春の山菜採りで“遭難”や“食中毒”が絶えない根本的な理由…観光客よりも「地元の“名人”が自分の能力を過信していることが問題」との指摘も
今年も、山菜シーズンに山に入って遭難する人が相次いでいる。4月24日、青森県五所川原市で2日前から山菜採りのために山に入り、行方不明になっていた72歳の男性が遺体で発見された。男性は“タラの芽”を採りに山に入ったのだという。
【写真】“山に慣れていると思っている人ほど危ないです”と注意を促す、元山岳救助隊員でトレイルランナーの秋山穂乃果さんの姿
山菜と誤って毒草を口にして食中毒になる例も続出している。4月1日、北海道の家族2人が、猛毒のトリカブトを山菜のニリンソウと間違えて食べ、うち1人が死亡した。25日には、有毒のイヌサフランを山菜のギョウジャニンニクと間違えて食べた2人の女性が入院する食中毒もあった。

山菜採りに端を発する遭難、そして食中毒。政府や自治体も啓発を行っているが、痛ましい事故はなかなか減りそうにないのが現状だ。【取材・文=山内貴範】
ベテランほど事故に遭うリスクが高い
筆者は秋田県出身であり、山菜採りやキノコ狩りに子供の頃から親しんできた。秋田県民は山菜やキノコを好んで食べ、それらが郷土料理に欠かせないということもあって、子供の頃から毎年のように遭難や中毒の話を聞いてきた。こうした事故が起こる最大の原因は、自称“名人”たちが自らの能力を過信しすぎるためと考えられている。
山に入る際には「俺は大丈夫だ」と思って、家族に行き先も告げずに山に入る人がたくさんいる。また、山菜やキノコ採りの名人は、タラの芽やマツタケのように希少価値の高いものが採集できる穴場スポットを絶対に明かさないという、徹底した秘密主義の人がいる。これこそが、遭難事故が起こる原因であろう。
そして、山は気候によって風景が変わりやすい。歩き慣れている山ほど、霧が出るなど、いつもと雰囲気が違うだけで戸惑いやすい。したがって、行き先を明かさずに入山し、しかもスマホなどの連絡手段を持たなければ、遭難するリスクは格段に上がってしまう。捜索隊が到着するまで時間がかかるのも、言うまでもない。
また、「俺はベテランだから山菜を見分けるなんて簡単だ」と、自らの知識を過信している人も多い。そのため、名人ほど誤って毒草や毒キノコを採ってしまうケースがあるといわれる。近年は山菜の名前をスマホで調べることができるアプリもあるが、精度が高いとはいいがたい。生成AIで出力された画像だったり、誤った説明がついていることもある。ネットを当てにするのは禁物と心得たいものである。
「すぐそこ」という油断が危ない
山でもっとも恐ろしいのは遭難事故で、最悪の場合は命を落とすこともある、痛ましい事故はどうすれば減らせるのか。長野県警で山岳救助隊を務めたこともある、日本を代表するトレイルランナーの秋山穂乃果氏に話を聞いた。
――秋山さんは日本有数の山菜採りやキノコ狩りのメッカといえる長野県で、山岳救助隊を務めていました。遭難者を救助したことはありますか。
秋山:私は山菜採りの方を救助したことはありませんが、キノコ狩りの方はあります。実際に遭難した方を見ていると、これくらいの山なら大丈夫という慣れ、あるいは反対に経験不足が原因で遭難するケースがあると感じます。
――山菜採りやキノコ狩りは、本格的な登山とは異なり、そこまで深い山奥に入らないことも多いと思います。険しい岩場を歩くわけでもありません。にもかかわらず、なぜ遭難してしまうのでしょうか。
秋山:山菜やキノコを採る人は、藪のような、登山道ではない場所に入ることが多いですよね。さらに、家族に行き先を伝えていないこともあるんです。捜索するにあたっても、そもそも本人がどこにいるのか、わからないことも少なくありません。これが、山菜やキノコ採りの遭難者を捜索する上での難しさだと思います。
そして、慣れている人ほど「山なんてすぐそこ」という感覚があるので危ないのだと思います。スマホや充電器を持たずに山に入ってしまうと、遭難しても連絡が取れなくなってしまいます。
――家族に行き先を伝えること、そして連絡手段を持つことは重要ですね。
秋山:私も毎日のように練習のために山に入りますが、必ず誰かに、どの山に何時から入り、どの行程で走るのかは伝えるようにしています。また、山ではスマホの充電の消耗が激しくなる傾向があります。充電器を忘れると、電池切れで連絡が取れなくなってしまうリスクもあります。
毎回クマに遭うと思って入山する
――遭難のリスクを減らすための心構えのようなものはありますか。
秋山:軽装備で入ってしまうことは、命取りになりかねません。私も、同じ山に日課のように入っていると、慢心が生まれることがあります。例えば、今日は重いからスマホの充電器はいらないかなとか、ファーストエイドキットや防寒着はいらないかなとか、少しでも装備を軽くする方法を考えてしまうんですよ。
でも、そういう日に限ってトラブルに見舞われ、足を挫いたりします。足を挫くと走るペースが遅くなるので、一気に体が冷えてしまう。そんなときに防寒着を忘れていると、大変です。十分な体力がなければ、低体温になってしまうこともあります。
――山の恐ろしさを感じる話です。秋山さんが入山する際に欠かさない装備はありますか。
秋山:毎回クマに遭うと思いながら山に入るので、クマ除けの催涙スプレーは必ず持っていきます。あとは、ジップロックに防寒着、充電器、ライト、ファーストエイドキット、レインウェアを入れておき、毎回それをザックに入れてから練習を始めるようにしています。それらにプラスして、水と補給食のジェルも多めに持っていきます。
恥ずかしながら、遭難とまではいかずとも、私は何度も山で失敗しているのです。今回のコメントも、自分を戒めるつもりでお話しさせていただいています。準備している時の「今日くらいは、これを持たなくてもいいか」という油断が命取りになると考え、山に入るようにしたいものですね。
トレイルランナーも山に入るときは身構える
4月25日に行われた、富士山麓の山道を走るトレイルランニング大会「Mt. FUJI 100(マウントフジ100)」の「ASUMI40k」というレースに出場した秋山氏は、他の選手を寄せ付けない速さで優勝した。これまでに世界各地の過酷な山道を走り抜け、肉体的にも、精神的にも、限界に挑戦するようなチャレンジを続けてきた秋山氏ですら、山は“怖い存在”なのだという。
山岳救助隊を務めた経験からも、「毎回遭難すると思って山に入るようにしています」と話すほどである。トレイルランニングのプロは常に、装備を万全にするのが基本だ。ましてや、一般の人であれば警戒はいくらしても、しすぎることはないであろう。山は危険なものであるという認識を持ち、命を守る装備を整えて入山するよう心がけたいものである。
ライター・山内貴範
デイリー新潮編集部
