昨季のプレミアリーグ王者レスター・シティが、昇格組のハル・シティにまさかの敗戦......と書き始めたいところだが、「敗れるべくして敗れた」印象はどうしても拭えない。ホームのハルが格段によいパフォーマンスを見せたわけではなく、アプローチも試合内容も凡庸だったレスターの敗戦に大きな驚きがなかったからだ。

 この試合でクラウディオ・ラニエリ監督がピッチに送り出したのは、FWジェイミー・バーディーと新戦力のFWアーメド・ムサを2トップに据えた4−4−2。昨季のリーグ開幕戦で先発フル出場した岡崎慎司はベンチスタートを命じられ、チェルシーに移籍したMFエンゴロ・カンテの代わりは、クラブ生え抜きのMFアンディ・キングが務めた。

 ところが、このシステムがまったくと言っていいほど機能しなかった。

 その理由は、「カンテ退団の穴をいかに埋めるか」という策がまるで見えないことにある。昨季は前線からプレスをかけ、後方に控えるカンテがボールを奪取することでショートカウンターにつなげた。しかし、マンチェスター・ユナイテッドとのFAコミュニティ・シールド(※)に続いて代役に選ばれたのは、運動量の少ないキング。プレスをかけても中盤でボールを刈り取れず、ズルズルと自陣深くまで攻め込まれた。

※FAコミュニティ・シールド=プレミアリーグの優勝クラブと、FAカップの優勝クラブが対決するスーパーカップ。

 さらに、ボール奪取力が低下したことで、攻撃のダイナミズムも失った。もともと、レスターは気の利いたパスを配給できるMFがほとんどおらず、中盤の構成力に難のあるチームだ。それにもかかわらず、十八番のショートカウンターが使えないのだから、バーディーのスピードやMFリヤド・マフレズの突破力などの「個の力」に頼るしかなくなった。だが、追い打ちをかけるように、このふたりが揃って不振で、これでは攻撃が停滞するのも当然だった。

 前半から断続的にアップを行なっていた岡崎は、ピッチの外から次のように見ていたという。

「2トップのふたりが似たようなタイプで、サイドMFのふたり(マフレズとデマライ・グレイ)も同じようなタイプ。ドリブルする選手が多かったので、攻撃が単発になることが多かった。ロングボールにも意図がない。それがこぼれてチャンスになったりもするけど、たまたまの場合が多かった。相手のミスでチャンスになったのもあったし、ほんと単発でしたね」

 その岡崎のベンチスタートも、レスターのパフォーマンスに響いた。

 速さが自慢のバーディーとムサは、ふたりとも最前線に張りっぱなしで、中盤に降下して縦パスを引き出す動きがほとんどない。そのため、最終ラインや中盤でボールを回していても、パスの出しどころがないのだ。狙いの見えない横パスばかりで、縦パスで変化をつけられなかった。

 象徴的だったのが、セントラルMFのダニー・ドリンクウォーターがボールをキープした前半のワンシーン。パスの出しどころがなく、前線の選手に「中盤へ引いてこい」とジェスチャーで強く指示を出していた。それでも一向に改善せず、1−2で敵にリードを許したまま、試合は後半の中盤に突入した。

 このタイミングで投入されたのが、岡崎だった。68分からピッチに入った日本代表FWは、こう考えていたという。

「中盤からいいボールが出れば、今日の2トップなら個の力で行ける。でも、(今のチームなら)いいボールが出てこない。だから、(最前線から中盤に)自分がひとり入るだけで、もうひとりのFWは生かせるかなと思った。

 チームが困っている感じがする。『自分が』というより、犠牲になってでも『ボールを受けよう』とすれば、自分にマークがつき、自然と次に誰かのマークが剥がれる。そうすれば、次にドリブルする奴らが生きてくる。レスターには『ボールを持てたらできる』選手が多いけど、彼らはボールを持つまで、なかなかフリーになれない。このチームはパスをうまく回せないので、敵を引きつけるような選手がいないといけない」

 岡崎の動きは、効果抜群だった。2トップの一角としてバーディーとコンビを組み、頻繁に中盤まで降下してパスを引き出した。当然、相手のボランチやセンターバックは、岡崎のマークにつく。ここで鋭くターンして敵をかわしたり、マークの剥がれた味方にパスをつなげたりすることで、攻撃の流れをスムーズにしたのだ。狭いスペースでも身体を張ってボールを受けることで、チームのパフォーマンスは著しく改善した。

 しかし、この流れも83分の「レオナルド・ウジョア投入」で止まってしまう。長身のアルゼンチン人FWを最前線に置き、パワープレーに打って出たのだ。岡崎の頭上をボールが通り過ぎる展開が続き、レスターは1−2で敗れた。

 ハーフタイムには「たぶん今までで一番怒っていた」(岡崎)というほど、ラニエリ監督は選手に激怒したというが、敗戦を招いたのは、その指揮官だった気がしてならない。得点力に期待してムサを2トップに起用したはずだが、岡崎をスタメンから外したために、チームのバランスは大きく崩れた。チームとして機能しなければ、得点力の高いFWを並べても「宝の持ち腐れ」である。

 夫人の出産で開幕戦を欠場したMFナンパリス・メンディが、今後カンテの穴を埋めるほど活躍する可能性はある。しかし現時点で言えば、「カンテ退団」の打撃は極めて大きいと言わざるを得ない。そして、岡崎を先発から外してバランスが崩れたチームも、ラニエリの目にはどのように映っていたのだろうか。

 日本代表FWは言う。

「監督も、いろいろと試そうとしているところがある。監督、そしてチームも、(この敗戦は)いい機会なんじゃないかと思いました。ただ、ズルズルいかないようにしないと」

 第1節を終えただけに過ぎず、評価を下すのはもちろんまだ早い。しかし、2016−17シーズンが不安の多い幕開けになったことだけは間違いない。

田嶋コウスケ●取材・文 text by Tajima Kosuke