切り株の上に「エビフライ状のなにか」つくったのは「木の実を食べるあの小動物」いったい何のために?【岡山の珍光景】
生物に詳しい東洋産業の大野竜徳さんから、森の中でみつけたという岡山では珍しい画像が届きました。
【画像を見る】「森のエビフライ」いったい何の目的で?発見したのはどんな場所?
森の中の切り株で発見
大野さんが、ドライブの途中、山の中の開けた林道の入り口にある小さな広場で車を止め、休憩がてら軽く体を動かしていたときのこと、切り株の上に、どうにも気になるものが落ちていたといいます。
見た目は、まるで小さなエビフライ。これ、なんだと思いますか?
つくったのは、木の実を食べるあの小動物
──木製のエビフライのようなもの…これはいったい何でしょうか?
「これは見た目と見つかる場所から森のエビフライとも呼ばれるもので、これを作ったシェフはリス。
私たちが食べるエビフライは、食後にしっぽだけが残りますが、森のエビフライは、リスがまつぼっくりを食べたあとに残る、いわば食後の作品です」
「今回これを見つけたのは、岡山県北部の山林に切り開かれた林道の入り口。
しかし、この小さな痕跡は、今の森林環境を考えるうえで、なかなか意味深い存在です。
まつぼっくりは、自然に風で転がったり、時間が経って朽ちたりしても、このように均一で整った形にはなりません。
つまり、森のエビフライがある=リスがいる。
これは偶然ではなく、ここに野生のリスがいる、という明確な因果関係で、リスがここにいて、確実に食事をしたという、存在を強く示す、信頼性の高い痕跡ですね」
なぜこんな形に?
──なぜ、リスがまつぼっくりを食べるとこんな形になるのでしょうか。
(東洋産業 大野竜徳さん)
「ニホンリスは、とても几帳面な食事スタイルの持ち主で、樹上でまつぼっくりを前足で抱え、鱗片の先端ではなく、根元からまつぼっくりの鱗片を一枚ずつかじりとって、中にある種子(いわゆる松の実)だけを丁寧に食べます。
これは、中にある貴重な栄養源である種子を、無駄なく食べるための合理的な方法です。
勢いよく噛み砕くのではなく、一枚ずつ、規則正しく芯から削ぐように食べ進め、外側の鱗片だけがきれいに取り除かれ、芯だけが残り、あの独特のエビフライ型の残骸ができあがります」
「同じ齧歯目のいわゆるネズミの仲間たちも、まつぼっくりをかじることはあります。しかし、ネズミの場合は齧り跡が不規則で、エビフライのような均整の取れた形にはなりません。このあたりも、リスがいるかどうかを見分ける際の大切なポイントです」
岡山では珍しい光景
──岡山ではリスを見かけることは少ないですよね。
(東洋産業 大野竜徳さん)
「今回この森のエビフライを見かけた岡山県北部を含む中国地方では、リスは決して身近な動物ではありません。
ニホンリスは本州・四国・九州の森林に広く分布していたとされていますが、中国地方西部や九州では、すでに絶滅した地域もあるとされています。
岡山県でもリスは減少傾向にあり、生息確認は点在的です。岡山県版レッドリストでは、中国地方の地域個体群として『絶滅危惧Ⅰ類(近い将来における絶滅の危険性が極めて高い)』に指定されています。
かつては松林や雑木林が連続し、リスが樹上を移動しながら生活できる環境が広く残っていました。しかし、森林開発による分断や植生の変化によって、今では『どこにでもいる動物』ではなくなっています。
そのため、岡山県で野生のリスを探すのは難しく、痕跡が見つかることさえもなかなかむずかしいようです」
なぜ今回見つかった?
──今回、見つけたのはとても珍しいことなのでしょうか。
(東洋産業 大野竜徳さん)
「今回、簡単に見つかったのが一個だけだったという点も興味深い情報です。リスの個体数が多い地域では、地面にいくつも森のエビフライが落ちていることがあります。
一方、個体数が少ない地域では、ぽつんと一個だけ、という発見はむしろ現実的です。頻繁に利用する場所ではなく、移動の途中で立ち寄った可能性。それでも、この場所がリスの行動圏の一部であることは確かです。
動物を探すとき、私たちはつい上や前方に目を向けがちです。しかし、警戒心の強いリスが、都合よく姿を見せてくれることはほとんどありません。もし幸運にも森のエビフライを見つけたら、ぜひ周囲の環境にも目を向けてみてください」
「森のエビフライ」を探すには?
──森のエビフライはどのような場所にありそうですか?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「まず注目したいのは、松の存在。材料となるアカマツなど、まつぼっくりをつける松がなければ、森のエビフライは生まれません。次に、森のつながりです。
周囲に樹木が連なり、リスが地面に降りずに移動できそうな構造が残っているかどうか。リスは基本的に樹上性で、開けすぎた場所や孤立した林は避ける傾向があります。
そして、人の影響の少なさ。登山道の真ん中よりも、道の脇や木の根元、林縁など、少し静かな場所で森のエビフライは見つかりやすくなります。エサになる松が豊富にあり、移動できる森の連続性や隠れ場所があること、そして人の手が入りすぎていないこと。そうした条件がそろって、はじめてリスは暮らせます」
「リスの存在を知る近道は、足元観察です。まつぼっくりが散乱していないか、不自然に傷んでいないか。森のエビフライが落ちていれば、それが新しいものか、古いものか。
姿を見なくても、痕跡から森の中の暮らしを想像できる。それは、自然観察の醍醐味であり、森との距離を一段近づけてくれる視点です。森のエビフライは、かわいらしい名前とは裏腹に、その森の状態を静かに教えてくれます。
岡山では数が少ないといわれる野生のリス。この小さな痕跡は、ここはリスが生きる森だという、確かな証拠でした」
