お茶目な一面を見せてくれた赤井英和さんと佳子さん(撮影:永田理恵)

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「ひえっ……くしょん!」

ソファにドカッと腰を沈めた邸の主が、大きくて分厚い背中を丸め、両手で顔を覆った。野太い指でも覆いきれないほど豪快なくしゃみが、雷鳴のように轟く。

「ああ、寒いんだね……」

奥でお茶の支度をしていた女性はススッとリビングまで寄ってきて、エアコンの温度を上げた。

俳優・赤井英和さん(61)とその妻・佳子さん(55)である。’80年代に、プロボクサーとして活躍した赤井さん。’87年にタレント活動を開始すると、’89年に主演した自伝的映画『どついたるねん』やトレンディドラマ出演でブレーク。『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』(’94年)で連ドラ初主演を果たした。さらに、15年ぶりとなる主演映画『ねばぎば 新世界』(監督・脚本/上西雄大)も7月10日から公開されたばかりだ。(東京・新K’s cinemaほかで全国順次公開)

計4度出演のNHK朝ドラや、ドラマ『半沢直樹』、有名企業のCMなどで人気を博し、今日に至る。

その「赤井英和」の名が、スキャンダルでもないのになぜか今年6月、ツイッターの“トレンドワード”に急浮上した。私生活をほとんど明かしてこなかった赤井さんの「日常」を、いちばん近くにいる妻の佳子さんがツイートしだしたのだ。

ツイッターアカウント「赤井英和の嫁 佳子」でのユーモラスな夫の姿とシュールなコメントは、一気に拡散。

《たとえ自分がどんなタイミングでも、いってらっしゃいはしてくれる》(6月4日)では、妻を玄関から見送る赤井さんの姿が。しかし裸にタオル1枚巻いただけ、おまけに寝起きか二日酔いっぽい重そうな瞼。これには、27万3千もの「いいね」がついた。

そのバズっている張本人を都内の瀟洒な自宅に訪ねると、開襟シャツに身を包んだラフな格好の赤井さんは、豪快に笑うのだった。

「つい先週のことですわ、ブレークしてるて聞いたのが。パチンコ屋さんで隣のおっちゃんが『ツイッター見てるよ』て。僕はやっとメールとLINEができるようになったばかりでして、ハッハッハ」

■佳子さんがツイートに込める気持ちは

「フォロワーさんに相談されることもあります。たとえば《疲れて帰ってきた俺がなぜ皿洗いしなきゃいけない? キミは専業主婦だろ! と夫に言われます。どう返したらいいんでしょう?》とかね。ちょっと込み入った相談には、なるべく個別にDMで返信します。《じつは私も同じかもしれないです。結構しんどいこともあるよ》」と、佳子さん。

「たとえば赤井に嫌な思いをさせられて、それを私がアップしたとする。笑える共感もあれば、笑えない場合もあるかもしれない。でも『憎たらしい』と思うことも、『面白いと思えば面白いかもよ!』っていうニュアンスを伝えたいんです」

そんなユーモラスで温かい赤井家にも、乗り越えようのない悲しい出来事があった。

次男・英佳さんが生まれた2年後の’98年、佳子さんは双子の女の子を妊娠していた。しかし、さくらこ、ももこ、という愛らしい名前がつけられた2人は2カ月以上もの早産で、順に1千410g、1千120gの低出生体重児だった。

心臓や気管が未発達で自発呼吸も難しく、ももこちゃんは生後わずか3日間の短い生涯を閉じた。さくらこちゃんも生後10日ほどで脳の損傷がわかり「将来も歩くことができないだろう」と医師に言われながら頑張ったが、生後7カ月で天国に旅立った。

「さくらこが懸命に頑張っている時期でも、まったく私は前向きになれませんでした。逃げたい、状況を受け入れたくない。そして、『なんで私なんだろう?』と。でも、赤井は前向きでした。『どんな治療でもやろう、一歩進もう』と。仕事の撮影現場でもニコニコしていたはずです。でも、そんな強い赤井が私以上に苦しんでいたことが、あるときわかったんです」

そのころ現実から逃避したかった彼女は「下ばかり向いて」過ごしていた。ある日ふと顔を上げ、夫のほうに目をやると「その姿はボロボロだった」ことに気づいた。

「肩を落として落ち込み、眉間に皺をよせる赤井は、本当に惨めな姿でした。こんなにみすぼらしい人だったっけと思うほど弱っていた。『ああ私といっしょだ、赤井もこんなに苦しんでいたんだ』と」

■これからも目が離せない赤井夫婦

人はひと皮むけばいろんな感情を秘めているものなんだと、そこで佳子さんは理解できたという。

「赤井は試合で死にかけたこともあるし、子どもを亡くすのは、いちばん悲しいこと。人それぞれどんな感情を秘めているかは他人にはわかりませんから、軽はずみになにか声をかけるのは難しい。でも『わかるよ!』と共感することだったら、お互いできると思ったんです」

その経験、その思いがツイートの原点となったのだ――。

《どうしても、道のこういうとこを歩く》(5月27日)=散歩中の赤井さん。側溝の蓋の上を線路のように伝って歩く後ろ姿が。

《かずくん、それは知らなかった、新聞紙で汗を吸い取るのはやめてくれないかなー》(6月28日)=赤井さんがタオルで顔の汗を拭いている……と思いきや新聞紙!

エ〜ッ! と驚かせるインパクト大の画像・映像に、非凡な表現センスのコピーがかぶさる、アカウント「赤井英和の嫁 佳子」。

タレントの有吉弘行(47)がラジオで紹介するなど、個性的な赤井さんの“生態”とそれをいろんな感情で綴る佳子さんの“夫婦あるある”はこれからも、もっともっと、幅広い層に刺さっていくだろう。

(取材・文:鈴木利宗)