フードデリバリーの「1人1回」限定割引クーポンを「複数回利用」…罪に問われる? 弁護士が解説
フードデリバリーサービスの初回限定クーポンを複数の電話番号で利用して、何度も割引を受けてしまった。罪に問われることはあるのか? そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者は、複数の携帯番号を持っていたので、番号ごとにクーポンを利用できると勘違いしていたそうです。実際には、このクーポンは「1人1回」という制限があり、別の回線で新たにクーポンを利用することはできない規約になっているようです。
相談者は、すでにサービスを提供する会社に自ら申告し、返金を申し出ているといいます。「同様の件で逮捕者が出ている」と聞き、自分も逮捕されてしまうのではないかと不安を感じているとのことです。実際に罪に問われる可能性はあるのでしょうか。簡単に解説します。
●「詐欺罪」ではなく「電子計算機使用詐欺罪」が問題に
この事例では、サービスを「だましている」ように思えるため、詐欺罪(刑法246条)が成立するように感じる方も多いと思います。
しかし、詐欺罪は「人を」欺いた場合に成立する犯罪です。
本件のように、別の電話番号で会員登録し、1人1回しか使えないクーポンを取得する行為では、だましたのは「人」ではなく、システム(コンピュータ)です。
そのため、詐欺罪ではなく電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)が問題になります。
この罪は、コンピュータに「虚偽の情報」を入力して不正な利益を得ることを処罰します。法定刑は10年以下の拘禁刑です。
「1人1回のみ」の利用を前提としているサービスに、別の電話番号で複数回登録する行為は、この「虚偽の情報」の入力にあたる可能性があります。
少し難しいのは、相談者が「1人1回のみ」というルールを知らなかった、ということです。
一般に、ルールを知らなかったとしても犯罪の成立は否定されないのですが、本ケースの場合、「虚偽の情報」を入力しているという認識自体がなく、犯罪が成立しないとされる可能性もあるように思います。
仮に成立するとしても、事情を知らなかったことは刑が軽くなる要素になり得ます。
●本件では逮捕の可能性は低い
相談者も不安を感じているように、クーポンの複数回利用で逮捕されているケースがあります。
たとえば2022年には、出前館で偽名と14枚のSIMカードを使って14件の利用登録を行い、計約2万3800円分の割引を不正取得したとして、電子計算機使用詐欺罪で男が逮捕されたと報じられています(読売新聞オンライン、2022年1月12日)。
この事例では、男はすでにSMS認証の不正代行で逮捕・起訴されており、電子計算機使用詐欺罪での身柄拘束は再逮捕というケースでした。
これは今回の相談のケースと比べ、非常に悪質といえるでしょう。
今回の相談のケースでは、仮に犯罪が成立したとしても、実際に刑事事件として捜査されたり、逮捕されたりする可能性は低いと思います。
相談者はルールを勘違いして番号ごとに会員登録してしまったとのことで、しかも自発的に申告しており、悪質性が低いといえるからです。
警察が動く場合には、本人がどう主張しているかだけでなく、客観的な事実を調べられることになります。
利用回数や被害額の大きさ、他人名義や偽名を使ったか、自発的な返金申し出があったか、などの事情が捜査されると考えられます。
たとえば、利用した携帯電話がプライベート用と会社用の2本だけで、長年利用している回線だった、といった事情があれば、相談者の主張が真実だと認められやすいでしょう。
逆に、個人という割には携帯電話の契約が非常にたくさんあったり、SIMの契約が実は登録の直前で、サービス利用直後に解約されていたりすれば、供述の信用性を疑われますし、悪質な事案と判断され、逮捕されたり刑事裁判に発展する可能性があります。

