全国のラーメンの名店が出店する「新横浜ラーメン博物館」(ラー博)は、年間80万人以上もの客が訪れる“ラーメンの聖地”です。横浜市の新横浜駅前にオープン後、2024年3月に30年の節目を迎えましたが、これまでに招致したラーメン店は50店以上、延べ入館者数は3000万人を超えます。岩岡洋志館長が、それら名店の「ラーメンと人が織りなす物語」を紡ぎました。それが、新刊『ラー博30年 新横浜ラーメン博物館 あの伝説のラーメン店53』(講談社ビーシー/講談社)です。収録の中から、 高知・須崎の閉店から40年以上たってもなお愛される鍋焼きラーメンの店「谷口食堂」を紹介します。

『ラー博30年 新横浜ラーメン博物館 あの伝説のラーメン店53』(講談社ビーシー/講談社、1760円)

知る人ぞ知る超熱いラーメン

四国というと、うどん文化圏ですが、高知県須崎市にはご当地ラーメンが存在します。うどん文化圏でありながら、地元の人から圧倒的な支持を受けていたのが「鍋焼きラーメン」です。なかでも愛されていたのが「谷口食堂」でした。

残念ながら、すでに閉店した店でしたが、新横浜ラーメン博物館には2013年1月に期間限定で復活出店していただきました。

鍋焼きラーメン作りにおいて、一番苦心したのは、麺が鍋で煮込んで伸びないようにすることだったそうです。今まで食べたラーメンでは体験できない超熱いスープが新鮮で、ほとんどの人がご飯を一緒に食べます。

新横浜ラーメン博物館30周年プロジェクト「あの銘店をもう一度」では、第10弾として、2023年1月10日から3週間、再度の期間限定復活出店が実現しました。四国の地に定着している、知る人ぞ知る、鍋焼きラーメンの魅力――。

【「谷口食堂」過去のラー博出店期間】

・ラー博初出店:2013年1月26日〜2013年4月7日

・「あの銘店をもう一度」出店:2023年1月10日〜2023年1月30日

1980年に後継者不在で閉店した高知・須崎の「谷口食堂」。地元・商工会議所を中心としたプロジェクトで、ラー博に期間限定復活=2013年

高知県須崎市ってどんなところ?

どのように誕生したのか振り返ります。

まず須崎市をご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単にご説明いたします。高知市から車で約1時間。豊かな海と温暖な気候に恵まれ、生産量日本一を誇るミョウガをはじめ、ハウス園芸や土佐文旦(ぶんたん)、ポンカンなどの柑橘類の栽培が盛んです。ご当地ラーメンとしては、“鍋焼きラーメンの町”としても知られています。

復活した「鍋焼きラーメン」。高知・須崎では2022年現在で30店以上が提供する

市の西部を流れる清流としても有名な新荘川は、絶滅種に指定されたニホンカワウソの生息が、最後に確認された川としても有名で、「カワウソのまちづくり」にも取り組んでいます。ニホンカワウソと鍋焼きラーメンをモチーフにした、「しんじょう君」が2016年の「ゆるキャラグランプリ」に輝いています。

ラーメン鍋のフタにご飯がのってくる

須崎の鍋焼きラーメンの特徴は、鍋に入ったアツアツの状態で提供する独特のスタイルです。須崎で、鍋焼きラーメンを注文すると、タクアンの古漬けが添えられ、ほとんどの人がご飯を注文する文化も特徴の一つです。ご飯が鍋のフタの上にのせられてくる姿は誰もが驚く光景です。

鍋のフタの上にご飯がのる独特のスタイル

須崎の鍋焼きラーメンの歴史は古く、その発祥は戦後まもなくとか。なかでも、須崎市の路地裏に開店した「谷口食堂」は、地元の人に愛される存在の食堂で、店主の谷口兵馬さんが、出前するラーメンが冷めないようにと、ホーロー製の鍋を使ったことが始まりです。

当時は「鍋焼き中華そば」という名称で、「鍋中(なべちゅう)」と呼ばれるほど愛されていました。けれども、1980年には後継者不足という理由から、惜しまれながら閉店しました。

地元では、「谷口食堂の『鍋中』をもう一度食べたい!」と願う人が多かったことから、かつての「谷口食堂」の味を目指して、鍋焼きラーメンを提供するお店が増えていき、現在に至る鍋焼きラーメン文化が受け継がれています。

「湯温97・1℃」と、日本一熱いラーメン!!

