地方へ行くほど人もお金も足りていない…データが浮き彫りにする「日本のインフラ老朽化」の厳しい現実
※本稿は、岩城一郎『日本のインフラ危機』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

■圧倒的に高い日本の「橋密度」
日本には膨大なインフラが存在しています。まずはざっと数字を挙げてみます。
トンネル:約1万2000本
道路:総延長約128万キロメートル
上水道管:総延長約74万キロメートル
下水道管:総延長約49万キロメートル
数字としては多く見えますが、実際どれほどなのでしょうか。日本と海外の主要国の橋の比較を示します(図表1)。

道路橋を例にとってみましょう。日本には狭い国土に73万もの道路橋が建設され、人口密度のように1平方キロメートル当たりの橋の数(橋密度)で表すと1.93となります。アメリカや中国は0.1未満、ドイツ、フランスは0.3程度(イギリスでは0.6程度)であり、いかに日本が多くのインフラを抱えているかがわかります。
■「無駄なインフラが多い」わけではない
なぜこんなに多いのでしょうか? 税金を無駄遣いし、多くの不要なインフラを整備してきたと批判する人もいますが、そうではありません。
アメリカやヨーロッパをドライブしてみるとわかりますが、欧米諸国の多くは広大で平坦なため、橋などをかけなくてもあちこち行き来できます。対して日本は急峻な山々に囲まれ、そこを縫うように川をまたぎ、山をくりぬき、橋やトンネルが整備されたため、インフラが多いのです。
図表2は建設後50年以上経過するインフラの割合を試算した結果です。

道路橋の割合を見ると、2023年3月時点で約37%であるのに対し、2030年には約54%、2040年には約75%になると試算されています。つまりこの十数年で急速に老朽化が進行していくのです。
また、トンネル、河川管理施設、水道管路、下水道管渠、港湾施設などその他のインフラは、橋ほどではありませんがいずれも今後老朽化が進むことが予想されます
■7000カ所以上の橋で必要な補修が未実施
国内外でインフラ事故が起き、そのメンテナンスが重要視されてきていますが、その実態はどうなのでしょうか。
たとえば、NHKは国土交通省が公開している「全国道路施設点検データベース」と情報公開請求で得られたデータをもとに、道路橋の補修状況について管理者別に分析をおこなっています。
その結果、対策が必要な橋のうち手を付けられていない補修未実施の橋の割合は、国が33%、都道府県が37%、政令市が63%、市区町村が60%となりました。点検の結果「対策が必要」とされながら、手が付けられていない橋やトンネルの数は全国で3万3390カ所(橋3万2320カ所、トンネル1070カ所)もあることになります。
また、国が求める「5年」を超えて対策に着手できていない橋の割合については国が0%、都道府県が4%、政令市が15%、市区町村が16%と、やはり政令市や市町村で高い傾向がみられました。その数は橋6967カ所、トンネル74カ所で、合計7041カ所に上ります。
■補修が追いついていない都道府県は…
都道府県別(図表3)にみると、対策ができていない橋の数は、新潟県が648、福島県が537、山口県が406、長野県が356、宮城県が281と、地方の県で多い傾向があります。このうち新潟県や福島県、長野県は県の中でも面積が広く、インフラの数も多いことが理由に挙げられます。

続いて市町村別のトップ10(図表4)をみると、未実施数が多いのは、岡山県岡山市、新潟県新潟市などの地方の政令市や、新潟県長岡市、鳥取県鳥取市など地方の施行時特例市・中核市となっています。これらの市では概して多くの管理橋梁を抱えているという特徴があります。

■ランキング上位の新潟県が抱える事情
さらに5年以上補修未実施数(図表5)でみると、新たに北海道釧路市、新潟県佐渡市、さらには福島県南会津町といった地方の一般市や町もランクイン。これらの自治体は橋梁数に加え、人口減少や予算上の問題もあり、補修に移行できない問題が浮き彫りになっています。

全体としては新潟県および新潟県内の市で未実施数や5年以上未実施数が多いという結果でした。なぜ新潟なのでしょうか?
その理由として、新潟県内はもともと河川が多く、橋の数も多いことに加え、日本海に面していて海水の影響を受けやすいこと、降雪の影響を受けやすいことなどにより、橋が劣化しやすいことが影響していると考えられます。
■自治体を悩ます人材不足と予算不足
NHKのデータ分析からも明らかなように、インフラの老朽化問題は、高速道路会社、国、都道府県で管理されているものに比べ、市区町村、特に地方の小規模自治体で管理されているもののほうが深刻な状況にあります。
なぜかといえば、膨大なインフラを管理していながら人材不足と予算不足に悩まされているからです。そんな地方の現実に迫っていきましょう。
まず、どんな組織がどんなインフラを管理しているのか(図表6)。道路(橋梁)で65%、水道(管路)81%、下水道(管渠)75%、下水道(処理場)86%、公園76%など、多くのインフラを市区町村で管理していることがわかります。

次に人材不足、具体的には市町村の職員数の推移を見てみましょう(図表7)。

市町村全体の職員数は、2005年には75万2309人でしたが2021年には68万5635人となり、約9%減少しています。一方、土木部門の職員数は、2005年の10万5187人に対し、2021年は9万719人となり、約14%も減少。つまり土木部門の職員数の減少割合は、市町村全体の職員数の減少割合よりも大きいのです。
また、市町村全体の職員数は、近年増加傾向にありますが、土木部門の職員数は横ばいとなっています。
■役所の中に技術系職員が少なすぎる
図表8は市町村における技術系職員数を団体数ごとに整理し、全団体の割合で示したものです。技術系職員がまったくいない市町村は全体の25%にも上り、5人以下の市町村が全体の約5割を占めていることがわかります。市町村ではこのような状況でインフラのメンテナンスをおこなっているのです。

市町村の財政状況からは、さらに厳しい現実が浮かび上がってきます。なんと、道路の総延長のうち84%も市町村道が占めているにもかかわらず、維持管理費は全体の33%にとどまっているのです(図表9)。

もう少し詳しく見ていくと、高速道路の場合、実延長9082キロメートルに対して年間の維持修繕費は5266億円であり、これを道路1キロメートルあたりに換算すると年間5799万円の予算で管理していることになります。
■市町村道にかけられるお金はほんのわずか
一方、国で管理している直轄国道の場合、1キロメートルあたり年間2568万円となり、高速道路の半額以下で管理していることになります。

この額は補助国道、主要地方道、一般都道府県道となるにしたがって減少し、市町村道では102万8787キロメートルという膨大な延長に対し、年間の維持管理費はわずか9919億円。1キロメートル当たりに換算するとたった96万円です。
すなわち、市町村道では、同じ延長の高速道路のわずか60分の1、直轄国道の27分の1の維持修繕費でメンテナンスしていることになるのです。
地方、市区町村には膨大なインフラがある。しかし、人手がないし、お金もない。メンテナンスする上での大きな課題がのしかかっているのです。
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岩城 一郎(いわき・いちろう)
日本大学工学部工学研究所長・土木工学科教授
1963年生まれ。博士(工学)。東北大学大学院修士課程修了後、首都高速道路公団、東北大学を経て現職。コンクリート構造物の高耐久化やインフラのメンテナンスを専門とし、地域住民との協働による「橋の歯磨きプロジェクト」に取り組む。元土木学会誌編集委員会委員長。土木学会論文賞・技術賞、インフラメンテナンス大賞国土交通大臣賞など受賞。編著に『新設コンクリート革命』『インフラメンテナンス大変革』(ともに日経BP)など多数。
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(日本大学工学部工学研究所長・土木工学科教授 岩城 一郎)
