夫婦の「老後資金」か、子ども2人の「大学進学の教育費」か…貯金900万円・58歳父が下した〈苦渋の決断〉【FPが解説】
「子どもの学費は親が全額出してあげたい」という親心が、結果的に最愛の子どもを苦しめることになるかもしれません。教育費をつぎ込んだ結果、老後資金がショートして最終的に子どもの世話になる家庭が急増しています。本記事では、横山光昭氏と関口博美氏の著書『おふたりさまの老後資金は「これ」で増やす』(小学館)より一部を抜粋・再編集し、子ども2人の大学進学を控えた58歳男性の事例をもとに、教育費のかけすぎによる「老後破産」を回避するための具体的なステップについて解説します。
「高校無償化」でも安心できない…私立大学の場合は1,000万円以上かかる〈教育費の現実〉
「教育費」とは教育に関連する費用のすべてを含みます。学校でかかる費用は、授業料や給食費、クラブ活動費や修学旅行代など。学校以外では、塾や習い事にかかる費用が該当します。
近年、国や地方自治体の就学支援金制度が整備され、公立だけでなく、私立の授業料を軽減する措置も拡充されています。
2025年4月から、公立・私立を問わず、全世帯を対象に所得制限なしで年11万8800円が支給されるほか、2026年4月からは私立高校に通う世帯への支援金が最大45万7200円に引き上げられる「高校授業料の無償化」も決まっています。
私立は設備費などもそれなりにかかりますが、高校までの教育費は、概ね塾や予備校、習い事の費用が大半を占めるケースが増えそうです。
しかし、大学卒業までを見据えると、まだまだ教育費は高止まりしているのが現状です。子どもの教育費の平均額を把握したい場合、文部科学省の「子供の学習費調査」(2023年度)と、国の教育ローンを取り扱う日本政策金融公庫の「教育費負担の実態調査」(2021年度)が参考になります。
これらによると、公立高校から国公立の大学に進学すると、トータルで平均660万円。私立高校から文系の私立大学を卒業すると平均1044万円、私立高校から理系の私立大学を卒業すると平均1175万円かかります(図1参照)。
これほどの金額になると、よほど資産がある場合を除き、時間をかけて準備しなくてはなりません。
[図表1]高校から大学卒業までの教育費
「貯金900万円」でも足りない…58歳父を追い詰めた教育費
Eさん(58歳)は、ふたりの子どもの大学進学を見据え、貯蓄に励んでいます。学資保険は使わず、コツコツ貯めた金額は約900万円。
十分な努力の成果ですが、ふたり分の資金としては不十分です。この先、自分たちの老後資金も見据えなければなりません。
現在、毎月6万円の貯蓄ができています。うまくやりくりしていますが、まだ削減の余地はありそうです。とはいえ、このまま教育費にお金を費やし続けると、老後資金がつくれない現実にも直面します。
そこで、子どもたちに大学費用を全面負担したい気持ちはあるものの、そうすると老後資金が不足することを伝え、協力を仰ぐことにしました。
すると、ふたりとも大学入学後はアルバイト代の一部で学費をまかなうとか、学校が斡旋する給付型や貸与型の奨学金を検討してみるとか、教育費の一部自己負担に、前向きな姿勢を示してくれたとのことです。
教育費は「聖域」となりやすく、どんなに高額でも支払ってあげたいと思うのが親心です。親の義務、責任とばかりに最後まで負担を背負いがちですが、海外では親が責任を持つのは高校までという考え方もあります。
成人年齢は18歳となりました。長い老後を見据え、ある程度は子どもの自主的な協力を仰ぎながら大学資金を捻出する姿勢も大事だと思います。
「親が全額出すのが正しい」という思い込みが老後破産を招く
私たち夫婦には6人の子がいます。「教育費はどう捻出しているのか」と、よく聞かれますが、貯金や資産運用の利益でコツコツ準備しています。ただし、高校卒業後の専門学校や大学進学のための資金として、親が準備するのはひとりあたり総額の5〜6割と決めています。このくらいあれば、入学時の費用と次年度くらいまでの学費がまかなえるからです。
わが家は全員が参加する「家族マネー会議」を毎月行います。この場で「全員に全額の学費を出すことは難しい」と伝えてあります。それを受け、子どもたちはどう工面していくかを自分たちで考えるため、議題の一つにしています。もちろん学業優先ですから、どうしても自己負担の目途が立たなければ援助するつもりです。
