吉野家2万人の頂点「日本一の豊洲店店長」が明かす牛丼”うまさの極意”…「肉の食感もタレも違う!」食べ比べてわかった
吉野家では、約2万人いる従業員の中で「最もうまい牛丼」を提供する達人を選ぶ「肉盛り実技グランドチャンピオン大会」を50年近く開催している。
グランドチャンピオンが身に着けた技術とはどんなものか? そして、その味わいとは? 2025年度のチャンピオンに取材を敢行。覆面で実食調査も行い、「最もうまい牛丼」の味の秘密に迫った。
【前編記事】『吉野家公認「日本一牛丼がうまい店」が豊洲にあった…噂の有楽町超え?半世紀つづく《肉盛り実技グラチャン》の全貌』よりつづく。
私が考える「うまい牛丼」とは…
2025年度の「肉盛り実技グランドチャンピオン大会」でチャンピオンの栄誉を手にした「吉野家 豊洲店」店長・物部泰治氏。2000年の入社後、1年で店長に就任し、都心の店舗を中心に20店以上で肉鍋の前に立ち続けてきたベテラン社員だ。
「私が考える『うまい牛丼』は、まずは見た目の良さと香りで食欲をそそり、食べたときにたれの甘みとコクを感じ、肉がジューシーでうまみが広がる1杯。その理想の味わいを提供できるよう、調理中の自分を動画撮影して、マニュアルに沿わない無駄な動作やおかしな癖が出ていないかチェックし、改善を繰り返して大会に臨みました」と物部氏は言う。
「肉盛り実技グランドチャンピオン大会」の約70の審査項目には、おたまの動かし方や肉鍋との距離の取り方など、細かな身体操作が要求されるものもある。一挙手一投足まで神経を張り詰める調理担当者の姿を、アスリートか伝統芸能の熟達者のように想像した。ちなみに物部氏の前職はスポーツジムのインストラクターだという。
「私が特に気を付けているのは、高温で牛肉を一気に加熱し、赤みが消えるタイミングで牛肉から溶け出してくる余分な脂をおたまで取り除き、玉ねぎを沈めるまでの工程を素早く行うことです。高温での調理とこの脂抜きがとても重要と考え、徹底しています」と物部氏。
ちなみに吉野家では1976年より各店の脂抜きで出た牛脂を回収し、飼料や製品原料、発電燃料としてリサイクルしているのも興味深い。
いつもの吉牛なのに「何かが違う!」
グランドチャンピオンが作る牛丼の味は、何が違うのか。食べ比べることにした。吉野家はマニュアルに沿って調理するチェーンであり、各店の味に大きな違いはない。
以下に記すのは筆者の個人的な感想である。その点は強調しておきたい。ただし、実感としての味の差異は間違いなく存在した。
物部氏が店長を務める豊洲店を訪れたのは平日の13時過ぎ。二十数席のカウンターがほぼ埋まっている。席に着いてタブレットから牛丼の並盛を注文。1分10秒後、「お待たせしました」という従業員の声とともにトレイが目の前に運ばれた。
牛丼の具である「煮肉」がきれいに敷き詰められ、ご飯が見えない。肉を口に運ぶ。親しんできたいつもの吉野家の牛丼であるが、「何かが違う!」と心の中で驚きの声を上げた。まず、特筆すべきは肉の食感の良さ。赤身部分は程よい噛み心地が快く、脂身部分からは十分に脂が抜け、くどくなく、口の中でさらりと溶けていく。玉ねぎもサクッと歯切れ良さを残しながらトロリと甘い。火入れが絶妙なのだ。
たれの味の輪郭も鮮明に思えた。醤油が香り、まろやかな甘みや塩気の中に、生姜や白ワインのほのかな風味が幾層にもなって感じられるようだ。煮肉とご飯との相性も完璧である。夢中で食べ続け、気が付けば5分とかからず完食していた。
周りを見渡すと、牛丼を注文する客が多い気がした。およそ8割。著者と同じように、「この店にはグランドチャンピオンがいる」と優越感を持ちながら食べている人もいるかもしれない。物部氏は優勝後に常連の客から祝福の声をかけられたという。厨房に目を凝らしたが、物部氏の姿は確認できなかった。後進への技術指導も入念に行っていると取材時に話していた。
「十分においしい。けれど」他店と比較すると
2日後、平日の午前11時過ぎ、都心の駅隣接の吉野家を訪問。席数が多く、24時間営業の日もある大規模店だ。回転が速く、ビジネスマンがひっきりなしに出入りしている。インバウンドらしき外国人もいた。
席に着き、牛丼の並盛をオーダーすると50秒ほどで提供された。味わうと、煮肉がさっぱりしている反面、肉に元気がないと感じた。含有する肉汁が乏しい感覚で、食感も極端にやわらかい印象を受ける。十分においしいのだが、豊洲店で2日前に食べたあの1杯との差は大きい。
翌日、神奈川のターミナル駅から徒歩3分程度の店舗へ。筆者が日常的に利用する店であり、座席数は豊洲店と同じぐらいの規模。平日13時半近く、客入りは8割程度。牛丼並盛をオーダーすると1分弱で到着。
連日食べているから敏感になっているのだろうか。違いを明確に認識する。煮肉のジューシーさは際立っているが、脂っぽさを感じた。豊洲店の牛丼をもう一度食べてみたい欲求が強く湧き上がった。
吉野家では「肉盛り実技グランドチャンピオン大会」だけではなく、牛丼以外の他メニューも含めた料理の提供と店舗運営を潤滑に行うことを競う「キッチンマスターチャンピオン大会」も2022年度より開催している。両方優勝の称号を持つ猛者もいるという。
「グランドチャンピオン」は憧れの存在
「キッチンマスターチャンピオン大会にも、いつか挑戦したいですね」と物部氏が意気込むその横で、吉野家企画本部・広報担当の茶木氏はこうも語った。
「私も店舗勤務を経験しましたが、肉鍋を割り当てられた日は嬉しいんですよね。花形なんです。『自分が作る牛丼が一番おいしい!』、内心でそう自負する従業員は多いと思います。だからこそ、『肉盛り実技グランドチャンピオン』は、スタッフ全員が知っている、憧れの存在です。
リスペクトと、彼らの技術に近付こうという気持ちを誰もが胸に抱いています。実は初出場でそのまま優勝したチャンピオンは過去に存在しません。皆さん、何度も挑戦して優勝を手にしました。大会は吉野家の伝統と歴史で培われた調理技術を研鑽し、継承するために今後も続けていく予定です」
話を聞いて最も驚いたのが、審査項目は1977年の初回からほとんど変わっていないということ。つまり、およそ50年前の時点で「うまい牛丼を作るためのマニュアル」が完成していたといえる。
「肉盛り実技グランドチャンピオン」を頂点に、調理を担う全従業員がその理想に向かう努力が、吉野家の牛丼の味を支えているのだ。
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