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「有事の金」と呼ばれ、資産防衛の王道とされる金(Gold)投資。しかし、過去のデータを見ると数年間で40%も暴落するなど、投機的側面を持っています。「暴落リスクが怖い、でも現物資産は持ちたい」という投資家から注目を集めているのが、「アンティーク・コイン」です。本記事では、田中徹郎氏の著書『資産運用の視点からみた 決定版 アンティーク・コイン投資のすべて』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集し、金投資にはないアンティーク・コイン独自のメリットと、金融ショックに強い理由を解説します。

金は増え続けるが、アンティーク・コインは「二度と作られない」

実物資産の代表として、金(Gold)があります。コインにも金と同じく実物資産としての側面がありますが、両者の性格には、重なる部分と異なる部分があります。

まず異なる部分からです。

私たちの先人はさまざまな素材のコインを使ってきました。人類が最初に作った打刻コインは古代リュディア王国のスターテルと呼ばれる金貨(図表1)でした。

(図表1)リュディアの1/3スターテル(BC6世紀ごろ)

西暦で言えば紀元前600年前後ですから、今から2600年も前のお話です。高い希少性があり、なおかつ、一定以上の量を確保できる素材として金が選ばれたのでしょう。

希少性という点で金に及ばないものの、一定の価値がありそれなりの流通量がある素材として、銀もコインに採用されました。

時代はやや下りますが、古代ギリシャ・ローマ時代になり経済活動がより活発になると、庶民が日々使うコインとして銅貨の発行量も増えていきます。金と銀に加え、さらに銅を中心とした非鉄金属などがコインの素材として使われる時代は現代まで続いています。

このようにコインの歴史を振り返りますと、私たちとコインの関係はここ2000年以上もの間ほとんど変わっていないことがわかります。

逆に言えば、コインはそれだけ使い勝手がよく信頼性も高い媒体だったのでしょう。長期に及ぶ私たちとコインの関係は、今を生きる私たちにもしっかり受け継がれているのではないでしょうか。

一方、昨今は電子マネーの台頭によって、その古き良きコイン文化は徐々に失われつつあるようです。電子マネーや仮想通貨が「本物」でないとは言いませんが、その価値に対して私たちは全面的な信頼感を持っていると言えるでしょうか。

たとえば、私たちが18世紀にイギリスで発行されたアン女王の5ギニーをみて、なんとも言えない憧れや、ため息が出そうになる陶酔を感じるのは、かつてコインに対して持っていた、「本物」への信頼感や郷愁の表れなのかもしれません。

では、金に対してはどうでしょう。たしかに電子マネーや仮想通貨にない「本物への信頼感」はありますが、先の5ギニーに対するほどのものではありません。

金は現在でも地中から採掘されていますし、廃棄スマホやPCから大量に回収されます。その点で再生不能なコインと違った性格を持っていると言えるでしょう。

金にはない、アンティーク・コインだけが持つ「美術品」としての特別感

金とコインのもう一つの違いは美術的な価値だと思います。

この2600年の間、私たちの先人たちはさまざまな金貨や銀貨を作ってきましたが、美術的な価値を持つ素晴らしいコインも数多くあります。

人それぞれ感じ方は違いますが、多くの収集家は1600年代から1700年代にかけてドイツやオーストリアで発行された大型の金貨・銀貨に美術的な価値を見出します。

特に、同時代のハンブルグやレーゲンスブルグなど都市の景観がデザインされた10ダカット金貨や銀貨ターレル(図表2)は、ある意味でコイン美術の頂点と言っていいでしょう。

(図表2)レーゲンスブルグのターレル(1793年)左:オモテ面、右:ウラ面

素材としてみれば、たとえば金貨は主に金でできています。その点ではコインは金と似通った性格を持っていますが、美術品としての価値という点からみると、コインは金や銀にはない特別な性格を持っているのです。

