ライフラインの老朽化は研究にも影響する(イメージ)

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 国立大学の運営を文部科学省が支える各年の運営費交付金に対し、中長期で施設(建物)をカバーするのが「施設整備費補助金」だ。2019年度予算は国土強靱(きょうじん)化の措置で好転したが、これまでも補正予算頼みで安定しない。老朽化対応が大きく遅れていることに、大学の経営陣は不安を募らせる。そのため関係者は今後、地域や産業界などとの“共創”の施設という視点で、社会や政府の理解を引き出そうとしている。

 国立大学や大学共同利用機関法人などに対する「国立大学法人等施設整備費補助金」は大規模な施設の新増築や改修、ライフライン(電力、給排水、ガスの配管・配線など)の設備の整備に対するものだ。日本では高度成長期に建設した膨大な施設が更新時期を迎えている。全国立大で経年25年以上で改修が必要な施設は、全保有面積の3割に上る。

 老朽化施設は危険な上、研究・教育の質に影響する。しかし施設整備の予算措置ははかばかしくない。耐震化など安全性確保が優先され、「ライフラインの更新さえ十分でない」(国立大の財務担当理事)。

 もっとも19年度の施設整備費は1155億円と、例年にない数字となった。これは国土強靱化の措置があったためで、この状況は20年度も続く見込みだ。しかし中長期的な見通しは明確でない。過去を見ても年による振れが大きい。東日本大震災の復興特別会計を除くにしても、常に補正予算に依存している。

 必要な対応は現在進行中の「第4次国立大学法人等施設整備5か年計画」(2016―20年度)で示されている。しかし「19年度当初予算までで計画面積の23%しか整備できない」(文科省文教施設企画・防災部)状況だ。近年は各大学の自助努力で寄付や自治体補助金の活用や、受益者負担で教員から部屋代を集める「スペースチャージ」も進む。

 文科省の有識者会議はこのほど、第5次の計画に向けた「今後の国立大学法人等施設整備に関わる方向性」をまとめた。ここで打ち出したのは共創だ。イメージするのは地域産業を担う人材育成や、産学共同研究の施設再生の後押しなどだ。イノベーション創出など大学の機能強化というソフトを、ハードの施設と連動させ、安定した施設整備につなげようとしている。
(文=山本佳世子)

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