左から橋本環奈、芦田愛菜、加藤清史郎

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 4月3日からスタートするNHK連続テレビ小説『らんまん』に期待の声が高まっている。

【写真】一度は引退もスカウトで再デビューした人気子役

 高知県を舞台に、植物学者・牧野富太郎の人生を描く同作は、1月に牧瀬里穂ら東京編の出演者が追加発表され、同日に公開されたメインビジュアルは、鮮やかな花々で装飾した帽子をかぶった主演の神木隆之介(29)の“天真爛漫”なイメージが印象深い仕上がりだ。

“ヒットした子役は、その後は大成しない”という呪縛も

 主演の神木はもちろん、ヒロインの浜辺美波(22)も「語り」を務める宮粼あおい(37)も子役から芸能界に入り、長らく第一線で活躍してきたスター俳優。一方で、古来、演劇界には「子役は大成しない」というジンクスも存在し、数々の子役出身俳優がその“呪縛”に苦しんできたことを物語っている。

 現在は舞台演出家や映画監督としても活動している俳優の黒田勇樹(40)もそのひとりだ。6歳で俳優デビューをして以降、1994年放送のドラマ『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』(TBS系)などヒット作も多いが、2010年に俳優業を一度引退。

 2021年に『ABEMA Prime』(ABEMA)に出演した際には、「子役が売れるのは、学園ドラマの仕事がある20歳くらいまで」「大学でしっかり勉強をした実力のある人が入ってきて、一気にふるいにかけられる」と子役大成の難しさを明かした。

「たしかに黒田さんが子役として活躍されていた時代は“ヒットした子役は、その後は大成しない”といった説がまことしやかに語られていました。同時代に活躍した安達祐実さんなども、子役時代の印象を払拭できずに悩んだ時期がありますね。ただし近年は、数々の俳優がジンクスを打ち破っています」

 そう語るのは、テレビ解説者の木村隆志さん。近年の子役出身俳優は、地に足をつけ、努力を重ねて息長く活躍する例が多いという。

「小さなころからテレビに出てチヤホヤされ、テングになって失敗……といった話は、今はほとんど聞きません。昔は学校で嫉妬されたり、いじめられたりといったこともあったようですが、今はテレビにちょっと出るぐらいじゃ誰も驚かない。むしろ、大人社会で礼儀やマナーを学ばせたり、社会経験の一環として芸能活動をさせたいという親の需要もあるほどです」(木村さん、以下同)

 とはいえ、デビューをした後、芸能界から早々に姿を消す子役が多いことも事実だ。

「芸能事務所でレッスンを受けている子たちを見るとわかりますが、芸能界を目指す子どもたちの能力が高くなっていて、競争は昔より苛烈です。日の目を見ないまま引退する人も当然いますし、一度活躍の場を得ても、そのまま長く続けられる人はそもそもひと握り。むしろ、芦田愛菜さんや本郷奏多さんなど、子役から一貫して活躍を続けているほうが、特殊なケースだと思います」

 子役が求められる環境にも変化がある。子役の登竜門である学園ドラマの減少だ。

「古くはTBSの『3年B組金八先生』にはじまり、フジテレビの『GTO』や、日本テレビの『ごくせん』など、定番シリーズの学園ドラマがなくなり、一定の視聴率が見込める職業モノなどの大人向けのドラマが多くつくられるようになっています。家族モノのドラマなどでは、依然として子役の需要はあるものの、ひとクラス分の人数の子役が必要となるような学園ドラマには到底及びませんね」

子役で売れなくても“経歴”として生かせる

 かつての『あっぱれさんま大先生』(フジテレビ系)や、今も続く『天才てれびくん』シリーズ(NHK・Eテレ)など、キッズタレントがメインとなるバラエティー番組も昔に比べて減少した。

「バラエティー番組は、子役にとってさらに狭き門。バラエティー子役はベテラン・中堅の層も厚く、例えば日本テレビの『踊る!さんま御殿!!』などに子役の枠があった場合でも、寺田心くんや村山輝星ちゃんぐらいのレベルの子が求められます。昔のように子どもらしさやかわいさだけでは通用せず、子役にもある種のクレバーさが求められる時代です」

 熾烈を極める子役の“いす取りゲーム”だが、その子役時代を勝ち抜いてきたからこそ“実力派俳優”に大化けする。

「戸田恵梨香さん、小栗旬さん、高橋一生さんなど、現在第一線で活躍している実力派俳優には子役出身者も多い。長いキャリアのなかであまりいい役をもらえなかった冬の時代もありますが、そこで諦めなかった結果、今の確固たる地位があるのだと思います」

 また、2003年にハリウッド映画『ラストサムライ』で世界デビューを果たした池松壮亮(32)や、2004年に映画『誰も知らない』に主演し、カンヌ国際映画祭で史上最年少かつ日本人で初めて男優賞を受賞した柳楽優弥(32)など、10代前半から脚光を浴び、今なお唯一無二の個性を発揮し続ける俳優も。

「子役時代のイメージを脱却できずに、世間に飽きられてしまうようなケースも多いなか、子どものころとはまったく異なる魅力を獲得して、経験値の高さで活躍を続ける方もたくさん出てきていますね」

 また、一度芸能界を離れた後、再度復活を果たす“リターン組”も増えている。

「CMで“こども店長”として活躍していた加藤清史郎さんは、イギリスの高校に留学し、帰国後に改めて俳優業をこなす日々。吉川愛さんは、かつては吉田里琴という名前で活動していましたが、2016年に一度引退。芸能事務所のスタッフにスカウトされて再デビューを果たしました。中学・高校の思春期に学業や将来のキャリアプランを考え直し、一度離れるというケースも多いですが、その選択は肯定的に捉えられることがほとんどです」

 一方で、過去の栄光にとらわれず、スパッと引退を決意する例も。映画『崖の上のポニョ』の主題歌でも有名な大橋のぞみ(23)は、人気絶頂の最中、学業に専念するという理由で2012年に引退。

「地方のアイドル活動から知名度を高めた橋本環奈さんや、フィギュアスケートと女優業の二刀流で活躍する本田望結さんのようなケースもありますが、芸能界以外に道を見つけて才能を発揮する人も多くいます。子役時代の経験はもはや黒歴史などではなく、自分の実績として堂々と武器にできる時代。YouTubeなどで配信者として活躍したり、実業家として事業を起こすなど、子役の成功というルートが多様化している証しでもありますね」

「神木さんは見た目も演技も歌唱も声も、何ひとつ欠点がない。好感度も高くユーモアも備えていて、まさに朝ドラの主人公にふさわしい。みんなの期待どおりに成長してきた稀有な子役の例でしょうね」

 史上最強の元子役・神木隆之介の今後の活躍が楽しみだ。

取材・文/吉信 武

木村隆志 テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト、コンサルタント。エンタメを中心に、人間関係、時事などをテーマに出演・寄稿。夫婦関係から職場まで、さまざまな悩みにまつわるコンサルも行っている