週末、娘たちを妻の実家に送り届け、ヒデキさんは自宅に戻った。息子が昼寝をしたところで、妻に鑑定結果を見せた。

「正直に言ってほしい。それだけ告げました。妻はじっと結果を見ていましたが、『だまっていてごめんなさい』と。

そこからぽつりぽつりと話したことをつなぎあわせると、僕には何の不満もない。ただ、あるとき取引先の男性に会って心臓が止まるほど驚いたと。その人は彼女の中学時代の初恋の人だった。片思いのまま告白もしなかったけれど、彼は1年生が終わると同時に挨拶もなく越していったというんですね。

それで彼女の心の中には彼の存在が焼きついてしまった。もちろん結婚後はほとんど思い出すこともなかったけど、偶然出会って、また恋心がよみがえった、と」

◆妻から関係を迫ったことにショック

 だからといって関係をもたなくてもいいだろうとヒデキさんは妻に言った。そうよねと言いながら、妻は自分の気持ちが舞い上がってしまって、どうしたらいいかわからなかった。だから1度だけ関係をもって、初恋にケリをつけたかったのだそう。

「妻から関係を迫ったことにショックを受けました。それほど好きな人だったのか、好きな人がいれば僕や子どもたちを簡単に裏切るのか、と。

 そう言ったら妻は泣きながら、『私の13歳のときの大事な思い出なの』と言いました。あなたと知り合う前のことに自分でちゃんと終止符を打ちたかったと。その気持ちはわからないでもないけど、実際に行為に及んだのは39歳の妻ですからね……」

“離婚するしかないの?”と言われたとき、ヒデキさんはドキッとした。離婚などまったく考えていなかったからだ。そういう選択肢があるのかと改めて感じた。

「もちろん、その彼とはそれきり会っていないそうです。たまたま彼が担当を変わって、仕事で会うこともなくなった。妊娠がわかっても彼には連絡をとらなかったと妻は断言しました。そこは信じようと思いました」

◆運命として僕らは受け入れるしかない

 問題はこれからのことだ。息子はかわいい。違和感はあっても、それは愛情を覚えないということではない。むしろ真実を知ったために違和感をも受け入れられそうだと彼は思った。

「ともかく考えさせてほしいと言うしかなかった。その1週間後、妻の兄が突然、亡くなったんです。元気で明るい人だったんですが、脳卒中でした。義兄の妻も子どもたちも、そして義両親も、さらに妻もすっかり落ち込んで……。僕は彼らのサポートやらうちの子どもたちのケアやら、てんてこまいの日々でした」

 今年になってようやく少しずつ、みんなが落ち着いて日常生活を送れるようになってきた。同時に2歳になったヒデキさんの息子のこともまた、彼の中で浮上してきた。

「妻から『気持ちに余裕がもてなくてごめんね。息子のことを話さないと』と言ってくれたんです。その間、兄を亡くした妻の悲しみや苦悩を見てきて、僕の中でも少し変化が起こっていました。妻と義兄は仲がよかったんですよ。義姉は妻が自分の友だちを兄に紹介して結婚した。だから兄ともう会えない妻の気持ちは、僕にもよくわかりました。

『人はいつかいなくなる。僕にとって縁のない子でも、きみの子であることには変わりない。今はそんな気がする』と僕は言いました。妻は『そうね、やっぱり離婚するしかないのかもしれないね』と。いや、そういう意味じゃないんだと僕はあわてました」

 彼が言いたかったのは、これもまた縁なのかもしれないということだった。妻が浮気したのは事実だが、彼女は彼女の中に昔から巣くっている彼への思いを解放したかったのだろう。結果として子どもが産まれた。避妊はしていたし、妊娠する可能性の低い時期だったと彼女は言った。それなのに妊娠したのだ。産まれてくる運命だったのだろうと彼は考えた。