「 AI 疲れ」で浮上 ラグジュアリーは触覚ストーリーテリングへ回帰している

記事のポイント
AI広告への不信感が広がるなか、ストラスベリーが手作業290時間の映像制作で温かさを提示している。
ラグジュアリーブランドが著作性と触覚表現を重視し、AIは補助的役割として限定的に活用している。
ヴヴェンドがライブ動画で質感や動きを伝え、購買体験の精度向上につなげる取り組みを示している。
ラグジュアリーブランドは、デジタル時代において「クラフト(手仕事)」が何を意味するのかを再考している。そしてこのホリデーシーズン、それはスローダウンすることを意味している。
エディンバラからニューヨークまで、スタジオやブランドはストップモーションや手作りのセット、触覚的なストーリーテリングを選択し、広告業界を支配する人工的な精密さへの意図的なカウンターポイントとしている。
ストラスベリーが選んだ「手作りの物語」としてのストップモーション
2013年創業のスコットランドのラグジュアリーアクセサリーブランド、ストラスベリー(Strathberry)にとって、その選択はフェルトとウールという形で表れている。
同社がプラハ拠点のスタジオ、ソー・デイズ(So Daze)と制作した2025年のホリデーキャンペーンは、創業者夫妻の愛犬に着想を得たジャイアント・シュナウザーのジェスが、ストラスベリーのエディンバラのタウンハウスをミニチュアで再現した舞台で完璧なクリスマスを作り上げるという物語である。
@strathberry Crafting a Strathberry Holiday Created by @sodazestopmotion #strathberry ♬ original sound - strathberry
精巧なセットには、400以上の手作業で切り出され配置されたレンガ、特注のフェルト素材、そしてすべて手で色合わせされたミニチュアのストラスベリーバッグが含まれる。20秒の動画は静止画(合計2282フレーム)で構成され、国際チーム8名が綿密なレタッチとアニメーションを施した。
制作プロセスは8月にはじまり、総計290時間以上を要した。
「春にソー・デイズと初めて組んだとき、映像の届け方に宿る温かさが、我々のブランドの本質にとても響いた」と語るのは、ストラスベリー共同創業者のリアン・ハンドルビー氏である。
「我々は『ハートフル』や『温かさ』を語るブランドであり、それを延長するものだと感じた」。
AI広告への不信感と「人間らしさ」を求める市場の変化
このストップモーションのストーリーテリングは、AI生成広告への業界全体の不安が高まるなかで登場した。
AIスタジオのシルバーサイド(Silverside)とシークレット・レベル(Secret Level)が制作したコカ・コーラ(Coca-Cola)の2025年「ホリデーシーズンがやってくる(Holidays Are Coming)」広告は、不気味でビデオゲームのような映像だと広く批判を受けた。
10月に公開されたエアリー(Aerie)の「AIなし、本物の人間(No AI,Real People)」キャンペーンは、2025年もっとも「いいね」を獲得したインスタグラム投稿となった。
ポラロイドやハイネケンも同様に「アナログの本物感」へ傾斜している。人々は感情と手仕事の証拠を、生成AIの新奇性より強く求めているようである。
ニューヨークのクリエイティブスタジオ、ホーネット(Hornet)の共同創業者であるマイケル・フェダー氏は、このトレンドはブランドがストーリーテリングをどう捉えているかという深い真実を反映していると語る。
「AIは我々の仕事を壊したり奪ったりするものではない。AIはツールにすぎず、人々が我々に求めているのは『人間らしさ』と『物語』であり、人間にしかできないクオリティなのだ」。
AIの活用は補助であり、主役はあくまで人間の著作性
ホーネットはこれまで、Apple、メタ(Meta)、Google、アドビ(Adobe)、Amazon、Spotify、エアビーアンドビー(Airbnb)といった企業と仕事をしてきた。
同社によれば、ラグジュアリーブランドはR&DレベルではAIを試しながらも、キャンペーンそのものには決定的にAIを使うことを避けているという。
「クライアントは好奇心旺盛だ」とフェダー氏は言う。
