【竹輪 次郎】【関係者が激白】「本当の黒幕は別にいるんです」…上野4億円強奪事件で報じられない「凶悪グループの存在」
「本当の指示役」が存在する
今年1月、東京・上野の路上で、現金約4億2300万円が入ったスーツケースが奪われた強奪事件。3月には7人が逮捕され、ひとまず事件は動いたかに見えた。だが、この事件を巡っては、いまだに不明なことが多い。
なぜ犯人グループは、4億円もの現金がスーツケースに入っていると知っていたのか。奪われた大金はどこへ消えたのか。そもそも、その4億円は何の金だったのか――。
水面下ではいまなお、拭い切れない疑問が渦巻いている。そんななか、筆者はこの事件の事情を詳しく知る関係者から証言を得た。
「指示役とされる男は逮捕されています。しかし、逮捕された7人の中に金の動きを知り得る人間はいません。『本当の指示役』は別に存在します。その人間こそが本当の黒幕です」
いったいどういう事なのか。
今回の事件が起きたのは、1月29日の夜のことだった。東京・台東区の路上で、男性らが運んでいたスーツケース3個が複数の男に襲われ、強奪されている。被害者の1人である43歳の男性は、男たちから催涙スプレーを吹きかけられた。スーツケースの中に入っていた現金は実に4億2300万円。報道によれば、そのカネは香港へ運ばれる途中だったという。
しかも、事件はこれだけに留まらない。翌30日未明には、大田区の羽田空港第3ターミナル近くの駐車場で約1億9000万円を運搬中のグループが催涙スプレーのようなもので襲われている。この時点でカネは奪われずに済んだ。しかし被害者の1人が、その後に渡航した香港で5100万円を奪われている。
被害者の1人は警察に対して「金(ゴールド)を売却して得た現金を、両替するために香港へ運んでいた」と話していたとされる。
上野、羽田、そして香港――。巨額の現金が短期間で連続して狙われていたことになる。
事件が大きく動いたのは、発生から約2ヵ月後の3月だった。警視庁は、山口組弘道会傘下組織幹部の狩野仁琉容疑者(21歳)と、職業不詳の小池恒児容疑者(47歳)ら計7人を事後強盗容疑で逮捕した。
一連の逮捕報道をまとめてみよう。狩野容疑者と小池容疑者は指示役として現場に立ち会い、他の3人が実行役として4億円入りのスーツケースを奪取。残る2人は逃走用車両の準備などを担ったとみられている。
「両替に大きな意味がある」
さらに異様なのは、その顔ぶれだ。逮捕された7人のうち3人が現役の暴力団組員で、所属は山口組、住吉会、極東会とそれぞれ別系統。いわば「暴力団の混成部隊」とも言うべき構図が浮かび上がり、事件の特異性を際立たせた。
だが、これで解決したわけではない。筆者が取材した事情通のA氏は、「逮捕されたのはあくまで実行犯だけ」と話す。
「4億円を運んでいた被害者たちは、いわば『金運びのバイト』です。特別な人間ではなく、金を香港まで運ぶことで日当を得る普通の人たちですよ」
A氏は続ける。
「香港まで現金を運んで1日5万円。向こうへ持っていって、日本に戻ってきて、また運ぶ。単純な仕事ですが、日当5万円ですから引き受ける人はいる。だいたい5人前後のチームを組んで運搬していたようです」
では、彼らが運んでいた「4億円」は、どういった経緯で生まれたカネだったのか。
報道では「金(ゴールド)の売買で得た現金を香港で両替するため」とされていたが、A氏によれば、その背景には「両替に大きな意味がある」という。
「香港には暗号資産の両替所があります。そこに現金を持って行くと暗号通貨USDT(テザー)に交換してもらえます。ここのレートが世界の相場と比べると0.5%ほどサービスしてくれるのです。たった0.5%と思うかもしれませんが、4億円なら200万円です。運搬役の経費を差し引いても利益が出ます。この利益を目当てに毎日のように現金を交換していると聞いています」
「USDT」とは、米ドルとの連動を意識して設計された暗号資産で、価格変動が比較的小さいとされる。A氏の話では、このUSDTを使ってさらにゴールドを買い付けていた可能性もあるという。もしこれを税関に申告しないで日本に密輸したとすると、消費税10%分がそのまま利益になる。その現金を再び香港に持ち込み、お得に両替していけば、金が金を生む「錬金術」のループが生まれる。もちろんこれは仮説であり、これまで逮捕された事例などに基づく一般論である。現段階で、今回の事件の被害者がゴールドの密輸に関わっていたとは言われていない。
