市船で磨かれた信念「やりたくないことをやり続ける」。清水内定FW郡司璃来、冬の選手権に懸ける想い
千葉の名門・市立船橋において、1年時から主軸としてプレーしている郡司璃来。ストライカーとしてのフィジカルの強さ、スピード、そして足もとの技術でハイレベルな要素を持ち、ポストプレーから打開する突破、ワンタッチやフリーランニングでスペースを突いたり、インフロントやアウトフロントを駆使して正確なラストパスを送ったりすることができる。
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「本当にあっという間ですね。正直、キツいことのほうが多かった3年間でした」
高校生活を振り返って、郡司はあどけない笑顔でこう口にした。
「でも、そのキツかったことは僕にとって絶対に克服しないといけないものでした。どうしても性格的にすぐに熱くなってしまったり、イライラしてしまったりでプレーを乱していたので、そこを波多秀吾監督をはじめとしたスタッフの皆さんが本当に親身になって、ときには厳しく接してくれた。本当に感謝しています」
1年時からそのずば抜けた能力を発揮していた郡司だが、当時からプレーの波が激しかった。乗りに乗っている時は手のつけられないようなプレーをするが、劣勢を強いられたり、厳しいマークにあったりすると、徐々にプレーが雑になり、ファールを取られることもしばしば。
当時はまだ1年生だったがゆえに、周りの先輩たちがフォローしていたが、学年が上がっていくうちに、この精神的なムラはチームにマイナスを及ぼす危険性もあった。
これだけを見ると、非常に扱いづらい選手のように映るが、人間性は非常に素直でかつ繊細。イライラしてしまう自分を誰よりも彼自身がよく理解していたし、イエローカードをもらった試合後に話を聞いても、「あれは本当に無駄でした。もっと冷静になれば違った展開になっていたと思います。でも、どうしても勝ちたくて、頭に血が上ってしまいました」と反省を口にすることが多かった。
勝ちたい、点を取りたい。この純粋で強烈な気持ちがあるからこそ、前線でチームのために全力でボールを追いかけて守備の急先鋒にもなるし、カウンターの際に複数人に囲まれて、足を削られても必死でボールをキープし、周りにつなげる。
強引なドリブル突破でフィニッシュまで持ち込んだり、フィニッシュすると見せかけて、フリーになった選手に優しいパスを送ったりと、攻守においてチームに貢献し続けた。
昨年、チームは苦しい1年を過ごした。プレミアリーグEASTにおいて残留争いに巻き込まれ、プリンスリーグ勢との入れ替え戦に進むことになった。その間に行なわれた選手権予選でも、チームは主軸を失うなか、決勝戦で日体大柏に敗れ、選手権出場は叶わなかった。
「本当に上手くいかなかった。でも、プレミアだけは絶対に落ちたくはなかった」と、愛媛FC U-18との入れ替え戦で決勝弾となる先制点を挙げ、プリンスリーグ降格という最悪の事態は免れた。
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そして迎えた今年、郡司は苦しい経験を経て、さらに逞しくなった。
「もう最後の1年なので後悔はしたくないんです。チームのために走る、守備をしてから攻撃をするということは、市船に来るまでは苦手だったというか、やりたくないことでした。1年生の時も『やりたくないな』と思っていましたが、波多監督やスタッフの皆さんがいつも『やりたくないことをできるようにならないと、上には行けない』と言い続けてくれたし、常に僕にそれを強く要求してくれた。
だんだん守備をするようになって、逆に良い形で奪えて、自分がやりたいプレーができるようになりましたし、チームにとっても自分にとってもプラスが大きいことに気づきました。自分の好きなことしかしない選手だった僕が、今では『チームのためにやらなければならないこと』として、当たり前になっています」
感情的になるシーンはまだあるが、昨年と比べると大きく減った。今年のインターハイでは2回戦の大津との優勝候補対決では、前線からの鬼気迫るハイプレスを見せ、何度も馬力ある突破を披露。1、3回戦で1ゴールずつ挙げて、ベスト8入りの原動力となった。
