東京恋愛市場で日夜繰り広げられる男と女の逢瀬。

世間の男たちは下心ありきで女性を口説き、彼女たちはどんな誘い文句を言うのかと口から出る言葉に期待する。せっかくの楽しいデートも、男性の発言ひとつで台無しになることは多いだろう。

これまでどうしてここで? というタイミングで、女性が不機嫌になったことはないだろうか。それはあなたが“口説けない男”である何よりの証拠である。

この連載では、女盛りの妹・美鈴(27)と、結婚3年目の姉・弥生(33)を通し、女性が喜ぶ口説き方の成功例・失敗例を紹介していく。

<口説ける男・過去の教訓>
一度高級な食事を奢っただけで口説けると思うな
・エクスペクテーション・コントロールをマスターせよ
・去り際はスマートに
・サヨナライツカ的なフラジャイルな関係を演出せよ
・仕事自慢ではなく、真摯な仕事への姿勢が胸を打つ
・女友達の意見を侮るな!
・地位のある男こそ、謙虚にせよ
・愚痴はひたすら黙って聞け




「夏に彼氏がいないなんて...。」

丸の内の昼下がり。上司の会食用の手土産を用意するため、私は仲通りを歩き『和久傳』に向かっている。この店の和菓子や和煮なんかは私の事務所の定番の手土産で、月に何度も足を運ぶ。ついでに姉の好物の西湖でも買って、仕事終わりに持って行ってあげようか。きっと喜ぶに違いない。

それにしても、夏の暑い日差しに当たると、心がジリジリと渇いていく。イベント盛りだくさんの夏に恋人のいない27歳の女など、東京砂漠で生き残れる気がしない。

先日はやまちゃんと映画に出かけたが、スポンジのような吸収力を持つ彼を前にすると、私はどうしても日々の鬱憤や愚痴をこぼし続けてしまう。デート終盤にはかなり酔っ払ってしまい、記憶すら朧げだ。要は、やまちゃんとのデートは、ロマンチックとは程遠い。緊張感が全くないのだ。


ブルーな美鈴のテンションが、一気に上がった誘いとは...?!


女のテンションを下げる、若干やり過ぎな気遣い


しかしデート以来、やまちゃんは毎日のように、お昼前になると『エシレ』のクロワッサンをわざわざ私のデスクに届けてくれるようになった。このクロワッサンは私の好物だ。店はオフィスから近いが、午前中は並んでいるし、午後には売切れることが多くなかなか食べられない、と私が何気なく言った一言が原因だった。

やまちゃんは相変わらずのニコニコ笑顔でオフィスでも私への好意を隠さないのだが、私にとってはかなり恥ずかしい。「クロワッサンのために弁護士をパシらせる女」などと周囲では思われているに違いないからだ。それに私も一応年頃の女なので、流石に高カロリーのクロワッサンを毎日は食べられない。

かと言って、善意の塊のような彼に向って「いらない」とも言えず、私はつい大袈裟に喜びクロワッサンを受け取ってしまう。

「嫌なことは、自分の口でハッキリ断りなさい。受け身は良くないわよ。」

姉の声が頭の中で囁くが、こうして私のテンションはまた徐々に下降していった。


経営者の彼から、テンションの上がるスマートな誘い。


―美鈴ちゃん、生ハム好き?

そんな昼下がり、スマホがラインの通知で振動した。

―凄く生ハムが美味しいお店の予約が取れたんだけど、良かったら一緒にどうかな?たまには二人で。

経営者の長谷川さんだった。先日、タクシーの中で急に頭を撫でられたことを思い出す。ぜひ、と返信すると、お店の詳細がすぐに送られてきた。『ペレグリーノ』は1日6人限定というイタリアンで、予約困難店との噂を聞いていた。さすが、美食の長谷川さんの誘いは格別だ。

それに、彼と二人で会うのは初めてだ。やまちゃんやジョジョくんとのデートには皆無な、心地よい緊張感が身体を駆け抜ける。

何を着て行こうか、その前に美容院に行っておこうか...。できればエステにも行っておきたい。

あれこれと思考をめぐらせて、ハッとした。そうだ、やはり本来デートとは、こんな風に一気にテンションが上がるものなのだ。誘われたときの高揚感から、デートはすでに始まっている。私はこの自然な胸の高鳴りに、大いに満足した。




女に心の余裕を持たせる、男の紳士な気遣い


当日、長谷川さんは近くで打合せがあったからと、オフィス近くにタクシーで迎えに来てくれた。本当に、彼の対応は至れり尽くせりだ。こういった男性のちょっとした気遣いによって、女は安心して身支度を整え、心に余裕を持ち可愛くいられるのだと思う。

