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お笑いタレントの千原ジュニアさんが、2月22日配信の「ABEMA的ニュースショー」で、自動車の運転中にあわや交通違反の取り締まりを受けそうになったエピソードを明かしました。

番組での発言によると、千原さんは都内で車を運転中、横断歩道の近くで年配の方を介護している様子である人がいたため一時停止。その人は歩道の手前で腕を横に振るようにジェスチャーをしてきたとのことです。

千原さんはこのジェスチャーを「行ってください」ということだと認識し、車を発進させたところ、直後に警察から「歩行者優先義務違反です」と告げられたそうです。

千原さんは車を降りて事情を説明し、歩行者を探しに行ったものの見つからなかったとのこと。警察に「徹底的に話しましょう」と話し合った結果、最終的に警察官が納得し、取り締まりには至らなかったようです。

危うく違反をとられるところだった千原さんですが、仮に歩行者から明確に「行ってください」と言われた場合でも、違反になってしまうのでしょうか。簡単に解説します。

●歩行者が明確に「行ってください」と言っている場合には?

結論からいえば、歩行者自身が明確に「行ってください」と言い、運転者がそれを認識して進行した場合、歩行者優先義務違反にはならないと考えられます。

道路交通法38条1項は、自動車が横断歩道に近づいた場合のルールを定めています。

「横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合」を除いて、横断歩道の直前で停止できる速度で進行しなければなりません。

そして「横断しようとする歩行者があるとき」は、一時停止して通行を妨げないようにしなければなりません(道路交通法38条1項、119条1項5号。3カ月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金)。

条文上、「横断しようとする歩行者がないことが明らか」であれば、一時停止義務は発生しません。

●過去の裁判例は?

では、歩行者本人が「行ってください」と言っている場合、「横断しようとする歩行者がいないことが明らか」といえるのでしょうか。

過去の裁判例を調べたところ、同じケースについてのものは見つかりませんでしたが、類似の事例はいくつか見つかりました。

たとえば東京高裁の昭和42年(1967年)10月12日の裁判例では、歩行者が横断歩道に2〜3歩踏み出した後、車を見て立ち止まったケースが問題となりました。

裁判所は、「横断しようとしている」という要件について、ただ立ち止まっただけでは横断の意思を放棄したとはいえず、「歩道上に引き返す」など、外見上明らかに横断をやめたとわかる行動が必要だとしました。

結論として、この事例では横断しようとする歩行者がいないことが明らかとはいえないので、一時停止の義務があるとしています。

ただし、この裁判例が扱ったのは、横断歩道上にいた歩行者が受動的に立ち止まっただけという事案です。

千原さんの体験では、歩行者は横断歩道に踏み出してすらいません。歩道上にいたまま、車に対して歩行者自らがジェスチャーで合図しています。

上の裁判例からは「歩道に引き返す」行為があるような場合に、横断の意思を放棄したと認められる可能性があるといえます。

千原さんの事例のようにそもそも歩道にいたままジェスチャーしている場合、「歩道に引き返す」以上に、横断する意思がないことは明らかだと考えられます。

したがって、違反にはならないと思われます。

●「行ってください」と言われたことの立証は難しい

とはいえ、実際に取り締まりを受けた場合に、「歩行者から行ってくださいと言われた」ことを証明するのは簡単ではありません。

歩行者の合図はその場の短時間での出来事です。明確な言葉が残っているとも考えにくく、歩行者の挙動の解釈も問題となるでしょう。

千原さんのケースでも、歩行者を探しに行ったものの見つからなかったと報じられています。

また、同じケースではありませんが、裁判で争っても違反が認められた事例はあります。

先ほどあげた東京高裁の裁判例でも結論として違反が認められています。

また、大阪高裁昭和54年(1979年)11月22日は、横断歩道の中央付近で立ち止まった歩行者について、「横断しようとする歩行者」にあたるとして違反を認めました。

千原さんのケースの方が、これらのケースよりも違反と認定されにくいとは思いますが、捜査機関とのやりとりや弁護士への相談など、争うこと自体が大きなコストになってしまうでしょう。

それでも納得いくまで戦いたいということであれば、ドライブレコーダーによる録画が必須になると思われます。

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士