この記事をまとめると

■ホンダの初代NSXは日本を代表するスーパーカーといえるクルマ

■2005年にSUPER GT参戦のためのホモロゲーションモデル「NSX-R GT」を販売した

■ベース車の4倍以上というあまりに高額な金額だったため1台しか売れなかった

驚異のプライスも相まって1台しか売れず……!

 NSXの3文字に心惹かれないクルマ好きはモグリだろう。NSXとは、もはや説明するまでもないが、ホンダが1990年に市場に投入した、世界初となるオールアルミモノコックボディに、3リッターV6のNAエンジンを車体リヤ側に搭載したミッドシップレイアウトを採用したモデルであった。価格は約800万円からという、当時の日本車史上最高額となるプライスを掲げた、まさに和製スーパーカーに相応しい中身として世に放たれた。

 このNSXを生産するために、ホンダは専用工場まで建てる本気ぶりで、のちにいまでも続くタイプR伝説の祖となる、NSX-Rを設定したのもこのモデル。伝説のF1ドライバー、故アイルトン・セナが鈴鹿サーキットを全開で走って楽しむ映像が残っていたり、ル・マン24時間耐久レースや全日本GT選手権(SUPER GT)などのモータースポーツシーンでも大活躍した名車中の名車だ。

 NSXは1997年のマイナーチェンジで3.2リッターV6エンジンにアップグレードされたほか、5速MTから6速MTに進化、2001年にはアイコン的存在だったリトラクタブルヘッドライトから固定式に変更された。2002年には、いまや海外のオークションで1億円近くのプライスで落札されることもある、02Rと呼ばれるNSX-Rが登場するなど、さまざまな進化、派生車を世に送り出し、2005年に生産と販売を終えた。じつに15年もの期間販売されたロングセラーでもあったのだ。

 その後、北米では2016年、日本では2017年にハイブリッド+AWDという当時のホンダがもつ最新技術を詰め込んだ2代目NSXが登場。マイナーチェンジやTypeSといった派生車などを生み出し、2022年まで販売されていた。

 さて、そんな輝かしい歴史が詰め込まれた日本の至宝NSXであるが、レース用に作られたスペシャルモデルや試験用などの特殊なモデルを除いて、なんと1台しか世に出なかった、幻のモデルが存在するのをご存じだろうか?

 それこそが、2005年というモデルライフ末期に発表された「NSX-R GT」である。

 このクルマ、名前のとおりNSX-Rをベースとしたモデルというのは、誰が見てもわかるだろう。しかし、後ろに「GT」の2文字がくっついている。しかしこの2文字、よくあるGTの略称である「グランドツアラー」を意味しているのかと思えば、そんな生半可なモノではない。このGTは「SUPER GT」からくるGTなのだから……。

 この「NSX-R GT」、2004年まで開催されていた、全日本GT選手権から現在のSUPER GTに名称が変わる2005年に設定されたモデルであり、レース車両のホモロゲーションを得るために企画されたモデルだ。なので、先日当媒体で紹介した日産フェアレディZ TypeEと同じく、前後オーバーハングが伸ばされ、ベースのNSX-Rと比較してかなり間伸びしていることがわかる。

 数値では、ベース車と比較して全長は+180mm、全幅+90mmとなり、前後はカーボン製バンパーを装備。左右ドア後部に備わるダクト(エアインテーク)も専用デザインで超巨大。明らかに只者ではないオーラを漂わせている。

この金額でも赤字スレスレ

 そしてこの「NSX-R GT」を象徴するパーツが、ファンの間で「ちょんまげ」と呼ばれる、ルーフ部にそびえ立つ巨大なダクトだ。しかしこれ、残念ながら穴が空いているだけのダミーで、エンジンルームまで貫通していない。このパーツの目的は、ホモロゲーションを得るためであり、実際にレース車両ではラム圧を高めて吸気効率を稼ぐためのパーツとして大活躍した。

 この「ちょんまげ」が「NSX-R GT」にないと、「ホモロゲーション車両にないパーツじゃないか!」と車検で突っ込まれ、車両規定違反となってしまう。よって、ホンダ的には極めて重要なパーツであった。なおこちら、純正オプションパーツとして当時85万円ほどで販売されていた。もちろんそのままつけただけでは機能しない飾りでこの額なのでろくに売れず、いまでは激レアパーツとしてプレミア価格で取引されているそうだ(サードパーティ製も存在する)。

※画像は他車両に使用された同一のパーツ

 なおこの「NSX-R GT」だが、エクステリア以外は通常のNSX-Rとまったく同じ。特別速いとか、よく曲がるとかはないそう。ただし、GTマシン譲りの専用のカーボン製バンパーとディフューザーによる空力特性はかなりのもので、走らせると通常のNSX-Rとは別物とのことなので、サーキットによっては、1秒ないし2秒くらいはタイムが変わるかもしれない(!?)。

 さて、この「NSX-R GT」であるが、先ほど「1台しか売れなかった」と記述したがそれはなぜか。その理由は価格にある。例に挙げたフェアレディZ TypeE、こちらもエンジンなどはまったく手付かずで、ガワだけGT車両にしてベース車に約+300万円の650万円で販売されていたのに対し、この「NSX-R GT」は、なんと5000万円というプライスであったのだ! その価格、ベース車比でなんと4倍以上。

 ベースのNSX-Rが約1200万円だったので、驚異の+3800万円となっている。しかし、その価格は主に前後バンパーとダクト、ちょんまげ分である。期間限定受注で限定5台の販売であったが、この中身に対してこのプライス、1台しか売れなかったのも納得だ。

 しかし、ホンダの関係者曰く「この額でも赤字かも……」という世界だというのだから、クルマは恐ろしい。余談だが、フェアレディZ TypeEも受注期間の1カ月で7台しか売れなかったとのこと。こちらもバンパーの金型代を考慮すると赤字だったらしい(それを補うために同じ外観でエンジンや足まわりにチューニングを施したお買い得なNISMOモデルが作られた)。

 この「NSX-R GT」は当時、大手美容・健康食品系企業を率いるクルマ好きな社長が買ったといわれており、街を走っている光景を見たという報告も散見された。現在は国内で高級車やスーパーカー、レーシングカーなどを扱う自動車系ディーラーが保有しているそうだ。

 1台しか存在しない幻のNSX、もし見る機会があればその圧倒的オーラを目に焼き付けてほしい。