W杯の試合会場に現れたラグビー芸人・しんや、ジャージの胸には資金援助をしてくれた先輩芸人らの名前も【写真:本人提供】

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ピン芸人・しんやがフランスで注目の的に、体を張る背景にある情熱とは

 ラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会中に現地で活躍する日本のお笑い芸人がいる。ラグビーネタで勝負するピン芸人・しんや、33歳。4年に一度の祭典を観戦するため、自費でフランスに渡った。現地では日本人ファンだけでなく、海外ファンや選手と交流し、YouTubeとSNSで珍道中を発信中。日本戦の客席で大興奮する様子は国際映像のカメラにも映し出され、話題となった。

 しかし、渡仏前は貯金残高たったの477円、さらに借金も……。生活費を削り、体一つで勝負するのはなぜなのか。前編では、強豪・帝京大まで競技を続けた男のラグビー愛に迫る。体を張る裏には、競技の魅力を届けたいという情熱があった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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「ありがトライ!」。ラグビーを絡めた挨拶ギャグを繰り出す様子には、切羽詰まった様子はない。

 8月中旬、都内に住むしんやは何が何でも渡仏するつもりでいた。11万円の家賃や保険料などを払い終え、さあこれからという時に通帳を確認。「残高477円」。衝撃の数字だった。しかも、フランスの宿泊場所、航空券すら決まっていない。でも、縁あって日本の開幕戦チケットはある。現状をSNSにつづった。

 すぐさま連絡をくれたのは、普段から可愛がってもらっている先輩芸人の和牛・川西賢志郎。「口座を教えなさい」。翌日、渡航には十分すぎる額が振り込まれていた。「とりあえず航空券を買い。出世払いでええから」。多くは語らず、しんやはそのまま受け取った。

 アルバイトはしておらず、仕事はお笑い一本。ラグビージャージを来て劇場やイベントを盛り上げるが、10万円ほどの月収は家賃で飛んでいく。芸歴5年目。まだ食事は先輩にご馳走になることが多い。

「吉本興業のいい文化です。普段からギリギリで生活していて(笑)。川西さんが自分の投稿を見て、SOSだと思ってくださったみたいです。他の芸人と吉本興業からも借りているので、スポンサーみたいにしてジャージに名前を入れました」

 感謝を胸に刻み、開幕前日の9月7日にフランス入りした。最初はドミトリーなどの安宿で過ごすつもりだったが、知人から空き部屋を提供すると連絡。しんやがYouTubeやSNSで現地のラグビー熱、自身の珍道中を日々発信する様子を見たからだった。

 ありがたい話は増え、経費を抑えながらフランス各地を転々。パリやリヨン、ニースなど電車で数時間をかけて移動し、日本戦3つを含む6試合を生観戦した。チケットのない試合はパブリックビューイングで現地の人と熱狂。日本ジャージを着れば外国人から応援され、持参した他国のジャージを着れば、すぐに絡んでくれて仲良くなれる。

 試合会場では186センチ、110キロの巨体がよく目立つ。「会えるかわからないけど、しんやさんにお米を持ってきた」と日本のラグビーファンが“救援物資”を恵んでくれた。ウェールズ―ポルトガル戦の余ったチケットをくれる人も。

 実は日本の第1戦も、たまたまペアチケットに当選したファンが「一緒に見ませんか?」とSNSでメッセージをくれたことで観戦できた。

「お礼に『食事をご馳走します』と言うたんですけど、お金がないことを知ってくれていたのか、『いや、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます』って。たくさんサポートしていただいています」

 サインや記念撮影に応じ、一緒に過ごす時間を楽しませた。第2戦では客席で頭を抱えて悔しがる瞬間がたまたま日本の中継に抜かれ、第3戦では姫野和樹のトライ直後に「嬉しんや!」とポーズを取るシーンが国際映像に登場するなど話題に。「いろんな人からめちゃくちゃ連絡が来ました!」。渡仏してから、日本テレビ系の朝の情報番組「DayDay.」から中継リポートのオファーをもらった。

 逆境を突破する行動力が仕事を呼び込む結果に。英語はできなくても、会場周辺で海外メディアに取材攻めを受け、魂でラグビー熱を届けた。先輩がお金を貸してくれたのも、ファンがサポートしてくれるのも、オモシロさと実直なキャラクター、加えてバカバカしさと可愛げがあってこそ。

なぜここまで情熱を注げるのか「ラグビーの魅力は人のために行動するところ」

 でも、もう削る身がないほどの身を削る生活なのに、なぜ体一つで海を渡り、ここまで情熱を注げるのか。

「シンプルに『まずは行ってみたい』というのが一番デカいんですよね。自分はラグビーありきの人生。現地に行って感動を味わいたい。熱狂とお祭りのような大会を楽しみたいんです。あと、『悩むんやったらやれよ』っていう性格。行きたいから行く。だから、そこまで渡仏を大ごとには思っていないんですよ」

 帝京大を卒業後は約5年間、一般企業の営業職を経験。吉本興業のタレント養成所NSCを経て、芸人人生が始まった。2019年のW杯日本大会は芸歴1年目。「ほんまに何もわからん状態」と、もらった仕事に体当たりしたが、次に繋がらず。試合会場にも行けないまま終わった。

 今回こそは現地で感動を味わいたい。帝京大時代は1つ下に中村亮土、2つ下に流大、3つ下に坂手淳史と今回の日本代表がいた。彼らが中心メンバーでいられる大会であることも強行渡仏の理由。身を削りながらW杯を満喫している。その裏には強いラグビー愛があり、お笑い芸人として楽しく、熱く、競技の魅力を届けていきたいという想いがある。

「ラグビーの魅力って、人のために行動するところだと思うんですよ。自分はロックというポジションでした。目立たないけど、凄く体を張れる。ラグビーは人のために身を削るものなんです。人のために行動することが、結果的に自分のためにもなっているんですよね。

 今はラグビー芸人の形でやってますけど、もともとNSCに入った時は漫才とかコントとかをやりたいと思って入ったんです。コンビを組んだけど、上手くいかず1人になって。じゃあ、何がおもろいかなと。自分の中では『ラグビーおもろいけどな』『あんまやってる人おらんな』ということでやってみたのがきっかけです。

 自分の中ではラグビーが一番おもろいスポーツと思ってるから、まずそれを知ってもらいたいです。まだ日本ではマイナースポーツ。『ラグビーをやってる人間ってこんなオモロイねんで』っていうことを伝えたいから、まずは発信しています。ラグビーに興味を持つきっかけになれたらいいかなって」

 日本が勝てば1次リーグ突破が決まる8日のアルゼンチン戦も会場で見届け、ラグビー熱を伝えていく。そんな明るさ全開のラグビー芸人だが、実は自身の現役引退はプレー中に受けた脳へのダメージが原因。先の人生が見えなくなった中、ラグビーに救われた過去があった。

(8日の後編に続く)

■しんや/お笑い芸人

 本名は松永真也(まつなが・しんや)。1990年5月21日、大阪市生野区生まれ。東生野中でラグビーを始め、大商大高、帝京大に進学。ポジションはLO(ロック)。一般企業の営業職で約5年働き、2018年春に吉本興業のタレント養成所NSC(41期生)入学。ラグビーネタを武器にピン芸人として活動中。19年にはラグビーを題材にしたTBS系ドラマの日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」に出演。WOWOWラグビー宣伝隊長を務め、「嬉しんや」「ありがトライ!」など名前やラグビーに絡めたギャグを持つ。ちなみに相方募集中。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)