須崎の鍋焼きラーメンは、“日本一熱いご当地ラーメン”ともいわれています。そこでラー博では、2013年に、札幌、東京、博多のそれぞれのラーメンと、でき上がりの温度を比べる実験を行いました。

結果は、鍋焼きラーメンが湯温「97・1℃」で、ダントツの1位。また、提供されてから5分後の湯温も計測したところ「85・3℃」と、5分後でも他の地域のラーメンよりも高温でした。よって、“日本一熱いご当地ラーメン”という呼称は、過言ではなかったのです。

ラー博で湯温を測定したところ、ダントツで鍋焼きラーメンが高温だった

商工会議所らの面々が谷口食堂復活へと動き

須崎の鍋焼きラーメン発祥の店である「谷口食堂」は、1980年の閉店からすでに40年以上経過した現在でも、須崎の人々にとって伝説的なシンボルのお店です。そんな「谷口食堂」を2013年のラー博に復活させたのは、須崎商工会議所を中心とした有志団体“須崎名物「鍋焼きラーメン」プロジェクトX”の面々。

「谷口食堂」を復活させた須崎商工会議所を中心とした『須崎名物「鍋焼きラーメン」プロジェクトX』のメンバーたち

鍋焼きラーメンを地域活性化の起爆剤にしようという思いから2002年に結成し、「谷口食堂」のご家族の方や、常連だった方からの聞き込みをもとに、試作と試食を繰り返し、幻の味を復活させました。

完成した「谷口食堂」の味を全国の人に知ってもらいたいというメンバーの思いから、2013年、ラー博での期間限定3カ月の出店が実現したのでした。

生卵、竹輪に古漬けタクアン、香り米のご飯

スープは親鶏のガラに野菜類を炊き込んだ、やや甘みのある味わいです。醤油ダレに使用する醤油は地元「丸共味噌醤油醸造場」の濃いくち醤油を使用。

スープは親鶏のガラ、野菜類を炊き込んだ甘みのある味わい。醤油ダレには地元の濃いくち醤油を使用

麺も地元の関西麺業によるストレート細麺。もちもちした食感で、ほんのりとした甘みもあります。鍋焼きラーメン用ということもあり、伸びにくい麺に仕上がっていました。

麺は伸びにくいストレート細麺。鍋のフタを使って卵ですき焼き風に食べるのもアリ

具材には、親鶏の肉に、ざく切りにした青ネギ、生卵、そして地元のカマボコ店「けんかま」の竹輪。さらに箸休めには、お約束の古漬けタクアン……。そして地元ではほとんどの人が注文するご飯は、仁井田(にいだ)産の香り米を使用。高知のブランド米で名前のごとく、香りのあるお米で鍋焼きラーメンとベストマッチです。

須崎の鍋焼きラーメンには古漬けタクアンが添えられる

すき焼き風も、ご飯と一緒も楽しめる

地元・須崎では、それぞれ好みの食べ方があります。たとえば鍋焼きラーメンのフタを器代わりに、生卵の黄身を麺につけて食べる「すき焼き風」、最初から生卵をくずしてスープとのマリアージュを楽しむ「玉子くずし」、ご飯の上にスープを含んだ麺をのせて味わう「ご飯と一緒」などが、代表的な食べ方です。

振り返れば、「谷口食堂」の復活は、須崎の方々の熱意が成し遂げたものです。私たち、ラー博の力では復活はできませんでした。本当に感謝です。なかでも中心としてやっていただいた松田健さんは、現在、市議会議員として須崎市の発展のために尽力されております。当時は、知る人ぞ知るご当地ラーメンでしたが、現在は観光資源として県外から多くのお客さまが訪れるようになりました。皆さんの努力の賜物ですし、これからも須崎の食文化としての鍋焼きラーメンを広めていただきたいです。

期間限定復活でのラー博出店は2013年と、ラー博30周年企画での2023年の2回

『ラー博30年 新横浜ラーメン博物館 あの伝説のラーメン店53』2025年2月20日発売

『ラー博30年 新横浜ラーメン博物館 あの伝説のラーメン店53』(講談社ビーシー/講談社、1760円)

『新横浜ラーメン博物館』の情報

住所:横浜市港北区新横浜2−14−21

交通:JR東海道新幹線・JR横浜線の新横浜駅から徒歩5分、横浜市営地下鉄の新横浜駅8番出口から徒歩1分

営業時間:平日11時〜21時、土日祝10時半〜21時

休館日:年末年始(12月31日、1月1日)

入場料:当日入場券大人450円、小・中・高校生・シニア(65歳以上)100円、小学生未満は無料

※障害者手帳をお持ちの方と、同数の付き添いの方は無料

入場フリーパス「6ヶ月パス」500円、「年間パス」800円

新横浜ラーメン博物館:https://www.raumen.co.jp/

【比較表】“日本一熱いラーメン”は鍋焼きラーメンで間違いない!東京・札幌・福岡のラーメンとの湯温比較表(10枚)