浮上する「中国人グループの影」
4億円を運んでいた男性たちは、あくまで末端の運搬役にすぎない。
「被害者たちはメンバーの一部でしかありません。4億円の持ち主は別にいます。それは中国人グループです」
そのグループについて、A氏はこう証言する。
「中国人グループの事務所には、円やドル札が束になって床に無造作に置かれていたと聞いています。億単位の現金が転がっていたんじゃないかと。彼らは金を“モノ”ではなく、完全に“数字”として見ているタイプです。0.5%でも有利なら、それを毎日のように回して利益を積み上げる。警備会社に頼むより、カネのためなら危険を顧みない日本人を安く使って運ばせた方がコストが低い、という感覚なんでしょう」
そして件の強奪現場は、その中国人グループの事務所から遠くない場所だったという。運び屋たちは、まさに金を運び出して比較的すぐのタイミングで襲われている。偶然であるはずがない。
さらに不可解なのは、事件の翌30日未明、羽田空港の駐車場でも1億9000万円を運んでいた4人が襲撃されている点だ。こちらは未遂に終わったものの、彼らはそのまま香港へ渡航し、現地で今度は5100万円を奪われた。
A氏によれば、上野で奪われた4億円も、香港で奪われた5100万円も、もとは同じ中国人グループのカネだという。
では、誰がその情報を流したのか。
「最初は、運び屋のバイトが漏らしたのかとも思いました。でも、それは違う。運び屋は自分以外のメンバーや全体の日程を把握していないからです。だから“運び屋が全部しゃべった”とは考えられないと思います」。
A氏は、さらに踏み込んだ説明をする。
「逮捕された実行犯の中に、その事務所へ自由に出入りできるような人間はいなかった。だからフライト情報や事務所の場所、運搬の流れを知っている“身内”がいたはずです。内部を知る誰かが、外の実行犯グループに情報を流して、実行を依頼したと考えるのが自然でしょう」
つまり、実行犯とは別に、情報を握る”黒幕”がいるというのだ。
4億円はどこへ消えたのか
各紙報道によれば、逮捕後の捜査で、狩野容疑者は事件後に約1000万円相当のミニバンと約200万円相当の高級腕時計を現金購入していたという。小池容疑者も約300万円相当の外国車を購入。さらに、住吉会傘下の伊藤雄飛容疑者(27歳)の関係先からは現金1000万円が見つかったとされる。
だが、それでも4億円にはほど遠い。奪われた大半の金はいったいどこへ消えたのか。
この点についてA氏は、「情報を流したとみられる人物」の存在と、その後の様子に注目している。
「誰が漏らしたのか、そこまでは断定できません。ただ、運び屋の日程はWhatsApp(無料のメッセージアプリ)で管理されていたと聞いています。ということは、それを見られる立場の人間に限られる。その中には、指示役として現場にいた狩野容疑者に近い人物もいたようです」
その「近い人物」について、A氏はさらにこう続ける。
「事件前までは違法ギャンブルで多額の借金を抱えていたのに、事件後は急に落ち着いたと聞いています。もちろん、それだけで犯人だとは言えません。ただ怪しさしかありません」
読売新聞の報道によれば、羽田空港で襲われた4人のうち1人は、昨年11月に東京・築地でも9400万円を車上荒らしで盗まれていたという。
一連の事件が同じ資金ルート、同じ運び屋グループである可能性は高い。上野、羽田、香港、そして築地。いずれも巨額の現金が、「行き先を知っていたであろう者」に襲われている。これら全ての事件をつなぐ”黒幕”にまで捜査の手は及ぶのだろうか。
内部情報を流し、利益を得ながら、いまだ逮捕を免れている人物がいる――。
A氏の証言が事実であれば、この事件は全く解決していない。むしろ、核心はこれから浮かび上がるのかもしれない。
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