【毒親 vs. 毒娘】交通事故で生還した娘に「模試の過去問」を渡す母…。医学部受験を強要される娘の壮絶な反逆劇の行方【書評】

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子どもの人生を支配しようとし、彼らの心身に悪い影響を及ぼすような親のことを「毒親」と呼ぶ。毒親という言葉自体は広く伝わるものだが、意外と当事者の子どもたちはその異常に気づかず支配され続けているケースもあるのではないだろうか。親元を離れて初めて、「あ、うちの親って毒親だったんだ」と気づく人もいるだろう。
ヤングアニマルWebで連載中の、鳥トマト氏が描く『二月に殺して桜に埋める』(白泉社)の主人公・諸星桜もまた、毒親である母・如月のもとで苦しみながらも、従順に母親の指示を受け入れる日々を暮らしていた。


桜は本が好きだった。医者になるより、本を作る仕事に就いてみたかった。しかしそんなことを母親が許すわけはない。彼女には、勉強を頑張って医者になる以外の選択肢は許されていないのだ。そして、無事に医者になったとしても、その後は実家の病院で引き続き母親に監視される日々が待っている。そう考えると、桜は生きる意味がわからなくなってしまうのだった。人生を終わらせたい、そんな希死念慮が彼女を飲み込んでしまいそうになっていた矢先、彼女は交通事故にあってしまう。

もう人生終わってもいいやと思っていたところ、本当に人生が終わってしまうところだった。彼女は奇跡的に一命を取り留めることができたが、一方で確実に彼女の中に異変が起きていた。人生の終わりを目の前にした瞬間、彼女は強く「好きに生きときゃよかった」と感じたのだ。

そこからの彼女は、まるで人が変わったかのように、自分の欲求をハッキリと伝えるようになった。地方医学部には行かない。東京の大学の文系学科に行く。そして、本を作る仕事に就く。初めて自分の気持ちに蓋をせず、堂々と母親に伝えたのだった。
この作品の面白いところは、話がここで終わらないところだ。一命を取り留めた娘の一言を、涙ながらに聞き入れるような母親なら毒親にはなっていない。彼女の頭が大丈夫だと知った母親がまず差し出したのは模試の過去問だ。母親にとっては、命が助かって良かった、じゃなくて、医師になる道が途絶えなくてよかった、でしかなかった。

ここから、地方医学部に通わせたい母親と、東京の文系大学に通いたい娘の、壮絶な戦いが始まる。とはいっても、生活費や学費を握っている親の方が圧倒的に有利だ。母親は度々「○○してほしければ医学部を受けろ」と迫ってくるが、覚悟の決まった桜は決して揺るがない。母親の度重なる妨害を受けながらも、なんとか隙を狙って難関国公立文学部受験のための勉強をしようと試みる。

果たしてこの親子の戦いは、どのような結末を迎えるのか。鳥トマト先生の迫力のある描写とコミカルな展開でつい面白がって読んでしまっているが、描かれているのはけっこうドロドロで笑えない話だ。今はとにかく、桜が毒親教育ママの呪縛から抜け出して、東京であたたかな春を迎えてほしいと願うばかりだ。
文=園田もなか
