二人で年金月36万円、退職金4,000万円だったが…「財布を分けていた」69歳・元国家公務員夫婦。定年9年後、初めて互いの「口座残高」を見せ合い、同時に膝から崩れ落ちたワケ【FPが解説】
夫婦のよくある揉め事のひとつに、「家計管理」があります。片方の趣味や高額な買い物を巡って、「それ、本当にいま買うべき?」と衝突してしまうこともしばしば……。その一方で、共通の支出以外は財布を分けて管理している家庭もあります。こうした夫婦は、日頃の揉め事が少なく一見健全に思えますが、退職後に一気に「老後破綻危機」が露呈するケースも。本記事では、60代夫婦の事例を通して、「財布別管理」の危険性と老後破綻を防ぐポイントをFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。※本記事は実話をベースに構成していますが、プライバシー保護のため、個人名や団体名、具体的な状況の一部を変更しています。
ストレスフリーな「財布別管理」を続けてきた夫婦
内藤隆さん(69歳/仮名)と同い年のみどりさん(仮名)夫婦は、ともに元国家公務員です。20代のころ、同じ職場で出会い結婚しました。
共働きで安定した収入があった二人は、結婚した当初から「自分のお金は自分で管理する」というスタンスを貫いています。住宅ローンや食費、子どもの教育費といった共通の支出については夫婦でほぼ同額を負担しますが、それ以外の支出については、互いに干渉しないというルールでした。
リタイアしてからもその習慣は変わらず、隆さんは友人とゴルフを楽しみ、みどりさんも友人たちと温泉旅行に出かけるなど、それぞれが自分のやりたいことのために自由にお金を使い、ストレスのない老後生活を送っていました。
年金収入は、夫婦あわせて月36万円ほど。一般的な「ゆとりある老後」のための金額を夫婦二人の年金だけで受け取ることができるという状況です。
しかし、年金生活に入って数年が経つと、隆さんは不安を覚えるようになりました。
「預金が、思ったより減っている気がする……」
リフォーム時に明らかになった夫婦の「衝撃の預金残高」
ローン、資金援助、趣味…老後資金が溶け、赤字が当たり前に
夫婦は60歳の定年退職時、合計4,000万円の退職金を受け取りました。そのうち、約2,000万円は住宅ローンの繰上げ返済に充て、残りの2,000万円は1,000万円ずつ分け、個人で管理することに。
「年金も十分にあるし、老後は問題ないだろう」
そう考えていた二人ですが、子どもへの援助や孫へのお小遣い、交際費や旅行費といった支出が重なり、実際の支出はそれぞれ月30万円前後。現役時代の金銭感覚が抜けず、気づけば毎月のように預金を取り崩していました。
そして隆さんが69歳を迎えるころには預金残高は400万円を切り、みどりさんも600万円程度まで減少してたのです。
すでに老後破綻の入り口…預金残高の少なさが露呈し、夫婦関係に亀裂
お互いの懐事情が明らかになったのは、自宅のリフォームのときです。結婚を機に建てた戸建ては、老朽化であちこちがボロボロ。見積もりをとると、外壁や屋根の修理に、約250万円必要であることがわかりました。
「どちらがいくら負担するか」と話し合う段になって初めてお互いの預金残高を知り、二人は同時に膝から崩れ落ちました。
「俺はそんなにリフォームが必要だとは思わない。提案したお前が全額負担しろ」「不公平だわ。この家は二人の共通財産なんだから、平等に125万円ずつ出しましょう」リフォーム資金の負担を巡って、大喧嘩になってしまいました。
「このままでは、資産が尽きるのも時間の問題だ……」
取り返しのつかない状況に、夫婦は困り果てています。
「財布別管理」のしわ寄せは、老後に一気に訪れる
共働きで収入が安定しているあいだは、「財布を別々に管理する」方法でも家計はうまく回り、ともすると共同で家計管理している家庭よりも夫婦間のトラブルが少ないように思えます。
しかし、老後も互いに収支バランスのとれたお金の使い方ができていればいいものの、今回の事例のようにそううまくはいかないことも多いです。現役時代の感覚のまま収入が年金だけになると、老後の家計は一気に崩れていきます。
夫婦は家庭という最小単位の組織を共同経営するようなものです。本来であれば、収入、支出、資産の残高を共有し、適正に予算配分して管理する必要があります。どちらか一方の収支バランスが崩れれば、もう一方にも影響が及ぶためです。
また、老後には介護費用や医療費、医療費、葬儀費用など、あらかじめ準備しておくべき支出があります。これらは“予想外の出費”というより、ほぼ確実に発生する「予定されたライフイベント」と捉えるべきものです。
老後、財布別管理を続けるにしても、「お互いの資産状況は定期的に把握する」「将来の収支計画を立てる」この2点は最低限必要でしょう。そうでなければ、内藤夫婦のように、気づいたときには家計だけでなく夫婦関係にも深い溝が生まれかねません。
老後の家計は“取り崩し前提”…「計画力」が老後破綻を防ぐ
総務省の家計調査によると、高齢夫婦無職世帯の平均支出は月約26万円前後とされています。一方で、公的年金の平均受給額は夫婦で約22万円程度とされており、毎月の不足分を貯蓄で補う構造になっています。つまり、多くの家庭で「取り崩し前提」の家計になることが予想されます。
収入が十分にあり資産が多い家庭でも、管理ができていなければ、老後破産は現実的なリスクです。資産があるからといって油断せず、老後の資産計画や管理方法を話し合っておくようにしましょう。
残りの人生を最大限楽しむためには、計画的なお金の使い方を考えることが重要です。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー
