『呪術廻戦「死滅回游 前編」』©︎芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

写真拡大

 1月から放送が始まったTVアニメ『呪術廻戦』の第3期「死滅回游 前編」。今シリーズではアニメの枠を越えていくような挑戦的な演出が多用されており、放送のたびにSNS上でさまざまな反響を巻き起こしている。

参考:『呪術廻戦』星綺羅羅役で注目 蒼井翔太、村瀬歩らに続く榊原優希の“中性ボイス”の魅力

 なぜこれまでよりも“尖った”演出を導入する必要があったのか。結論から言うと、その理由は原作の「死滅回游編」が少年マンガの文法を逸脱するような作風だったことと関係しているのかもしれない。

 まずはアニメの第3期で用いられている演出のうち、とくに印象的なものを振り返ってみよう。

※本稿は『呪術廻戦』第3期「死滅回游 前編」のネタバレを含みます

 たとえば、第48話「執行」では、ホラー映画風の演出が登場。禪院家当主・直毘人が重体となり、次期当主候補の扇、甚壱、直哉が集められるのだが、そこで直哉が放った軽口から一触即発の事態になる……という展開だった。流れとしては原作通りだが、アニメでは3人の集まる部屋が異様なほど狭い空間に変えられており、心理的な圧迫感を醸し出していた。また天井の丸形蛍光灯が激しく揺れ動き、3人の顔にゆらゆらと影を落とす描写もあり、その関係性がきわめて不安定なものであることが暗示されている。

 また、第51話「葦を啣む」でも同様に凝った演出による心理描写が繰り返されたが、真希が完全なフィジカルギフテッドとして覚醒した後は雰囲気が一変。禪院家の戦闘部隊をなぎ倒していく様子を軽快な音楽と共にテンポよく描き出している。ここでは明らかにクエンティン・タランティーノ監督の映画『キル・ビル』がオマージュされているものの、表現としては実写的ではなく、むしろアニメ的なケレン味のあふれるアクションシーンが意識されていた印象だ。

 さらに虎杖悠仁と伏黒恵が呪術高専3年・秤金次に力を貸してほしいと頼みに行く第52話「熱」でも、特徴的な演出の場面があった。虎杖は自分が呪術高専の生徒であることを隠し、秤と1対1で交渉を行うのだが、その様子が約4分にわたる固定カメラの長回しで描写されたのだ。あたかも部屋の片隅に仕掛けられた隠しカメラの映像のような質感で、2人の対話が決裂に至る瞬間の空気感が写し取られていた。

 こうして振り返ると、第3期では過去のシリーズよりも大胆な演出方針が取られていることが分かるはず。とはいえ重要なのは、この演出がたんに実験的で面白いということではなく、原作の方向性に合致していることだろう。

 そもそも『呪術廻戦』は「渋谷事変」以降、初期のようなコミカルなノリが薄くなり、物語がとことん暗くなっていく。アニメの演出はなによりその緊張感や不安感、登場人物たちの切迫した心理状態を表現することに成功しているように思われる。そしてそれと同時に、第51話「葦を啣む」のように“暗くなりすぎない”バランスの取り方を見せていることも注目に値する。

 また原作の『呪術廻戦』が少年マンガの枠組みを逸脱していくような展開を見せたことも、アニメ版の演出に説得力を与えている。

■“少年マンガ”というジャンルを逸脱していく『呪術廻戦』 「渋谷事変」の後、『呪術廻戦』はもはや学園ものではなくなり、秩序が崩壊した都市で殺伐としたバトルが描かれるようになる。それは言い換えれば、呪術高専を舞台とした平穏な日常が崩壊するということでもあった。少年マンガでは“日常を取り戻すための戦い”がよく描かれるものだが、虎杖たちは大切な仲間を失った上、その日常は取り返しのつかないところまで壊れている。

 また虎杖が「渋谷事変」から「死滅回游」にかけて絶望と挫折を味わい続けることも、異色の展開と言えるだろう。少年マンガの主人公は友情と努力で勝利を掴み取っていくはずだが、虎杖は一向に報われないままの状態で物語が進んでいく。

 さらにいえば「死滅回游」では虎杖とは関係ないところで話が進むことが多く、群像劇としての色合いが濃くなっている。そのため少年の成長物語が主軸ではなく、旧態依然とした名家の家督争いや自由な生き方を獲得しようとする少女の奮闘など、多様な物語に発展していくのだった。

 すなわち「死滅回游」は原作の時点で、少年マンガというジャンルから逸脱している節があったように思われる。だとすればその物語をアニメ化する際、ホラー風の演出や実写的な長回しなど、さまざまなジャンルを取り入れた演出に変化することも妥当と言えるはずだ。

 しかもアニメ版は決して作品の内容を改変しているわけではなく、原作のニュアンスを表現するためにこそ大胆な演出を導入している。“解釈違い”だと指摘する原作ファンの声が少ないことも、そうしたスタンスが理解されている証ではないだろうか。

 『週刊少年ジャンプ』から生まれた稀代の異色作を、MAPPAはいかにしてアニメ化してみせるのか……。その挑戦はこの先もまだまだ続くはずなので、期待を込めて見守っていきたい。(文=キットゥン希美)