地域の憩いの場としても愛された眼鏡店(本人提供)

 川崎市宮前区鷺沼で昨年5月、市の下水道管の詰まりによって汚水が逆流し、営業停止に追い込まれた老舗の眼鏡店がある。仮店舗での営業も今月28日に終了。都市インフラに起因する被害が、半世紀を超えて地域に根差してきた個人商店の廃業に直結した。2代目の男性店主(63)は「川崎市に対して絶望している。何が『最幸のまち』なんだ、と思ってしまった」と悲憤する。

 被害を受けたのは、1968年から営業を続けてきた眼鏡店。昨年5月16日夕、店内の壁際から水がにじみ出たことから始まった。

 翌17日にはトイレから汚水があふれ出し、店舗はみるみる水に覆われた。「汚水がうずまいている。ただごとじゃない。持ち出せるものを店外へ運んだ」

 最終的に水位は約30センチに達し、システム検眼機や聴力を測定する防音室など主要機器はほぼ使えなくなった。一緒に切り盛りしてきた妻(65)も「汚水が早く止まってほしい。何も考えられなかった」と振り返る。顧客の視力を預かる業態にとって、衛生環境の悪化は致命的だった。

 原因は下水管内にたまった油脂による閉塞(へいそく)。再開には店舗改修や機器の買い替えで約2500万円が見込まれた。500本を超える眼鏡の在庫も抱え、店主は当初「行政が関係する以上、きちんと補償される」と信じていた。しかし、市が契約する下水道賠償責任保険では補償額は減価償却を前提とした時価評価で、提示された賠償額では到底賄いきれなかった。

 対応の遅れも重くのしかかった。市側の説明や回答は一つ一つに1カ月程度の時間を要したといい、見通しが立たないまま時間だけが過ぎていった。市側の対応についても「今も原因や再発防止の説明がない」と不信感を口にする。