ハザードを付けて停まっているタクシーに乗り込むと、長谷川さんの上品なコロンの香りが、ほのかに鼻をくすぐった。シンプルな濃紺のスーツ姿は、彼にとても似合っている。

「美鈴ちゃん、髪形変えた?本当に、いつもオシャレだよね。その靴も可愛いね。」

ただ可愛いと褒めるのではなく、女の微妙な変化に気づきコメントを述べる長谷川さんは、流石の技量の持ち主だ。誘いを受けてから、こっそりと女磨きをした甲斐がある。会って1分。私の気持ちは、既に舞い上がった。


美鈴の心が一瞬でトロけた、男の決めゼリフとは...?!


女の心を一瞬にして溶かした、世慣れ男の決めゼリフ


『ペレグリーノ』は、噂以上に素晴らしいお店だった。まるで何かのショーを鑑賞しているようなシェフのライブ感は楽しかったし、長谷川さんオススメの生ハムは段違いの美味しさだった。




「俺、ここの生ハムが本当に好きなんだよね。どうしても定期的に食べたくなっちゃうんだ。」

しかし、ここで私の胸が少しザワついた。2人掛けのテーブルが3つ並んだ1日6人限定のこの店を、長谷川さんはきっとデートで使用したに違いない。

「前回は、誰と食べたんですか?」

料理とペアリングで出される極上のワインに少々酔った勢いで、つい尖った声が出てしまったことをすぐ後悔したが、長谷川さんは至極穏やかな笑顔を浮かべた。

「美鈴ちゃん。」

長谷川さんはテーブルの下で、そっと手を握り、じっと私を見つめた。

「正直、俺、今まで散々いろんな女の子を見てきたよ。モデルや若い女子大生とか、美鈴ちゃんより少し年上のキャリアウーマンも。でも俺にとっては、美鈴ちゃんが一番なんだ。美人で、性格も素直で。美鈴ちゃんみたいな子は、中々いないよ。」

その後しばらく、「美鈴ちゃんが一番」というセリフは、頭の中で無限に鳴り響いた。


マウンティングの頂点に君臨するという、甘い誘惑


「一番」という評価が嫌いな人間などいない。妹は完全に舞い上がっている。

あの経験値の高そうな長谷川から、女性マウンティングの頂点に君臨させられたのだから、まぁ仕方あるまい。女なら誰しも、自尊心が一気に満たされるはずだ。加えてレア感のある高級イタリアンに、送り迎え付きの紳士な対応。そして例のごとく、去り際はまたしてもスマートであったらしい。

「長谷川さん、出張から帰ったら、また連絡くれるって...。」

美鈴は我が家のソファに寝転がり、カシウェアのクッション抱きしめ夢心地でデートの詳細と生ハムの美味しさを語っている。

「確かに、どんなに高くても海外で食べるお寿司ってそこそこの味じゃない。あの生ハムは、外人が初めて『久兵衛』でお寿司を食べるくらいの衝撃があったと思うのよ。」

真にレベルの高い食事というのも、女の心に刻まれる。原始時代から、オスは狩りに出かけ、エサをメスに与えるという本能は変わっていない。

長谷川とは一応面識がある。感じのいい男であったし、この口説きレベルの男は、確かに今のご時世珍しい。

しかし姉としては、ここまで女慣れしたスマートな対応をする男に、誠実さもきちんと伴うのか否か、少々心配ではある。

だが、今はそっと見守ろう。変に口出しをするのはやめ、妹の心が少しでも落ち着くようにハーブティを淹れてやるに留めることにした。



本日の教訓:女は「世界で一番」と言われるのが好きだ。

【これまでの口説ける男】
Vol.1:35歳独身のベンチャー社長。その口説き方はどこで習ったの?
Vol.2:低スペックだと思ったオタク系男子。彼の株が急上昇した、そのセオリーとは?
Vol.3:別れ際が重要。女性が物足りないくらいの駆け引きで恋が始まる!?
Vol.4:バンコク駐在の商社マンによる「サヨナライツカ・マジック」とは?
Vol.5:仕事は自慢するな。地味な医者でも良い男に見えてしまった理由
Vol.6:女友達の意見を侮るな!「外堀から攻める」は男の予想以上に効く。
Vol.7:有名俳優の彼。驚くほどの「謙虚さ」が、女の胸に突き刺さる?!
Vol.8:女は心のオアシスを欲している。女の愚痴を味方につけよ