「『小さなデリバラブルをAIでスケールしつつ、主要なクリエイティブは人間の著作性を保てるか?』という会話が中心だ」。
コストプレッシャーがブランドに自動化を試させている側面もあるが、フェダー氏はもっとも成功するコラボレーションは依然として「アート性に根ざしたストーリーテリング」であると語る。
「AIがプロセスを速めたり、アーティストをより創造的な役割に集中させられるなら素晴らしい。しかしホリデーの大型キャンペーンは『著作性』の領域なのだ。人が感じ取れるものをつくることが重要だ。AIで作られたものは人は見抜く。どこか『人間らしさ』が欠けている」。
こうした『自動化と本物性』の緊張関係は、エージェンシー、スタジオ、ブランドの協働の仕方を形づくっている。
フェダー氏は現在の状況を「パニックではなく好奇心の時代」と表現する。
「AIディレクターを雇うつもりはない。著作性、物語、クオリティが我々の核心であり、それは変わっていない。むしろAIによってその価値は高まった」。
ストラスベリーにも同じ論理が当てはまる。
「AIでストップモーションを実現しようとは思わない。間違っているとわかってしまうから」と語るのは共同創業者のガイ・ハンドルビー氏である。
「AIで作れば見栄えはよいかもしれないが、それはバッグを巨大な機械で魔法のように量産するのと同じだ。それは我々が大切にしていることではない。我々は『ゆっくり、丁寧に、手で作るブランド』だ」。
このプロセスとプロダクトの並行性はストラスベリーのアイデンティティを定義する。
ストラスベリーの職人技と手間の積み重ねとしてのブランド哲学
同社のハンドバッグは完成まで最大20時間を要し、80以上のパターンピースと200以上のステッチで構成される。すべて南スペインのウブリケにある、ロエベなど欧州トップメゾンと同じ工房で職人たちが仕上げている。
「ストップモーションの一つひとつのフレームが集まって最終的な絵ができるのと同じ」とリアン氏は言う。
「誰もバッグに何個のピースが使われているか知らず、誰も小さなキャラクターが互いに愛情を示すために何フレーム調整されたか知らない。それが全部集まって『美しいダンス』になるのだ」。
世界的潮流として強まる「触覚的ストーリーテリング」への回帰
ベルリン拠点の戦略スタジオ、コー・マター(Co-Matter)の創業者で、モジラ (Mozilla)、ウィー・トランスファー(WeTransfer)、ロレアル(L’Oréal)と仕事をしてきたゼベリン・マチュセク氏は、この「触覚的なストーリーテリングへの回帰」は、より大きな文化的転換を象徴していると語る。
「今はある種の内省の時代にある。AIによって、何が人間の創造性をユニークにしているのか、誰もが問い直している。不気味さは美学の問題だけではなく、感情の問題でもある」。
マチュセク氏はAIを技術革新であると同時に文化的スケープゴートでもあると表現する。
「AIは、これまでのテックの進化がもたらしたあらゆる問題の象徴となっている。失業の不安、スピードが本質を凌駕する感覚、そして『誰も望んでいなかったのでは?』という思いだ。ラグジュアリーブランドはその不安を敏感に察知しており、逆方向に動きつつある。すなわち『ゆっくり、オリジナルで、再現不能なもの』へ向かっている」。
店舗体験まで拡張する手仕事の世界観づくり
ストラスベリーはこの姿勢をデジタル外にも広げている。エディンバラとロンドンの店舗では、雪に覆われたタウンハウスのシーンとフェルトのキャラクターをウィンドウディスプレイとして再現した。
同社は2013年の創業以来、英国に店舗を構えつつ、サックス・フィフス・アベニュー、ニーマン・マーカス、ブルーミングデールズ、ノードストロームなどで展開する世界的ラグジュアリーブランドへと成長した。
象徴的なゴールドバーをあしらった構造的なレザーバッグはエントリーラグジュアリーとして世界的な支持を集め、特に米国がもっとも急成長する市場となっている。ただし、売上については非公開である。
ストーリーテリングに手仕事を持ち込んでいるのはストラスベリーだけではない。ロエベ(Loewe)の2019年のホリデー動画「カワウソの物語(An Otter’s Tale)」は、ストップモーションと実写を融合し、温かみと遊び心を表現した。
