“カチカチ”とハサミの音色が刻んだ昭和の駅風景 なぜきっぷに切り込みを入れたのか、46種類もあった切り形のヒミツ

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ICカード乗車券が主流となった今では、駅の改札口といえば「自動改札機」が当たり前の光景となった昨今。改札口に駅員さんが立って“カチカチ”と音を鳴らしながら“切符”にハサミを入れていた光景を、見たことがないという人もいる時代になってしまった。いまでもローカル私鉄のなかには、このハサミを使用している路線もあり、昭和の改札風景もまだまだ健在だ。きっぷに入れられるハサミ(改札鋏)の“切り形”には、いくつもの種類があることをご存じだろうか。見かける機会も少なくなった改札ハサミ「改札鋏」。そんなニッチな世界へと誘うことにしよう。

※トップ画像は、“カチカチ”と軽快に音をたてながら「きっぷ」にハサミ(改札鋏)を入れていた頃の改札風景=1982年、国鉄上野駅、資料所蔵筆者

切り込みの形で駅や路線を識別

自動改札機が多くの鉄道で取り入れられるようになったのは、昭和から平成に時代が移り変わったころのこと。当時、1台あたり1000万円もした自動改札機は、あっという間にあちこちの駅に設置された。それまでの改札といえば、駅員さんがハサミ=改札鋏を“カチカチ”とリズミカルに音を鳴らしながら、きっぷに切り込みを入れていた。

乗客数の多い駅では、その切りくずが山のように積み上げられ、それを見た子どもらは駅員さんに「切りくずもらっていいですか」と声をかけ、手のひらいっぱいに持ち帰っていたことを思い出す。その小さな手からこぼれ落ちる切りくずは、まるで桜吹雪のようだった。

きっぷに入れる切り込み(改札こん=形)は、当時の国鉄には46種類もあり、路線や駅ごとにその形状を管理していた。通常使用のものは1番〜35番まであり、このほかに特殊な形として11種類が12駅用として、さらに予備用として2駅分が用意されていた。予備用とは、例えば通常は駅員の配置がなく、ハサミの用意がない「無人駅」で、臨時にハサミを使用する場合などを想定して用意したものだ。

このほか、列車内での改札(検札)用に「車内改札鋏」というものが、10種類以上あった。これは線区ごとや、管理するエリアによって形や文字が決められていた。この車内改札鋏の特徴は、切りくずによって車内を汚さないように「文字が浮き出る」ように“型押し”により、きっぷに目印をつけていた。

東横線・祐天寺駅のほど近くにある鉄道ファンにとってはおなじみの鉄道ムードの店「カレーステーション・ナイアガラ」では、ハサミ(改札鋏)や硬券と呼ばれる厚紙のきっぷに日付を印刷するダッチングマシーン(乗車券日付器)の実物を見ることができる。ハサミ(改札鋏)は、国鉄時代に上野駅で使用されていたものと同じ切り形のもので、店内でカレーを注文するとその日の日付を印刷したオリジナルの硬券(入場券を模したもの)が記念にもらえる。

〔店舗情報〕カレーステーション「ナイアガラ」、東京都目黒区祐天寺1-21-2(東急東横線祐天寺駅東口より徒歩5分)、営業時間/11時〜17時、定休日/毎週月曜(ただし、祝日の場合は営業→翌日お休み)、電話03-3713-2602

改札鋏(ハサミ)と硬券と呼ばれる厚紙の”きっぷ”に日付を印刷する乗車券日付器(ダッチングマシーン)=2026年4月10日、撮影協力/カレーステーション「ナイアガラ」

「特殊鋏こん」と呼ばれた切り形の形状。首都圏にある国鉄駅に限定されたものだった=資料所蔵筆者

鋏こん番号1〜18番の切り形と使用する駅(首都圏管内)を示した一覧表=資料所蔵筆者

鋏こん番号19〜35番の切り形と使用する駅(首都圏管内)を示した一覧表=資料所蔵筆者

なぜ、切り込みを入れる必要があったのか

現在では、IC乗車券などで自動改札を通過し、その都度適正な価格が差し引かれるため、「不正乗車」や「キセル乗車」というコトバを聞かなくなって久しい。国鉄の時代は、不正乗車が横行していたこともあり、取り締まる国鉄側もいろいろな対策をたてていた。

いまの時代、自動改札を通れば乗車した駅、日付、時刻が記録される。有人改札と呼ばれた駅員さんが改札に立っていた時代は、こうした記録を残すことができなかった。ゆえに改札口でわざわざ「きっぷ」に切れ込みを入れる理由が、そこにはあった。きっぷの使用を開始した証となり、その切り形によって路線や駅がどこかわかるため、不正乗車を見抜くいわば目印のようなものだった。ある駅では、その切り形を曜日や時間帯によって変えることで、適正に使用された“きっぷ”かどうかを見極めていたというわけだ。

車内検札(改札)の際に使用された改札ハサミは、路線ごとに異なる文字が浮き出る「型押し」が使用された=資料所蔵筆者

JR久留里線の車内で多客期に行われる「車内改札」のようす=2025年11月29日、千葉県君津市

改札で繰り広げられた職人ワザ

大きなターミナル駅の改札ともなれば、昼夜を問わず大勢の乗客が改札を通過する。そして、所持するきっぷに1枚ずつ“ハサミ”を入れなければならない。カチカチと音を鳴らしながら、手際よく切符にハサミを入れるようすは、いまの自動改札機よりも多くの乗客を裁いていたように感じる。当時の国鉄マンは、愛想が悪い、態度が悪いと陰口を叩かれていたが、いま思えばそんな余裕などあるはずもない。

その軽快なハサミの手さばきとリズミカルな音色は、まさに職人ワザだった。しかもそれだけではなく、目視により定期券に記載された区間を外れた不正乗車を見抜いていたのだから。混み合う出口でも、金額が不足しているきっぷを見つけると、即座に「お客さん、20円足りませんよ」といった具合に声をかける。もちろん、あらゆる駅からの運賃を暗記していて、いちいち運賃表を見なくても素早く対応できていたのだ。こうした駅員さんによる神ワザは、便利さと引き換えに遠い過去のものとなってしまった。

自動改札機が当たり前になってしまった現代。なつかしい昭和の改札風景の話は、この先いつまで通じるのだろうか。

さまざまな切り形の改札ハサミ(改札鋏)の入った国鉄当時のきっぷ。「東京山手線内均一回数券」や、「受験生きっぷ」を使ったことがある方もおられるのではないだろうか=資料所蔵筆者

文・写真/工藤直通

くどう・なおみち。日本地方新聞協会特派写真記者。1970年、東京都生まれ。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物に関連した取材を重ねる。交通史、鉄道技術、歴史的建造物に造詣が深い。元・日本鉄道電気技術協会技術主幹、芝浦工業大学公開講座外部講師、日本写真家協会正会員、NPS会員、鉄道友の会会員。

【貴重画像】国鉄時代の改札鋏リストや懐かしい改札風景の数々(7枚)