(※写真はイメージです/PIXTA)

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秋田県で小さな商店を切り盛りしながら、一人息子を東京の有名大学へ進学させた高橋和子さん(仮名・78歳)。「息子だけは苦労させたくない」と、自身の老後資金を削り、着るものも食べものも切り詰めて学費を出し続けてきました。しかし、月11万円の年金生活で行き詰まり、ひり出すように漏らした「助けてほしい」という本音が、息子の逆鱗に触れます。期待していた老後の支えどころか、突きつけられたのは「着信拒否」という冷酷な拒絶でした。

息子の成功が、私の人生の通信簿だった

秋田県内の商店で、夫と二人三脚で働いてきた高橋和子さん(仮名・78歳)にとって、一人息子の健太さん(仮名・45歳)は希望の光でした。「私のような学のない人間は苦労する」という思いから、和子さんは自分のための貯金をすべて健太さんの教育に注ぎ込みました。

健太さんは期待に応えて現役で私立大学に合格。和子さんは、仕送りのために店が終わった後も深夜まで内職を続けました。その甲斐あってか、現在、健太さんは都内の大手IT企業で役職に就いています。

「息子が東京で家を買ったときは、自分のことのように嬉しくて。秋田の友達にも『息子が東京で大出世したのよ』と自慢していたんです。息子の成功が私の人生の通信簿だと思っていました」

何気ない「SOS」が招いた、突然の息子の怒り

10年前に夫を亡くし、現在は月11万円の年金で細々と暮らしています。しかし、昨今の物価高騰と、築40年を超える自宅の修繕費が和子さんの生活を圧迫しました。

ある日の電話で、和子さんは意を決して、これまで口にしたことのなかった「相談」を健太さんに切り出しました。

「健太、最近どうしても生活が苦しくて……。月々1万円でもいいから、援助してもらうことはできないかしら。お母さん、もうギリギリなの」

和子さんには、あれほど尽くしたのだから息子も分かってくれるはずだ、という甘えがあったのかもしれません。しかし、返ってきたのは、和子さんの心を打ち砕くような、冷徹な怒声でした。

「お母さん、いい加減にしてよ! こっちだって住宅ローンと子供の塾代で精一杯なんだよ。自分の老後の計画も立ててなかったの? 悪いけど、これ以上俺の家族の足を引っ張らないでくれ!」

まさかの着信拒否?私は息子から捨てられたのか…

あまりのショックに、和子さんはその場で座り込んでしまいました。翌日、謝ろうと電話をかけましたが……。

「最初は故障かと思ったんです。でも、何日経っても繋がらない。近所の人にスマホを見てもらったら、“着信拒否されているかも”って……。LINEもずっと既読にならない。息子から、私は捨てられたんだと気づきました」

和子さんは震える手で、公衆電話から健太さんの番号を押しました。数回鳴って健太さんが出た瞬間、「母さんだけど」と名乗った途端、息子は「二度と連絡しないでくれ。これ以上、俺の生活を邪魔しないでくれ」と言い捨て、一方的に電話を切りました。

それ以来、健太さんからの連絡は一度もありません。和子さんが精一杯注いできた愛情は、息子にとっては何だったのでしょうか……?

「子どもへの投資は、最高の老後対策」という昭和の幻想

和子さんのようなケースは、現代の親子関係で急増しています。親世代には「子どもに尽くせば、最後は面倒を見てくれる」という期待がありますが、子世代は「自分たちの今の生活を維持するだけで精一杯」という現実があります。特に都心部で「エリート」として生きる息子たちにとって、地方の親からの金銭的な訴えは、自分たちの生活を脅かす恐怖にさえ感じるのです。

「私は息子を立派にするために生きてきました。でも、その結果がこれです。あんなに無理をしてまで大学へ行かせなければ、今でも時々は電話で話せる親子でいられたのでしょうか」

現在、和子さんは地域のサポートを受けながら、一日の大半をテレビの前で過ごしています。

「もう、生きてる意味がわからないんです。何のために働いて、何のために自分の服一枚買わずに節約してきたのか」

「子どもへの投資は、最高の老後対策」――そんな昭和の成功モデルを信じ、私財を投じてきたツケが、最悪の形で和子さんに回ってきました。かつて息子と笑い合った記憶は、もはや現在の困窮を慰めるどころか、自分を追い詰める「後悔」へと姿を変えています。