エルメス(Hermès)も長年、ストップモーションのショート動画でスカーフやアクセサリーを小さなアート作品として際立たせてきた。これらのキャンペーンは、「コードではなくクラフト」に根ざした、遊び心と精密さを併せ持つラグジュアリーの言語としてのアニメーションの前例を築いた。
マチュセク氏は、この広い潮流を「人々が摩擦を渇望している証だ」と見る。
「すべてがフリクションレスになり過ぎて、人は物語やイメージ、世界そのものに質感を求めている」。
リアン氏も、触覚性はデザインの選択以上のものだと言う。
「我々はスローラグジュアリーの世界に生きている。デザインはタイムレスで、長持ちするよう作られている。ストップモーションでも、誰かが丁寧に時間をかけて、ひとつひとつの光を回し、あの小さな手で箱を包んでいる」。
フェダー氏は、これは新たなクリエイティブサイクルのはじまりに過ぎないと語る。
「振り子は常に揺り戻る。10年かけて、すべてを速く、滑らかに、最適化してきた。いま振り子は、人間らしさのある作品へ戻っている。そしてそこにこそ、最高のストーリーテリングが宿る」。
ヴヴェンドが示す、ラグジュアリー動画の新たなスタンダード
ラグジュアリー向け動画、コンテンツ制作、ライブコマース戦略を手がける新しいクリエイティブスタジオ、ヴヴェンド(Vvend)は、すでにファッション・ビューティー・ジュエリーの主要メゾンから注目を集めている。
「すぐに非常に多くのブランド、しかもトップレベルのブランドから連絡があった。それが市場がどれほど早く変化しているかの証拠だった」と語るのは、元ネッタポルテ(Net-a-Porter)のファッションディレクターであり、『あらゆるものを着こなす方法(How to Wear Everything)』のベストセラー著者であるケイ・バロン氏だ。ただし現在のクライアント名は非公開だという。
ヴヴェンドはプラットフォームではなくクリエイティブスタジオであるため、制作する動画はブランド自身のWebサイト、アプリ、SNSアカウントなどに直接掲載される。これらの配置はバンブーサー(Bambuser)の動画コマース技術で支えられることが多い。
バロン氏によれば、ラグジュアリーによるライブ配信ショッピングの採用が進まなかった理由は、ブランド価値の毀損への恐れではなく、社内体制であるという。
「ファッションは新しさで成り立っているが、販売方法は非常に伝統的だ。皆が何百もの仕事を抱え、負担の大きさが常に問題なのだ」と語る。
社内リソースが不足していたため、多くのブランドは中国の買い付け代行・配信者である代理購入(daigou)に依存してきたが、このモデルは売上は上がる一方でブランドの語り口とはしばしば乖離が生じる。
ヴヴェンドは、社内のスタイリストや販売員を起用し、統一されたストーリーテリングでブランド主導の高品質動画を制作することで、この状況を変えようとしている。
バロン氏は、ホストの役割が成功の中心だと語る。
「好感度は不可欠だ。最初の一声で心を掴めなければ、もう離脱される。インフルエンサーよりも、スタイリストや店舗スタッフが好成績を残すことも多い。顧客は一貫した存在に反応するのだ」。
ライブ配信がもたらす購入体験の深化と実店舗に近い納得感
ネッタポルテ時代、同氏はライブ配信の力を実感していた。同社は2021年にライブ配信シリーズを開始し、iPhone、照明担当1名、商品アップロード担当1名といった最小限の体制で取り組んだという。それでも結果は驚くほど良好だった。
「価格帯は関係なかった。ジュエリーや時計のような高額商品も、細部までわかるライブ実演によって売れた。動画を通じて動きやドレープ、フィットがわかることで、返品も減った」。
バロン氏は、ヴヴェンドは技術だけでは解けない問題に応える存在だと語る。
「洋服を買うという行為は感情的だ。AIはチームを支えることはできても、顧客の手を取ることはできない。動画にはそれができる」。
[原文:Luxury Briefing: Luxury’s holiday storytelling is the season’s strongest antidote to AI fatigue]
Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)
