました。

総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の実収入は月25万4,395円、可処分所得は月22万1,544円、消費支出は月26万3,979円です。平均的には、毎月の収支は赤字となり、貯蓄の取り崩しが前提になりやすい構造です。

修一さん夫妻は平均より年金収入も貯蓄も多いものの、今後の医療費や介護費、住宅修繕費を考えると、1,500万円の援助は決して小さくありません。

「出せない金額ではない。でも、簡単に出していい金額でもない」

老後資金と親子関係の境界線

さらに修一さんを悩ませたのは、長男の態度でした。

住宅購入後の返済計画を詳しく聞いても、「何とかなる」という返事が多く、家計の見直しや支出削減にはあまり関心を示しませんでした。

「こちらが援助すればするほど、本人たちが無理な買い物をしてしまうのではないかと感じました」

芳江さんも同じ思いでした。

「助けたい気持ちはあります。でも、親のお金を最初から当てにしているように見えてしまって……甘やかしすぎたかもしれないと思いました」

夫妻は最終的に、1,500万円の援助を白紙に戻すことを決めました。長男には、次のように伝えました。

「援助を前提に物件を決めるのではなく、まず自分たちの収入で無理なく返せる金額を考えてほしい」

長男は当初、強く反発しました。

「今さら無理って言われても困るよ」

それでも、修一さんは譲りませんでした。

「困るのは分かる。でも、親の老後資金をあてにした計画なら、それは最初から無理がある」

その後、長男夫妻は物件価格を下げ、購入時期も見直すことになりました。修一さん夫妻も、支援を完全に拒否したわけではありません。必要であれば、非課税制度の範囲や贈与税の扱いを確認したうえで、無理のない金額を検討するつもりです。

「親だから助けたい。でも、助け方を間違えると、本人たちのためにならない」

家族への援助は、愛情の表れです。しかし、金額が大きくなるほど、感情だけでは判断できません。親の老後、子どもの自立、税制上の扱い。それらを冷静に見たうえで決める必要があります。

「出してあげることだけが親の役目ではないのかもしれません」

夫妻が援助を白紙に戻したのは、見放すためではありませんでした。長男夫妻が、自分たちの生活を自分たちで設計するための、厳しい一線だったのです。