多くの人が知らない「都道府県ランキング」が隠すもの…地図から問いなおす「日本の姿」
日本は「東西」で語れるのか、「中部地方」は存在するのか、何が「裏日本」をつくったのか……私たちは〈この国のかたち〉を全然知らなかった!?
話題の新刊『新しい日本地理――地図・統計・移動から読み解く』では、気鋭の研究者が大量の統計地図を用いて、日本列島を大胆に問いなおしている。
(本記事は、重永瞬『新しい日本地理』の一部を抜粋・編集しています)
都道府県ランキングが隠すもの
あなたは「都道府県魅力度ランキング」を知っているだろうか。
私はあれが大嫌いだ。
民間のコンサルティング会社によって2009年に開始されたこのランキング(表0-1)は、毎年公開されるたびに世間の耳目を集めている。1位は2009年から一貫して北海道であり、京都府や沖縄県がそれに続く。ニュースで取り上げられるのは上位よりもむしろ下位のほうで、2025年には初めて埼玉県が最下位に転落したことが話題となった。
北関東は総じて順位が低く、茨城県は最下位となった回数が最も多い。群馬県はこのランキングに対して異議を唱えており、2022年には69ページにおよぶ「都道府県魅力度ランキング」検証報告書を作成している。批判内容は多岐にわたるが、その一部を紹介しよう。
まず、この魅力度調査は都道府県別人口構成に基づいて回答者を選出しており、人口の多い県が有利になる構造が存在する。人口が少なく、著名な観光地でもない県は、たとえ住んでいる人がそこを魅力的に感じていても、正当に評価されない。
また、調査は各都道府県に対して、「とても魅力的」から「全く魅力的でない」までの5段階で回答する方式であるが、「とても魅力的」と「やや魅力的」以外の回答はすべて同じ点数になる不均一な点数配分となっている。したがって、下位の県については、配点方法や統計誤差によっていくらでも順位が変わりうる。
群馬県の報告書が示すように、「都道府県魅力度ランキング」に統計的な信頼性はほとんどないのだが、これらに加えて、「都道府県ランキング」そのものが抱える問題もある。
それは、ランキングにおいては「土地の連続性」が問われないことだ。たとえ隣りあうような場所でも、あいだに県境があるだけで、別の地域として扱われてしまう。JR東北本線の赤羽(東京都)から隣駅である川口(埼玉県)に行ったとたん、魅力度が5位(東京都)から47位(埼玉県)になるわけではないはずだ。
地名のイメージを問うだけであれば、それでも良いのかもしれない。たしかに、多少無理をしてでも住所に「東京都」と書きたい人はいるだろう。居住地の場合は、行政サービスの差異という問題もある。
しかし、気候や文化は県境を越えたからといって、急に変わるわけではない。通勤や買い物によって結びつく経済圏も、たいていは県境を越えて広がっている。そうした都道府県を越えるような地域性は、ランキングではなく地図で見たほうが分かりやすい。
日本列島はどう分けられるか
都道府県を越えたまとまりというと、「地方」が思い浮かぶだろう。
現在、日本の地理教科書の多くは、日本を北海道、東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州の7つに分ける7地方区分を採用している(図0-1)。中国と四国を分ける8地方区分や、中部地方を東海や北陸、甲信越などさらに細かく分けた地方区分が使われることもある。
このような地方区分は高校野球だけでなく、衆議院選挙の比例代表制選挙区や大企業の支所配置など、政治、経済、文化のあらゆる分野に浸透している。よく用いられるこの地方区分を、「地方ブロック」と呼ぶことにしよう。
地方ブロックは不思議な地域単位である。都道府県や市区町村に比べると法的な位置づけは弱く、その時々で指し示す範囲が異なる。
例えば、国の地方支分部局で言うと、新潟県は関東経済産業局だったり、北陸農政局だったり、関東信越国税局だったりと所属が定まらない。また、広域地方計画や電力会社の管轄においては東北の一部と見なされることもある。
地方ブロックもまた、都道府県と同じような問題を抱えている。ブロックの境界をまたいだからといって、急に風土が変わるわけではなく、たいていは連続的に変化している。「近畿」地方でありながら名古屋との結びつきが強く、「関西」よりもむしろ「東海」とされることが多い三重県はその典型的な例である。
果たして、日本は地方ブロックで分けられるのだろうか。
例えば、島国である日本の魚食文化は、7地方区分よりもむしろ、面する海によって分けたほうが理解しやすい。日本海側の北陸と山陰は、ブリやカニがよく食べられるという点で共通しているし、反対に高知や静岡といった太平洋側の県では、カツオやマグロの消費量が多い。
日本を大きく分けるとすれば、東日本/西日本という分け方が最もメジャーであろう。関東と関西を核として日本が二つに分けられる、というイメージは多くの人に共有されているのではないか。実際、方言や人口移動においてはしばしば、東西の対立構造が見られる。
しかし、魚食文化のように、東西ではなく日本海側/太平洋側で分けたほうが適切な事例も多く存在する。気候によってかたちづくられた風土を語る際には、南北の軸も重要である。経済的な観点を重視するならば、東京とそれ以外、あるいは太平洋ベルトとそれ以外の格差に焦点が当てられるべきであろう。
47都道府県は日本列島という大地の上に連なっているのであり、陸だけでなく海によっても結ばれている。日本の「地理」は、都道府県をバラバラに並び替えるランキングでは捉えられないのはもちろんのこと、地方ブロックや東日本/西日本という分け方だけでも理解することはできない。
新しい「地理」を考えるためのツール
そこで本書では、地方ブロックでも東日本/西日本でもない、新たな地域区分に基づいて日本の地理を描く。
地域区分は、一見すると地域を「分ける」試みのようでありながら、実はそれと同じくらい「つなぐ」営みでもある。何らかの共通性を持つからこそ、異なる地域が同じ区分として括られる。新しい地域区分を考えることは、はるか遠方のどこか、そしてそこに住む誰かに対して想いを寄せることでもある。日本列島のあちこちに築かれた地方ブロックの壁を飛び越え、遠く離れた場所との新たなつながりを見出すこと、それがこの本の目的である。
そのために用いるのは、地図と統計という二つのツールだ。地域区分の話をする以上地図を用いるのは当然だが、単に既存の区分をなぞるだけではなく、統計を用いることで、その区分が本当に実態に即しているのかを明らかにする。その際、現代の統計だけではなく、戦前も含めた過去の統計も用いることで、より長期的な視点から日本の地域構造を考えたい。
本書は、単に既存の地方ブロックを解体することだけを目指すのではない。本書が読者にとって、ブロックを越えた先を歩くための「地図」になることを願う。
