アルツハイマー病は記憶力や認知機能の低下などを引き起こす神経変性疾患で、アミロイドβというタンパク質が凝集したアミロイドβプラークが、脳に蓄積してしまうという特徴があります。新たに、スペインのカタルーニャ生物工学研究所(IBEC)や中国の四川大学華西病院などの研究チームが、マウスの脳からたった数時間でアミロイドβプラークを大幅に除去する治療法を開発しました。

Rapid amyloid-β clearance and cognitive recovery through multivalent modulation of blood-brain barrier transport | Signal Transduction and Targeted Therapy

https://www.nature.com/articles/s41392-025-02426-1



Scientists reverse Alzheimer’s in mice using nanoparticles - Institute for Bioengineering of Catalonia

https://ibecbarcelona.eu/consiguen-revertir-el-alzheimer-en-ratones-con-el-uso-de-nanoparticulas

New Alzheimer's Treatment Clears Plaques From Brains of Mice Within Hours : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/new-alzheimers-treatment-clears-plaques-from-brains-of-mice-within-hours

国際的な研究チームが開発したアルツハイマー病の治療法は、脳の血液系を体の他の部分と隔てる生理学的バリアである血液脳関門に着目したものです。血液脳関門は病原体や毒素が脳に侵入するのを防ぐ一方、さまざまな薬剤が脳に到達することも妨げているため、アルツハイマー病の治療法を探ってきた従来の研究者らは、微細なナノ粒子などを用いて血液脳関門を乗り越える方法を探してきました。

しかし今回の研究チームは、血液脳関門を「乗り越えるべきハードル」ではなく「修復するべき機能不全の組織」として捉え、脳にどうにかして薬剤を送り込もうとするのではなく、脳からの老廃物除去を助けるというアプローチを採用しました。

アルツハイマー病における主要な問題のひとつが、脳においてアミロイドβプラークのような毒性物質の除去システムがうまく機能しなくなることです。通常時は、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1)がアミロイドβタンパク質と結合して血液脳関門を通過していますが、LRP1とアミロイドβタンパク質の結合が強くなりすぎたり、逆に弱くなりすぎたりすると除去がうまくいかず、脳内にアミロイドβタンパク質が蓄積してしまいます。



研究チームはLRP1を標的としたナノ粒子を開発し、アミロイドβタンパク質の除去を正常化する治療法を考案しました。そして治療法の効果を確かめるため、アミロイドβタンパク質を大量に産生し、アルツハイマー病を模倣した認知機能低下を示すように遺伝的にプログラムされたマウスで動物実験を行いました。

実験では、認知機能の低下が始まったマウスに3回にわたってナノ粒子薬を投与して、定期的に病状やアミロイドβタンパク質の蓄積について観察しました。その結果、最初の薬剤投与から数時間以内に、アミロイドβプラークが45%近くも減少したことが確認されました。

さらに、治療前のマウスは認知機能低下の兆候を示していたにもかかわらず、3回のナノ粒子投与後は空間学習や記憶課題において健康なマウスと同等の成績を達成しました。この認知機能改善効果は、少なくとも6カ月間持続したと報告されています。

IBECの主任研究員であるジュゼッペ・バッタリア氏は、「長期的な効果は脳血管系の回復から生まれます」「アミロイドβタンパク質などの毒性分子が蓄積すると病気が進行しますが、血管系が再び機能するようになるとアミロイドβタンパク質やその他の有害分子の除去が始まり、システム全体のバランスが回復します。注目すべきは、私たちのナノ粒子が薬剤のように作用し、この除去経路を正常レベルに戻すフィードバック機構を活性化するように見えることです」と述べました。



今回の研究はあくまで動物実験を基にしており、同様の治療効果が人間のアルツハイマー病患者でも得られるかは不明です。それでも、血液脳関門自体を修復してアミロイドβタンパク質を除去するという、新たな治療法の開発につながる可能性があると期待されています。