(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

JTBが4月2日に発表した「2026年GWの旅行動向見通し」によれば、今年の国内旅行は「物価高などの影響を受け、旅行費用は引き続き高止まり」すると予測されています。実際、旅行に行かない理由の第2位には「GWは旅行費用が高いから(34.6%)」が挙がっており、連休特有のコスト高が家計の大きな壁となっています。年金生活を送るマサ子さん(仮名)にとって、この高止まりする旅費は死活問題です。遠方に住む娘夫婦と3人の孫、計5人分の航空券代を全額負担しているからです。一度の帰省で消えていくのは、往復で30万円近い大金。総務省「家計調査(2024年平均)」が示す高齢夫婦世帯の平均的な月間消費支出(約25万円)を、移動費だけで軽々と上回る計算です。そんななか、「あと1週間」と指折り数えて準備を急ぐ、彼女の揺れる胸中に迫ります。

ゴールデンウィーク、夏休みが近づくと…

カレンダーをめくり、大型連休の赤い数字が目に入るたび、マサ子さん(70歳)は、喜びと溜息が入り混じった複雑な感情に襲われます。

「あと1週間もすれば、あの子たちがやってくる……」

地方の一戸建てで同い年の夫と2人、月々22万円の年金で慎ましく暮らすマサ子さん夫婦。貯蓄は1,800万円ほどありますが、物価高騰が続くいまの時代、家計にゆとりはありません。それにもかかわらず、遠方に住む娘夫婦と3人の孫、計5人の帰省にかかる費用と労力は、すべて老夫婦の肩に重くのしかかっています。

飛行機代20万円は親持ち

マサ子さんの娘夫婦が帰省してくるのは、年に2回、ゴールデンウィークと夏休みだけです。年末年始は「あちら(婿の実家)の顔も立てなきゃいけないから」と、婿の実家へ行くのが恒例になっています。

そのため、「せめてうちに来るときくらいは」という親心から、マサ子さん夫婦は毎回、娘たち5人分の往復航空券代を負担しています。

「3人の孫を連れての移動は大変だろうからと、つい手を出してしまいました。一回の帰省で飛行機が高い時期なので、20万〜30万円は飛んでいきます。年2回で50万円以上。貯金が尽きるのが先か、孫たちが来なくなるのが先か……」

さらに滞在中の食費、外食代、レジャー費、帰る際に渡すお小遣い……。5月末の通帳の残高を見るのが、いまから恐ろしくてなりません。

溜まった食器を横目に、先に寝てしまう娘

出費もさることながら、70代の体には「5人の受け入れ」という肉体労働も堪えます。朝から晩まで孫たちの食事の準備と片付けに追われる毎日。

娘は「手伝うよ」と口では言いますが、食事が終わると流しまで食器を運んでくれる程度。そのまま「子どもたちと遊んでたら疲れちゃった」と、山積みの洗い物を残して孫と一緒に寝室へ消えてしまいます。

「娘にとっては、ここは唯一甘えられる場所なんでしょうね。でも、私ももう若くはありません。夜に一人で食器を洗っていると、『私は家政婦じゃないのよ』と、実の娘に対して黒い感情が湧いてくるのを止められないんです」

「いつか、この喧騒が懐かしくなる時が来る」

それでも、マサ子さんが娘に「もう来ないで」とは言わない理由があります。出費の不安も、片付けをしない娘への不満も、すべてを飲み込むのは、いましか見られないことだから。

マサ子さんは、こう語ります。

「孫たちの成長は本当に早くて、会うたびに驚かされます。ゆっくり話ができるのも、結局はこの帰省のときだけ。苦痛だ、大変だ、と考えればそれまでですが、孫たちがいつまで一緒に帰省してくれるかなんてわかりません。そのうち部活や友達を優先してこなくなるでしょうし、こちらもいまより高齢になれば、もうこんな賑やかさには付き合えません。費用の問題はありますが、いつかきっと、この騒がしいイベントを、懐かしく思うときが来るんでしょうね。それまでのあいだの楽しみでしかないんですから」

高齢世帯における「家族への支出」の重み

総務省の「家計調査(2024年平均)」によると、65歳以上の夫婦無職世帯において、実収入から消費支出を差し引いた不足分は、1ヵ月あたり平均で3万7,910円に達しています。年間で約45万円。この赤字分を貯蓄から取り崩して補填するのが、現代の一般的な高齢世帯の姿です。

マサ子さんの場合、年金22万円に対し、ここ数年の物価高で光熱費や食費が上昇しており、普段の生活でも毎月数万円の持ち出しがあります。そこに、年間50万円を超える「孫関連の特別支出」が加わると、貯金の減少スピードはさらに加速します。

マサ子さんの選択は、経済的にみれば「リスク」かもしれません。しかし、彼女にとっては、手元の貯金を減らしても、いまこの瞬間の「家族の風景」を維持することのほうが価値があるのです。

ただ、娘との緩やかなルール作りや資産の見える化などをやっておくと、より一層いまを楽しみやすくなるかもしれません。娘に、 「後片付けだけは一緒にやってほしい」という小さなお願いを、不満が爆発する前に伝えてみたり、家族への支出負担に関しては、年2回の「特別予算」として最初から計上し、それ以外を締めるといった、数字に基づいた安心感を夫と共有するなど、できることはあるでしょう。

あと1週間。冷蔵庫の中身を孫たちの好物で埋めながら、マサ子さんは今日も腰痛ベルトを締め直します。それは、多くの祖父母たちが、家族との時間を守るために続けている一つの姿なのかもしれません。