期待の左腕・熊谷蓮を指導する荻原満HC。1人ひとりと深いコミュニケーションを取っている【写真:川浪康太郎】

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東北工業大学硬式野球部・荻原満HCインタビュー前編

 仙台市内にある東北工業大硬式野球部のグラウンドには、ストップウォッチ片手に大きな声で指示を出すヘッドコーチ(HC)の姿がある。プロ野球・巨人でプレーした経歴を持つ荻原満氏(57歳)だ。東北工業大はリーグ戦で春秋ともに最下位(春は宮城教育大と同率)に沈んだ昨年から一転、今春のリーグ戦では4勝を挙げて4位、新人戦は仙台大を破って準優勝と躍進。今年から就任した指揮官の「改革」は着々と進んでいる。前編では崩壊しかけていたチームを立て直した指導法について話を聞いた。(取材・文=川浪 康太郎)

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 荻原は選手、裏方として巨人に約20年間在籍した後、学生野球資格を回復し母校の仙台商高で指導者の経験を積んだ。仙台商を離れた後は時折、日野颯太投手(4年/仙台商)ら教え子が複数人プレーしている東北工業大のグラウンドに顔を出していた。

「練習を見た瞬間、成績に納得がいった。だらだら練習していて、これでは勝てないと思った」

 それが率直な第一印象だ。前・監督の小幡早苗さんに誘われてヘッドコーチに就任すると、投手陣を中心に指導する傍ら、様々な「改革」に着手した。まずは練習を「9時集合」から「9時開始」に変更。アップを行った後は「10分キャッチボール」「5分休憩」などとすべて時間で区切って指示を出す。

 そして全体の練習は3時間以上継続しては行わない。「野球の試合は長くて3時間。それ以上やるとだらだらしてしまう。短い時間で集中して練習してほしい」との考えだ。荻原は正確な時間を把握しつつ、密度の濃い練習を選手たちに課す。

 また荻原は、選手たちに遠慮なく思いの丈をぶつける。就任当初、「俺の練習はとにかくきついからな」と伝えた。「その代わり、(球速を)5キロ速くしてやる。上手くする自信がある」と続けると、怯みかけた選手たちは目の色を変えた。練習会に来る高校生に対しても、「工大は中途半端だと思われているかもしれないけど、俺がいる時は走るぞ。高校でレギュラーとか、エースとか、関係ない。本当にやる気のあるやつだけ上手くしてやる」と言うようにしている。

 きついトレーニングや長距離のランニングは、その意味や効果をすべて説明し納得させた上で取り組ませる。一度納得させれば、その後は何も言わずとも取り組むようになる。練習態度が悪かったり、練習を怠ったりする選手がいれば、厳しく叱ることも厭わない。あえてその姿を見せることで、チーム全体に良い意味での緊張感が生まれる。

認めた選手の良さは全員で共有

 選手に希望を与えることも忘れない。今春のリーグ戦期間中、実績のほとんどない投手をベンチ入りメンバーに入れると発表すると、一部から驚きの声が上がった。「紅白戦で結果を残したから」と抜擢の理由を話すと、アピールに成功すればチャンスを得られると知った他のメンバーはより士気を高めて練習に励むようになった。

 エース左腕・後藤佑輔投手(3年/仙台育英高)の名前を出し、投手陣の前で「後藤だけはVIPだ」と宣言することも。後藤は今春、3完投2完封で3勝をマークし、リーグトップの45奪三振を記録した。「後藤は1人で黙々と練習していて、公式戦で結果を出している。ピッチャーはこうならないとダメだ」。認めた選手の良さは全員で共有する。

 球速ばかりにこだわり、試合ではストライクが入らなかった後藤に、荻原は「スピードはトレーニングすれば速くなる。コントロールは意識を変えないと良くならない」と助言。フォームを修正したほか、打撃投手をさせてストライクゾーンに投げる感覚を覚えさせた。結果を出してからも慢心することなく努力を重ね、打撃投手を買って出る後藤の姿を見て奮起する選手が増えることを期待している。

 実際、先輩の背中を追う下級生は次々と台頭してきている。左腕の熊谷蓮投手(2年/東陵高)は荻原の指導を受けたことで球速が大幅にアップし、140キロの直球を投げられるようになった。速球が武器だった伊藤理壱投手(2年/仙台城南高)はフォームが固まったことで制球力も増し、新人戦の仙台大戦では9回10奪三振無失点と快投を披露した。成長する選手は総じて、野球と向き合う姿勢に大きな変化が見られた選手だ。

 荻原が指導者として最も大切にしているのは、選手との信頼関係。「信頼関係があれば、少々きついことを言ってもついてきてくれる。一方通行で威圧的なことを言ってもダメ」との気づきを胸に、1人ひとりと深いコミュニケーションを図っている。

「今のチームはすごく雰囲気が良いし、横道に逸れているやつは1人もいない。『なんとか勝たせてやりたい』と思えるチームになってきている。勝ちたいんだよ、本当に」

 荻原には、「この大学からプロ野球選手を出したい」という夢がある。ただ、今は勝たせること、優勝させることを最優先事項としている。選手たちが本気でそれを求めているからだ。東北工業大が、仙台大、東北福祉大の「2強」時代に風穴を開けるか。その未来は、少しずつだが着実に、現実味を帯びてきている。(文中敬称略)

(川浪 康太郎 / Kotaro Kawanami)