「金=ミドルリスク」は間違い?価格変動が激しいハイリスク資産

金とコインの違いは値動きに現れます。図表3のグラフは、直近25年のドル建て金価格の値動きを示したものです。金の価格は激しく動いていることがわかります。

(図表3)ドル建て金価格の推移

リーマン・ショックがあった2008年は株価が半分ほどになるなか、金の価格は最大でも25%ほどの下落にとどまっていますが、2012年から2015年にかけて40%ほど値を下げています。

逆に上がるときも激しく、新しいところでは2022年の年初から現在(2025年12月)まで2倍ほどにもなっています。

よく金はミドルリスクの資産と言われますが、このグラフをみるとその考えは間違っており、十分にハイリスクだとわかります。

私はこの金にみられる激しい価格変動は投機マネーによるものだと思います。金の市場には、現物の取引だけでなくETFや先物取引を通して巨額のマネーが日々、出たり入ったりしています。

売買にも実需に伴う取引もありますが、多くのおカネが超短期のサヤを狙って動いていると言えるでしょう。

金との決定的な違い…アンティーク・コインに投機マネーが流れてこない理由

一方のコインはどうでしょう。コインの世界は専門性が高く、まず投機的なマネーが入ってくることはありません。

たとえば、同じ銘柄でも年号が一つ違うだけで数倍から数百倍も値差があることも珍しくありません。同じ銘柄、同じ年号でもほんの小さなキズ一つで価値が数分の一になってしまいます。

たしかにNGC社やPCGS社※1の鑑定済みケースに入ったコインの場合、そのケースに印刷されたグレード※2は、相場を知る一つの手掛かりにはなりますが、鑑定会社の評価にはバラツキがあります。

※1 NGC社とPCGS社はアメリカを代表する鑑定会社です。

※2 NGC・PCGSによる評価は、「アメリカ式評価」に基づいています。

つまり、コインは金と違って高い専門性が求められる領域で、それだけに投機的マネーが入ってきにくい世界なのです。

市場規模は金の1000分の1…アンティーク・コインが金融ショックに強い「納得の理由」

金とコインのもう一つの大きな違いは市場の大きさです。

たしかに金の市場は、株や債券などペーパーアセットにくらべ小さいですが、それでも投機マネーを受け入れる容量は十分あります。

これに対してコインはどうでしょう。コインの市場規模に関する信頼できるデータを私は見たことがありませんが、アメリカ最大手オークション会社(ヘリテージオークションズ)の落札総額や、国内オークション会社の落札総額から推定すると、オークション市場だけで大雑把に年間2,000億円内外、それとは別に世界中のコイン商による売買額が同程度あると考えると、世界で毎年4,000億円ほどの売買が成立していると考えることができます。

さらに、この額の10倍を収集家が退蔵していると考えるなら、4,000億円の10倍で4兆円。このあたりがコイン市場の総額ではないかと私は考えています。

一方、地上にある金は約22万トンと言われており、2025年11月現在の価格1グラム=2万2,000円として計算すれば、地上在庫の総計は5,000兆円弱になります。

つまり、おおざっぱに言えばコインの市場規模は金の1,000分の1以下しかないことになります。

コイン市場のこの小ささは、コイン投資に要求される専門性とならんで投機マネー、あるいは投資目的でやってくる機関投資家のマネーを阻む要因になっています。なぜなら巨額のマネーの流入によって、市場そのものを動かしてしまうことを彼らは知っているからです。

このように大きく二つの理由によって、コインは金と違って機関投資家のマネーを拒んでいると言えるでしょう。これがコインの値動きに影響を与えているのは間違いありません。

金融ショックで株や債券、金さえも大きく相場が変動するような場面でも、コインの相場が動きにくいのはこのような理由からです。

コインの市場はまるで外洋から堤防で仕切られた湾のようなものなのです。

田中 徹郎

株式会社銀座なみきFP事務所

代表/FP