「もう蹴りたくない」地獄のPK戦も見方を変えれば“極上の舞台”。国立で約6万人の視線を独り占めできる機会は日本代表戦士にもなかなか訪れない【選手権】
約6万人の大観衆の中でのPK戦を見ている最中に思い出したのが、”レジェンド”中村憲剛さんの言葉だ。「現役引退後、憲剛さんはプロフットボーラーという職業をどう捉えていますか?」と訊くと、こう返されたのである。
「羨ましいです。スタジアムの視線を一身に集め、観客を興奮させたり、感動させたり、はたまた悔しい気持ちにさせたり、非日常を演出できる側ってやはり特別です。演者の感覚を超えるものに引退後は出合ってないです」
「一つの勝敗を決める方法ではあるんでしょうけど、なかなか難しい。一人にこれだけ(重い)のものを背負わせるのはどうなのかなと個人的には思いますけど、でもそれがゲームの形式なので、仕様がありません」
ただ、見方を変えればあのPK戦は“極上の舞台”である。憲剛さんの言うように、「スタジアムの視線を一身に集め、観客を興奮させたり、感動させたり、はたまた悔しい気持ちにさせたり、非日常を演出できる」のだから。
約6万人の視線を独り占めできる。日本代表のメンバーでさえ、なかなか経験できないシチュエーションだ。そう考えると、前橋育英と流経大柏の選手たちはサッカー人生で一度あるかないかのチャンスを得たわけだから、ある意味、幸せ者だろう。
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果たして、当事者はどのような気持ちでPKを蹴った、はたまた見ていたのか。
途中でベンチに退いてPK戦をピッチ外から見ていた前橋育英の佐藤耕太は「正直、(蹴らなくて)ホッとしています(笑)。ただ、経験としてはちょっと蹴りたい気持ちはありました」と笑顔で話せば、同じく途中交代だった前橋育英のオノノジュ慶吏は「国立でPKを蹴るなんて人生でそうない経験なので、その意味では蹴りたかった。決める自信もありました」と述べていた。
では、実際にキッカーを務めた選手の感覚はどうだったのか。両チーム合わせて20人目、ラストキッカーとなった柴野快仁の答は実にシンプルだった。
「もう蹴りたくないです(笑)」
もちろんその心情は十二分に理解できる。
取材・文●白鳥和洋(サッカーダイジェストTV編集長)