日大藤沢との準々決勝。チームは前半終了間際に失点し、0−1の状況で試合終盤になると、猛攻を仕掛けた。しかし、ここで郡司とチームメイトがピッチ上で口論となり、試合にも勝てなかった。
ただ、この言い合いは端から見ていて、ネガティブなものではなかった。この試合、確かに市船はリズムに乗れない展開が続き、全体的な雰囲気は良くなかった。お互いが持ち味を発揮できないまま試合が進んだことで、郡司なりに喝を入れた言葉が発端だった。お互いが「この状況をなんとかしないといけない、勝ちたい」と思ったがゆえの衝突であった。
「あの試合は自分たちでリズムを崩してしまった。立ち上がりから試合の入りが悪すぎて、パスが全然回らなくて、全体がイライラしてしまっている雰囲気でした。ここで立て直せないと、インターハイや選手権のようなトーナメントではズルズルと行ってしまって負けてしまう。それを分かっていたのに、修正できないまま時間が過ぎていったので強く言ってしまいました。
でも、僕らにとってはチームとしての課題と教訓がものすごく色濃く出た試合だったので、価値があるものだったと思います。チームとして1つになれないと、ああいう雰囲気になって、そのまま結果につながってしまうということを全員が気づけたことで、よりチームとしてのまとまりが出たと思います」
実際に試合後は郡司をはじめ、選手たちがしっかりと話し合っていた。その後もチームとして話し合いを行ない、スタッフともコミュニケーションを密にとった。郡司の言葉通り、この日大藤沢戦を境にチームはまとまり、郡司自身も仲間を鼓舞する声が増えた。
そしてプレミアEASTではゴールを量産し、早い段階で残留を決め、10月には清水への加入内定が発表された。
「いくつかのクラブに練習参加させていただいたのですが、僕にとって一番やりやすい環境がエスパルスでした。練習参加した時に感じたのは、動き出したらすぐにパスが来ること。特に乾貴士さんは本当に上手くて、トラップの技術が抜きん出ていました。
ライン間で速いボールが来ても、ピタッと意図する場所に止めることができますし、多少ずれても問題なく止める。顔が上がっているので、フォワードの動きを絶対に見逃しませんし、本当にやりやすかったですし、これがトップレベルの選手かと思いました」
自分の武器を引き出してもらえる環境と、参考になる選手の存在。さらに乾から大切なことを学べたという。
「技術もそうなんですが、乾さんは常に休みなく細かく動き回っていて、大事なところに必ずいるんです。サボらないというか、ボールがなくても常に頭と身体を動かしている。ここは見習わないといけないと思いました」
ボールが来てから仕事をすればOKではない。ボールが来た時に最高の仕事ができるように準備し続けること。この重要性を学んだことで、市船で磨かれた「やりたくないことをやり続ける」という信念はさらに強くなった。
プレミアEASTで12ゴールを挙げて得点ランキング4位に入り、チームも5位でフィニッシュ。そして選手権予選でも決勝の日体大柏戦でハットトリックを達成し、昨年のリベンジと共に2年ぶりの選手権出場を手にした。
「自分のダメなところは少しずつ改善されていると思います。『イライラしたところで変わらないし、ファールを受けたとしても、ファールにならなかったとしても、何を言っても判定が変わるわけじゃない。だったら切り替えて次のプレーをしよう』という波多監督の言葉は常に心に留めています。これから僕はプロの道に進むからこそ、より大人になっていかないといけないと思っていますし、今のうちにきちんと変えておかないといけない」
自覚が芽生え、大事にその芽を自分なりのペースでしっかりと育んできた。選手権に向けて大人になろうとしているストライカーは、最後にこう意気込みを口にした。
「最後の選手権で日本一を取りたい。市船のエースとして全力で勝利に貢献したいと思います。楽しみでしかありません」
高校最後の冬の大舞台へ。純粋な心と真っ直ぐな情熱を持っている郡司は、周りのアドバイスに耳を傾け、自分と向き合いながら着実に成長という名の階段を上っている。
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