しかし、「自分でお金を払って学ぶ」となると、その責任を全うしたいという意識が高まるためか、サボることなく、しっかり勉強してくれます。大学に通いながらアルバイトで学費を稼ぐのは大変でしょうが、それも人生の大きな経験。
親がすべて負担するのが正しいと思い込まず、柔軟に話し合って工面していくほうが、社会的な学びもあるのではないでしょうか。
学費のために老後資金を削ると、最終的に子どもに迷惑をかける
Eさん同様、子どもの教育費に懸命で、老後資金が貯められない家庭は結構あります。この場合、まず私たちの取り組みをお話しします。とはいえ「学費をどう工面するか」について、子どもたちと簡単に話し合えない気持ちも理解できます。
些細なことから少しずつ、子どもたちとお金のあり方を話し合い、親の考え方や懸念事項、目指したい姿などを伝えてみてはいかがでしょうか。その後、時機がきたら改めて場を設け、子どもたちの進路や教育資金の見通し、親はどれくらいサポートできるのか、不足分はどう工面していくのかなど、親子で考え方を共有していくよう助言しています。
Eさんのケースでは、子どもひとりにつき300万円を用意し、残ったお金と毎月の貯蓄は老後資金に回すことになりました。300万円あれば、入学から2年分くらいの学費をまかなえます。18歳で入学すれば20歳までの援助となります。
教育費をかけすぎて老後資金が苦しくなると、最終的に子どもたちの世話にならざるを得ないことが多々あります。
長期的な視点で、わが子に老後の心配をさせない、老後に迷惑をかけないように準備することも、親の務めの一つだと私たちは助言しています。
塾費用を大幅に節約できる「オンライン塾」
文科省の調査(2023年度)によると、高校生の塾の平均費用は公立高校在学生が年間38万1000円、私立は同44万4000円です。意外と少なく感じるかもしれませんが、あくまで平均額。
予備校などに通えば、年間50万円前後かかるのが相場です。さらに、大学受験を控えた高校3年生になると、講座数を増やしたり、夏期講習や冬期講習に通ったりして、100万円程度かかることもザラです。
そこで教育費の削減のためにも検討してほしいのが「オンライン塾」の活用です。スマホやパソコン、タブレットなどで授業の動画を視聴する、新しいタイプの学習方法です。
たとえば、最大手の『スタディサプリ』は高校生向けコースが月額2178円から利用できます。大学受験講座では志望校ごとに対策をした講座が選べるなど、教育DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術を活用した変革)時代の新たな学び方として注目されています。
家計改善で「月10万円以上の黒字化」に成功
●Eさんの基礎データ
Eさん…58歳/再雇用 妻…53歳/パート
子ども…2人/高校生 貯蓄額…900万円 住まい…持ち家
[図表2]Eさんの家計変化(before-after)
Eさんの家計改善額:合計黒字6万→10万3000円
●通信費(▲4000円).....................格安スマホのプランを見直し
●教育費(▲1万8000円)...............一部をオンライン塾に変更
●保険料(▲1万円).......................保証内容を適正に見直し
●食費(▲6000円)........................週予算を作成して適正に管理
●日用品費(▲2000円).................週予算を作成して適正に管理
●衣服・美容費(▲3000円)............クリーニング代を削減
Eさん夫婦は、住宅ローンを返済しながら、貯蓄もできていました。しかし、教育資金は貯まっていても老後資金の目途は立っていません。
そこで、細かな支出を見直し、貯蓄に回す金額をさらに増やしました。また、子どもたちに大学関連費用の一部を自己負担してもらうことの理解が得られたため、教育資金と老後資金をバランスよく貯めていく計画が立ちました。
横山 光昭/関口 博美
ファイナンシャル・プランナー
株式会社マイエフピー
