たくさんのキャラクターが登場する、スマホゲーム「ウマ娘 プリティダービー」。そのなかでもトップクラスに豪快な性格であり、気が強いゆえに、レースで競り合いになると圧倒的な強さを発揮するウマ娘がいる。カワカミプリンセスだ。


2006年の秋華賞で、カワカミプリンセスは力強い走りを見せた

 ウマ娘のカワカミプリンセスは、体を鍛えることに余念がなく、プリンセスとは思えない筋肉質な体型。かつ、その気性とパワーが暴走して、さまざまなものを壊してしまう。

 それが負けん気の強さにもつながっている。このゲームでは、ウマ娘それぞれの特性に合わせた「固有スキル」があるが、カワカミプリンセスは、レース中にライバルと競り合うと強さを発揮するスキルを持っている。

 こういった特徴は、ほかのウマ娘と同様、モデルとなった競走馬・カワカミプリンセスの性格に起因しているのは言うまでもない。

 たとえばその気の強さ。カワカミプリンセスはとにかく気性が荒く、うかつに人が手を出すと攻撃されるほどだった。取材に訪れた新聞記者が威嚇されることも多かったという。

 こんなエピソードも残っている。この馬の気の強さを考慮したスタッフは、同馬が普段過ごす馬房に、よくある「猛犬に注意」という看板の「犬」を「馬」に変えた「猛馬に注意」という看板をかけていた。さらにその下には「Don't touch」というステッカーも掲げられていた。

 それほど激しい気性を持った"プリンセス"だったが、現役時代はこの負けん気を武器に、G?2勝の実績を築いた。その2勝とは、オークスと秋華賞。ファンのイメージとしてはオークス勝利の方がインパクトが強いかもしれないが、その後に制した秋華賞も、負けず劣らずの大仕事だったといえる。

 北海道の三石川上牧場で生まれた牝馬は、牧場の大きな期待を込めてカワカミプリンセスと命名。2006年にデビューを迎えた。

 通常、サラブレッドは2歳夏からデビューするが、彼女の初陣は3歳2月。その"遅れたデビュー戦"を勝つと、以降は破竹の連勝を飾っていった。初戦、2戦目、3戦目と、一気に3連勝を飾ったのである。

 3歳牝馬は、春から秋にかけて同世代で3ラウンドのG?に挑む。「牝馬三冠」と言われるもので、4月に第1弾の桜花賞、5月に第2弾のオークス、10月に第3弾の秋華賞が行なわれる。

 カワカミプリンセスはデビューが遅れたため、第1弾の桜花賞は間に合わず。しかし、第2弾のオークスには、3戦無敗という華々しい成績で出走することとなった。

 1、2番人気に支持されたのは、三冠初戦の桜花賞で上位を占めた馬。カワカミプリンセスは3番人気だった。ただ、レースでは初めての大舞台とは思えない盤石の振る舞い。早いペース、縦長の馬群の8番手につけると、落ち着いた様子で進んでいく。

 3、4コーナーにかけて徐々に外からポジションを上げると、直線では5番手から堂々と抜け出した。内で粘るアサヒライジング、外から迫るフサイチパンドラとの争いになったが、きっちりと勝ち切ったのだ。

 2月のデビューからおよそ3カ月。その名のとおり、女王となったのだ。無敗でのオークス制覇は1957年以来、49年ぶりの快挙だった。

 オークス勝利は文字どおりの大仕事だったが、この後に挑んだ秋華賞(京都・芝2000m)も、彼女にとっては大仕事だったはずだ。なぜなら、当時まだ異例だった「本番直行」という臨戦過程で臨んだからである。

 この時代に一般的だった臨戦過程は、大舞台の前に一度"前哨戦"を使う形。ステップレースで脚慣らしをして、秋華賞でベストコンディションに持っていくパターンだ。

 しかし、カワカミプリンセスはオークスを終えてから一度もレースを使わず、およそ5カ月後の秋華賞に直行したのである。

 今でこそ、前哨戦を挟まず大舞台に直行するケースは珍しくなくなったが、この頃は非常に稀有な臨戦過程だった。

 なお、カワカミプリンセス陣営が直行を選択する伏線はあった。というのも、同馬を管理する西浦勝一調教師、レースで騎乗する本田優ジョッキーのコンビは、2001年にもテイエムオーシャンという馬で秋華賞を制している。実はこの時も、オークスから秋華賞への直行だったのだ。

 そんな先輩と同じ道を歩むことになったカワカミプリンセス。レース当日、やはり直行が不安視されたのか、1番人気はライバルに譲った。武豊騎乗、桜花賞2着、オークス4着、さらにその後の前哨戦を制してきたアドマイヤキッスだった。

 カワカミプリンセスは2番人気。久々のレースがどう出るか、ファンも予測しにくかった。

 ゲートが開くと、カワカミプリンセスはいつも通りに気合十分の雰囲気で馬群を追走する。お馴染みとなったピンクの勝負服、ピンクのメンコを顔につけて、早いペースの中、馬群の中団より少し前の8、9番手あたりにつけていく。

 そして3コーナー。まるで目覚めたかのように、カワカミプリンセスが外から上がる。ただ、4コーナーでは前方のライバルから置かれそうになったのか、早々に本田優がムチを入れて鼓舞するシーンがあった。このあたりは、やはり直行の影響なのか。

 直線に入ると、1番人気のアドマイヤキッスは後方でもがいていたが、オークスの3着馬アサヒライジングが先に抜け出し、セーフティーリードを作った。カワカミプリンセスはその3馬身うしろ。ゴールまで残り200mを切った。厳しい状況だった。

 しかし残り100m。絶対に負けられないとばかりに、プリンセスはライバルを猛追する。そのフォームからも、負けん気を全面に出して懸命に首を伸ばす姿が伝わってきた。

 一歩ずつグイグイと伸びたカワカミプリンセスは、ゴール前できっちりアサヒライジングをかわした。直行の不安を跳ね返し、デビューから無傷の5連勝を飾った瞬間だった。豪快で荒々しい彼女の性格。それを象徴した秋華賞のレースぶりだったと言える。

 このあと、はたしてどこまで連勝を伸ばすのか。そんな期待も膨らんだが、実は彼女にとってこのレースが最後の勝利に。続くエリザベス女王杯では1着になりながら、他馬への進路妨害で12着降着。それを境に、好走することはあれど、白星には手が届かなかったのである。

 燃え尽きてしまったのか、何らかの変化があったのか、真相は分からない。ただ、秋華賞で見せた負けん気、その強さは忘れるものではない。まさにウマ娘に描かれているイメージのとおりだ。

 馬房に掲げられた看板ではないが、「猛馬」という呼び方がしっくりくる1頭だろう。カワカミプリンセスは、猛々しく、勇ましいプリンセスだった。